07

 まあ、確かに、イエリオさんの言い分は分かる。彼らの様子からして、千年後の現在は魔法自体が廃れているようだし。昔あったかもしれないロストテクノロジーの中でも、ひときわ珍しく、成功者が極端に少ないものが本当に存在するとは思わないだろう。わたしが生きていた時代ですら、魔法に精通していない人にしたら、希望〈キリグラ〉はおとぎ話のような扱いだったのだから。


「というか、その……」


 フィジャの声。横をちらと見れば、頭痛がする、と言わんばかりの様子で額を抑えていた。


「ボクの記憶が正しければさ、イナリのお嫁さんじゃなくて……ボク『ら』のお嫁さん、じゃなかったっけ?」


 これ以上、冷えることがないだろうと思っていた空気が、さらに凍えた気がした。


「イナリは覚えてない? イエリオは酒が入ると記憶が飛ぶタイプだから期待してないけど」


「……昨日は深酒したから、あまり……」


「ボクの記憶違いかもしんないけどさ。確か、イエリオが魔法でお嫁さんを、って言いだした時、『どうせなら俺らの嫁を願おうぜ』ってウィルフがさ……言ってた気がする……んだけど」


 その言葉に、耳が痛くなるほどの沈黙が訪れた。ウィルフ、という聞き覚えのない名前のことを聞ける雰囲気じゃない。まあ、わざわざ聞かなくとも、おそらくはあの二足歩行の犬に見える獣人の人だろう。

 非常に気まずい中、わたしは勇気を振り絞って声をあげた。


「それは……その、わたし以外にも、誰かが来る、という……?」


 残り三人がわたしと同じく千年前からくるとは思わないが、見知らぬ土地からここに呼ばれる可能性もある。混乱するのでは、探しに行った方がいいのでは、と提案しようとして、イナリさんに首を横に振られた。


「獣人は……一夫多妻の制度も一妻多夫の制度もあるから、多分……その……」


 イナリさんは言葉を濁し、最後まで言わなかったが、彼が言いたいであろうことは何となく把握できた。

 それってつまり……わたし、四人と結婚しないといけないかもしれないってことでしょ!?

 長い沈黙の後。声を上げたのは、またしてもわたしだった。


「……分かりました。選ぶ権利がないのは申し訳ないですが、皆さん、結婚しましょう!」


 これが普通の女の子だったら、嫌だ、帰りたい、と嘆くだろう。


 けれどわたしは異世界転生者。


 唐突に世界が変わってしまうことも、前の世界での大事なものを諦めることも、一度経験しているのだ。順応性は高い方だと自負している。


 というか、こうして大人のまま世界が変わってくれるだけマシだ。

 転生したときは赤ん坊から記憶があったので、それはそれは酷い目にあった。自我と羞恥があるのにもかかわらず、問答無用で赤ん坊として育てられる屈辱。おかげで今の親は、嫌いじゃないがなんとなく顔を合せるのが気まずい。それと比べれば、どうってことない気になれてくる。

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