03

「――っは!」


 気がついたら知らない場所……ではなかったが、良くわからない状況だった。

 先ほど、酒盛りの残骸が載っていたテーブルはすっかり片付けられ、お茶が置かれていた。


 わたしはいつの間にか席についていて、あのウサギ耳の彼はぺらぺらと何かを話している。ついさっき意識がはっきりし始めたので、会話の内容は理解できない。

 うさぎ耳の男の隣はイナリと呼ばれていた男性。一応席にはついているものの、話しかけないでくれという空気を出しつつ、全力で気配を消しながらお茶をすすっていた。


 まあ、これだけ捲し立てるような会話をされれば話しかけないで欲しいと思うのも無理はない。きっと、わたしの意識がどこか遠くにいっていることにも気がつかず、ずっと話していたのだろう。そんな相手との会話を切り上げることは容易ではないと思う。


「……あの、これどういう状況ですか?」


 話の切りどころが分からないとはいえ、このまま聞いているわけにもいかない。

 わたしが半ば強引に割り込むと、男は不思議そうに首を傾げた。


「おや、前文明について語り合っていたではないですか」


「ええー、イエリオが一方的に話してるだけだったよぉ」


 わたしの反論よりも先に返す声があった。声の発生源はすぐ隣。目の前ばかりに気をとられていたので隣に誰かが座っていることに気がつかなかった。


 驚いて思わずそちらを見れば、オレンジと赤のまだら模様という不思議な色合いの髪をハーフアップにした男の子がいた。にっこりと笑みを浮かべ、目を細めている。

 彼もまた獣人なのか、頬や腕など、露出している部分に髪と同じ色の鱗がところどころついているのが見える。爬虫類系なのかな?

 びっしりと鱗がついているわけじゃないので、あまり嫌悪感は感じない。まあ元々、爬虫類が苦手というわけでもないし。あと、純粋に顔が整っているので、鱗がただのアクセントにしか見えない。刺青のようだ。


 じっくり見れば刺青とは全く違うのが分かるんだけど。


「ボクはフィジャだよ、よろしくね。フィジャって呼び捨てでいいよぉ!」


 少年とも青年とも言える曖昧な年頃に見える彼は、声もまた男にしては高い声で、年齢な分からない。

 しかし、こうして名前を教えてもらえて、よろしくと言ってくれるなら、警察、もとい警兵にはつきださないでくれるのだろうか。


「え、あ、マレーゼです。よろしく……?」


 自己紹介を済ませると、フィジャはうん、と笑ってくれた。


「えっと……それで……ここが千年後の世界だと仰ってましたが……え、本当?」


「そこから聞いてなかったのですか?」


「放心してるマレーゼを無理やり座らせてすぐ話し出したのはイエリオでしょー?」


 混乱するわたしに、呆れた様な声をフィジャは上げた。しかし、うさぎ耳の彼、イエリオさんはフィジャの声が耳に入っていないようで。わたしの言葉だけを取り上た。


「千年後……?」


「シーバイズが千年前の災害で滅んだ文明だとか、なんとか……。でも、わたし、シーバイズに住んでたんです! 大島の街にでて、雨に降られたから転移魔法を使って帰ろうとしたらここに出ちゃって……」


 その言葉に、俄然、イエリオさんの目は輝きを増した。


「本当ですか!」


「そんなわけないでしょ」


 イエリオさんの弾む声を、疑うことを知らんのか、と言わんばかりに否定したのは、ずっと黙っていた男性――イナリさんだった。

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