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「そういえば、明日からマレーゼは何するの? ずっと家にいるのも退屈でしょ?」
昼食を取りながら、フィジャがそんな風に聞いてきた。
「今日までは休みだから、街中の案内でも、って思ったけど、明日からボクも仕事だし」
確かに、一日中家にいるのも暇だ。時間をつぶすものが何もない。
「うーん、とりあえず明日はやりたいことがあるから、暇ってわけでもないけど……」
明日は結婚の証にと買ったチョーカーに魔法付与をする予定だ。一日かかるものではないし、多分一時間もあれば終わっちゃうとは思うけど。でも、折角一日使えるなら、クール時間を設けて重複付与にするのもありだ。
健康でいられるように、病魔払いを付与する予定だったけど、幸運とか、ダメージ軽減とか……後者はウィルフさんに持ってこいだろう。
明日以降は道を覚えるために街中を歩くのもいいかな、と思っているが、一週間もすれば慣れるはず。長期的になにか時間をつぶせるものが欲しいな……。
あ、そうだ!
「フィジャ、図書館ある? あと、文具店とか。文字を勉強したいんだ」
会話はできるが、文字の読み書きはできない。フィジャの店で、伝票とかメニューとか、そういうもののために読み書きはできた方がいいはずだ。そうじゃなくても、出来て損はない。
「図書館かあ。あるけど、ちょっとここからだと遠いよ。歩けなくはないけど」
大体、フィジャの足で三十分くらいかかるそうだ。わたしだともう少しかかるかな?
まあでも、そのくらいなら歩けない範囲じゃない。交通手段が乏しかった田舎国の出身を舐めないでもらおう!
「大丈夫、歩けるよ。街に慣れるために、多少距離があった方がいいし」
そう言うと、今日は図書館に行って貸し出しカード作ろうか、と提案された。ありがたい。
子供向けの絵本から初めて……とりあえず、フィジャの家にいる間は児童文学くらいは読めるようになるのを目標にしよう。最低でも、辞書なしで絵本を読めるようにはなりたい。
「あ……っと、フィジャはよく図書館に行くの?」
「うん。レシピ本とかよく借りるよ」
「そっか」
一瞬、本とか紙とか貴重なのでは……? と思ったけれど、全然そんなことはないようだ。まあ、キッチンもガスコンロっぽかったし。原動力がガスかは知らないし、デザインもファンタジーっぽい、丸みがあって白とベージュ基調な感じだったけど、機能は現代日本のものとそう変わらなかった。
インフラ系だけでなく、いろんなものの生活水準が日本と変わらないとみていいかもしれない。あ、トイレは水洗でした。お風呂はなくて、シャワーだけみたいだけだったけど! シーバイズは銭湯がいくつもあって、お風呂にはことかかさなかったので、その点はショックである。
やっぱり心はどこかまだ日本人だし、お風呂には入りたい。
話戻って。
本が読めるようになれば、歴史の本も読めるし、マナー教養の本も読める。本当は言語理解〈インスティーング〉が使えればよかったのだが、体質に合わない魔法なのか、一つ覚えるたびに二週間くらい酷い頭痛に悩まされるのだ。二度と使わないと誓った魔法の一つである。あの苦痛をまた味わうくらいなら、一から勉強した方がよっぽどいい。
世界が広がることへわくわくしながら、わたしは早く行きたい、と言わんばかりに、スープを一気に飲み干した。
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