28
どたん、ばたん、と扉の向こうからあわただしい音が聞こえてくる。
さては……フィジャ、今起きたな? わたしも、イナリさんの家で寝落ちに気が付いて慌てて起き上がれば、もう朝だった! って時にはそうとう慌てたので、人のこと笑えないけど。イナリさんも起こしてくれればいいものを……。いや、結局は待ちきれず寝てしまったわたしの責任か。
イナリさんの家に泊まった翌々日……つまりはフィンネル国に来て三日目である。
昨日、また五人で集まって、話し合いが行われた。結果、家ができるまで四人の家を転々とすることになったのだ。大体、家ができるまでを16か月を目途として、四か月ごと家を交代することになったのである。
四か月ごと、とはいえ、大抵、週末には四人で集まって酒を飲む、という生活スタイルのようだったので、わざわざ会いに行かないと会わなくなってしまう、ということはなさそうだ。
ちなみに昨日は普通に宿泊施設で寝泊まりしました。どんなもんかな、ってちょっと興味があったので。
しばらく待っていると、扉が勢いよく開いた。あまりの勢いに、反射的に一歩下がる。ぶつかるギリギリだったが、扉を開けた本人――フィジャは慌てすぎて気が付いていないようだ。
「お、遅れてごめん!」
よほど慌てていたのか、ちょっと息が上がっているフィジャは、髪を下ろしていた。縛っていないからか、ぴょん、とはねている寝ぐせが目立つ。
「フィジャ、この辺の髪、はねてるよ」
わたしが、大体同じ位置の自分の髪を指さすと、フィジャはバッと髪を抑えた。
「ご、ごめん、みっともなくて……」
そう言いながら、フィジャは手首に付けていたヘアゴムで髪を一つにくくる。ハーフアップも似合っていたけれど、下で一つにくくるのも似合ってるな……。まあ、顔がよければどんな髪型でも大体は格好よく見えるものだ。
照れながらも、入って、と部屋の中を案内されたので、お邪魔します、とわたしは部屋に上がる。
「キッチン、広いんだね」
フィジャの部屋は1LDKのようで、大きいカウンターキッチンが目立つ部屋だった。生活感はそれなりにあるものの、イナリさんの部屋とは天と地のさがあるといっても過言ではないほど掃除が行き届いていた。
キッチンにはあれやこれや、調理道具と思わしきものがたくさん置かれている。一昨日食べた昼ご飯もすごくおいしかったし、料理上手なんだろう。
「ああ、うん。ボク、これでも料理人だからね」
料理人! なるほど、確かに納得だ。お店で出せるレベルの料理だとは思っていたが、実際にお店で出てる料理だったか……。プロの料理がタダで食べられる、というのは何とも贅沢な話だが、同時にわたしの料理を食べさせることになったらすごく緊張してしまいそうだ。
料理は不得意ではないが、得意というほどでもない。たまに食べれないくらいヤバい失敗をすることもあるし。それはまあ、本当に、たまにだけれど。
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