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一通り泣いて落ち着くと、今度は羞恥が一気にやってきた――のも一瞬。
「え、なにこれ死ぬの?」
息をするたび、声を発するたび、胸が痛くてたまらない。
日本で生きていたときも、シーバイズで生活していたときも、骨折なんて怪我をしたことがなかった。そもそも怪我自体に縁がなく、ちょっと擦りむいたとか、ちょっと手を切ったとか、ばんそうこうでカバー出来るくらいの怪我しかしたことがない。
骨折の痛みは洒落にならないくらい痛い。骨折ってこんなに痛いもんなの? わたしが慣れていないだけ?
お医者さんからは、一週間は入院して絶対安静、その後は家で療養らしい。完治には二か月程度かかるのだとか。
とはいえ、これだけの痛みがあって完治に二か月、と言われようともフィジャを助けて下敷きになったことは後悔していない。もしかしたらフィジャが頭から落ちていたら、わたしのように骨一本では済まない大怪我になっていたかもしれないのだから。
でも、迷わず魔法を使えなかったことには反省しかない。
シーバイズには冒険者なんて職はなかったし、魔物もいなかったけれど、憧れだけで魔法を取得していたわたしは、当然戦闘向きの魔法も取得している。
ダメージ軽減とか、防御力アップとか、そういう魔法を覚えたはずなのに。
こうして使えないなら全く意味がない。
わたしに魔法を教えてくれた師匠が、「お前は魔法を覚える情熱もあるし才能もある。ただ、魔法使いになる才能はないな」と常々言っていたことの意味を、今、身をもって理解させられた。
これだけ魔法を覚えて、覚える才能があるというのに、魔法使いの才能はない、ってどういうことだと、ずっと不思議だったのだが、簡単なことだ。
どれだけ魔法を覚えようと、当たり前のように魔法を使えなければ魔法使いではない。
現に、魔法使いの天才だと自他共に認めていた師匠は、息をするように魔法を使っていた。
きっと師匠なら、今回のことも、誰一人怪我させることなく、そして魔法を使ったと気が付かれることなく助けただろう。
まあ、フィジャを無事助けられただけでも良しとしよう。わたしと違って彼には仕事があるし、料理人なら下手に腕を怪我することもできないはずだ。
まあ、痛いもんは痛いんだけど。
こうしてフィンネル国に来て早々、ベッドの上で過ごす羽目となったのである。
いや、マジで明日からどうしよう。
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