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落ち着いたところで、もう一度緑のジュースを飲む。今度は大丈夫だ。思っていたのとは違う味で驚いてしまったが、普通においしいジュースだった。オレンジジュースよりはすっぱめだが、ジュース独特のねっとりした感じはない。これなんの汁なんだろう……。
近い味を探しながら、ちびちび飲んでいると、先に食べ終わったイナリさんが立ちあがり、ベッド脇にあった紙袋をいくつか物色し始めた。
その様子をなんとなく眺めていると、するり、と一着の服とタオルを取り出していた。
「はい、これ」
わたしに差し出されたのは、薄紫のシャツワンピと、白いタオルだ。シャツワンピの裾には細かい刺繍が施されていて、思わずそこに視線が行く。
受け取ろうにも、わたしの右手はコップを持っているし、左手には食べかけのパンがある。
差し出してから、わたしの両手がふさがっていることに気が付いたイナリさんは、わたしの隣、ソファーの開いている部分にそれを置く。
「刺繍デザインが古いって売れ残ったやつだけど、まだはさみ入れてないし、着れるから。寝巻には十分でしょ」
「どうも……」
部屋に散らかっているものから見て、どうやらイナリさんは服飾関係のお仕事についているのかもしれない。
「僕、先にシャワー浴びてくるから」
そう言い残して、イナリさんは扉の向こうへと消えていく。
もくもくとパンを食べ進め彼が戻ってくるのを待っていたが、パンとジュースがすべてわたしのお腹に収まっても、彼が戻ってくることはなかった。長風呂派なんだろうか……いや、それとも獣人自体のお風呂が長いのかもしれない。イナリさんみたいにしっぽがふわふわで大きいと手入れも大変そうだし。
わたしのしっぽならそんなに時間かからないかな? と思いながらぼけーっと待っていると、なんだか眠たくなってきてしまった。
寝たらまずい……と思いながらも、怒涛の一日からくる疲労に、瞼があらがえない。
――こうして、異世界転生に続いて、千年後に転移してしまったわたしの一日目は、終了するのだった。
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