elf'nKnight mare

米堂羽夜

section 01 冒険の始まり

第1話 門出の儀式

 幼少期に読んだ物語と言うのは自然と頭から離れる事なく憧れに繋がりやすい。それは種族を問わず冒険者を目指す者ならよく聞く話だ。ましてや、長い年月を生きるエルフの脳なら尚の事記憶に残りやすい。何故なら彼らにとって童話と言うのは単なる物語ではなく、自らの父母がその目で見た英雄達の背中だったりするからだ。


 ちなみにこの世界のエルフは複数種類居るが、所謂純血と呼ばれるエルフ種の寿命はエンシェントエルフ(古代種)が推定2000歳、ハイエルフ(高位種)が推定1500歳、エルフ(純血種)が推定1000歳である。


 閑話休題。


 今宵新たに始まるのは、物語に憧れたとあるエルフの冒険譚。果たして彼の紡ぐ物語は英雄譚となるのか、はたまた道半ばに斃れ後世の冒険者に語られる経験譚になるのか。


 ※※※


 最後に見た満月から丁度15回日が昇ったある日。エンシェントエルフの血が流れている里長から許しを得た青年エルフが、自らが住む大森林を抜けて外界へと出立する為、儀式へと赴いた。儀式の内容は外界へ向かう理由により異なるが、冒険者となる為に大森林を出る彼に求められたのは野生の魔物を狩る力量があるかどうか、危機管理を行えるかどうか、そして冒険を行う勇気と蛮勇を諫める自制心があるかを見られる。


「儀式の内容は大森林に住まうコボルトの討伐。討伐数の上限はないが最低3体の討伐を目標とする。また、討伐数によっては門出を認める他褒賞も与えよう。日数の上限は3日。それ以降は生死不明と見做し捜索隊を出す。尚、3日以内に大森林内で続行不可能と自ら判断した場合はこのスクロールを使うと良い。」


 里長の息子に当たる次期長から一巻のスクロールが手渡される。中には転移の魔術印が刻まれており、いつでも里の広場へと戻ってこれる。


「尚、儀式の目標を到達した際にこのスクロールを利用して戻ってくる事は禁ずる。あくまでこれは実践的な冒険として行う事。常に転移で戻ってこれるとは限らない。自らの足で進み、自らの足で戻ってこい。」


 険しい表情をしたまま説明を終えた次期長が一歩下がる。その後ろには里長が小さく頷き杖を空に掲げる。


「今宵は新月。我らエルフにとって最も力が失われる日。己が賦術をもってこの儀を超え新たな英雄となれ。これより出立の儀を始める。」


 里長が掲げた杖の先が燦然と輝く。その輝きと共に集っていたエルフ達は歓声をあげ彼らが作る道を青年エルフが歩み始める。日の光がまだ東に位置する時刻に儀式は開始された。


 ※※※


 里を囲う余所者を退ける結界を通り抜け大森林に入る。里自体が大森林の奥地にある為周囲は木々の草葉で暗く視界が悪い。更には、定められた道順から外れると元の道に戻る事が困難な上に、里の中でも強者として崇められている物達が束にならなければ勝てない程の危険生物も住んでいる。青年エルフは単に討伐するだけでなく、手渡された地図を正確に読み取り、道を正しくマッピングする必要もあった。


 道中何度か休憩を挟みつつ歩く事約半日。日が傾きかけてきた頃に漸く目的のコボルト達が縄張りを張りやすいと聞いた地点に着く。大森林の中でも比較的明るく、1時間も歩けば小高い木々より膝下程度の草原の方が広がる大森林の端に着く地点だ。とは言え既に時刻は夕方。種族柄夜目が効くとは言え日照時よりも危険性が高いので今日は急いで野営の準備を始める事にした。


 冒険者の野営と言うと大抵イメージされるのは雨風を凌げる皮製のテントに火を起こして食事を摂る姿だが、それはあくまでも街で生活する人族の姿であり、森で生活するエルフの野営方法は悪く言えば原始的な方法である。まず、周囲の木々を確認し根本に空洞があるか確認する。もし軽く穴を広げれば入れそうな空間があるならその穴を利用し、なければ今度は枝元がしっかりした木を探す。周囲を見たところ根をしっかりと地面の下に隠した木々しか見当たらない辺り、この辺はどうやら木の上を寝床にした方が良さそうである。


 その後、寝床にする予定の木を中心に一定の範囲に"鈴の実"と呼ばれる、振ると音が鳴る実を一定間隔に縛り付けたロープを地面から10cm程浮かせた高さで張り巡らせる。所謂鳴子の罠だ。それらの作業を終えた後木の上に登り、漸く体を休める事が出来る。


 ちなみに他の人族や街生まれのエルフならば食事を摂り体を動かす為の活力を蓄える必要があるのだが、森で生まれ育ったエルフにとって夜の食事は必要がなく、その代わりに月光浴を行う事によって活力を巡らせる事が出来る。勿論月の満ち欠けによっては回復力に差が出るものの、大きな怪我をしていない限り新月の様な月の出ていない時でも回復は可能である。青年エルフも今までの日常と変わらない様子で月明かりを受けながら目を閉じ眠りに着いた。

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