09
王都・シュロシュスタットは、今までにないほど《動く死体》がひしめいていた。みんな、あてもなくさまよう足取りなので、少し歩いては別の《動く死体》や建物の壁に当たって方向転換し、また少し歩いてはぶつかり方向転換をし、ということを繰り返していた。とてもじゃないが、《動く死体》の間を通って目的地を探すということは不可能だ。
リーデルたちは屋根の上に上り、屋根から屋根へと伝って王都内を移動する。
「しかし、途中の街で武器を調達できてよかったな」
地下牢に閉じ込められていたあの町の武器屋はすっからかんだったのだ。本来の武器を取り返そうと自警ギルドに戻ったのだが、取られたリーデルの剣もナイフも誰かに使われたようで、とても使えるような状態で残ってはいなかった。
使い慣れていない剣、というのは心もとなかったが、今は贅沢を言ってられない、とリーデルはため息を吐く。
「確かに、武器ナシはちょっと……」
キキョウがそう言い、屋根の上から下の方を見下ろす。キキョウの魔力に反応しているのか、上を見上げ、キキョウに寄るように《動く死体》が歩きだす。最も、よじ登ったり、室内の階段を使ったり、という頭がないのか、手を伸ばすだけだ。
「キキョウ、あんまり覗き込むなよ。落ちるぞ」
「分かってる――きゃっ!」
キキョウが悲鳴を上げる。落ちたか、と思ったリーデルだったが、どうやら違うらしい。
屋上のある家から《動く死体》がキキョウに手を伸ばしていた。すでに魔法生体の影響を受けていたのに気が付かず、屋上まで逃げた人間がいたのだろう。
唐突のことに、パニックになったキキョウが、足を滑らせる。
「あ、ぶな――っ!」
リーデルは急いで手を伸ばし、キキョウを抱きかかえる。そのまま《動く死体》から距離を取った。
キキョウをバランスがとりやすそうな屋根の上に下ろし、リーデルは前に出る。
キキョウを襲おうとした《動く死体》は、首筋から血をぼたぼたと垂らしていた。噛みつかれたのか、肩口は大きくえぐれ、首は三分の二程度しかない。
もう助からない。そう、確信できるほどの傷。
「――悪いな」
なおも手を伸ばし、キキョウを求めてくる《動く死体》の首を、リーデルは切り落とした。
ごろり、と首は屋根の上を転がって下に落ちていく。首から下だけとなった《動く死体》は、がくり、と一瞬うなだれたものの、また動き出した。
「な――っ!」
首もなしに動き回るその姿は、不気味そのものだった。
頭がなくともキキョウの居場所が分かるのか、ずず、と重い足取りで《動く死体》はこちらへと向かってくる。
首をはねれば終わる、と思っていたリーデルは焦り出す。大抵の魔物は頭を失えば絶命する。しかし、《動く死体》が動きを止める様子は見られない。
どうすれば死ぬのか分からず、いっそ突き落とすしかないか、とリーデルが剣を構えなおしたとき、《動く死体》は突如、炎上した。
ごう、と燃える《動く死体》が崩れると、その先に、先行していたはずのヴァンカリアが立っていた。
「もー、危ないな! 人間の死体を素材にして、魔法で動いてるっていったでしょ? アンデットとは違うんだから、首をはねたところで体が残ってれば動くよ、これは」
ヴァンカリアは、とん、とん、と軽やかな足取りで屋根をつたい、リーデルとキキョウの元へ来る。
「悪い、助かった」
「いーえ。それより、見つけたよ。手記にあった男の貸し部屋」
目的の場所を見つけたというのに、ヴァンカリアの顔は曇っていた。その理由を、リーデルたちはすぐに知ることとなる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます