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 あれっ、ライバルヒロインの『姫鶴』……だよね? わたしは思わずまじまじと彼女の顔を見てしまう。幸いにも、彼女の方は、わたしがじっくりと顔を見ていることに気が付いていない。

 公式サイトで見たときよりも、随分と大人っぽい印象を受ける表情をしている。公式サイトや共通ストーリーでは、もっと、子供っぽいというか、もっとぶりっ子してる感じの子、だったと思うんだけど……。明らかに改造してる黎明学園の学生服も、随分と本来のものに近いような気がする。スカート丈が短めだったり、着崩したりはしているみたいだけど、フリルをこれでもか、と使っていて、着物や袴よりも甘ロリに近いような衣装になっていた公式サイトの立ち絵とは全然違う。


 顔だけは『姫鶴』だけど……双子の姉とか? そんな設定あったっけ? ストーリーパートを詳しくしらないから、もしプレイ済みの誰かに、「実は姫鶴には双子の姉がいる」とか言われたら納得できるけど。


「――貴女のくれた薬のおかげで、青慈が助かったの! 本当に、ありがとう……っ!」


 感極まった様子で涙をぼたぼたと流す彼女だが、当然、今の私には全く心当たりがない。記憶をなくす前のわたしが、彼女に渡したものなのだろうか。

 薬、薬ねえ……。万道具に分類される薬はいくつかあるが、記憶を奪うものだったり、身体能力を高めるものだったりと、怪我や病気を治すようなものはない。薬じゃなければ、治癒の万道具もあるんだけど

 助ける、なんて感じのもの、あっただろうか? 薬というとどうしても病気を治すものという先入観があるからか、万道具の薬の『助ける』活用法がぱっと出てこない。


 そもそも、ゲーム内で作れる万道具の薬なんて、たいした種類ないし。

 一般的に、病気や怪我のための薬は、普通に薬剤として売られているから万道具には分類されなかったはずだ。そんな説明が、ロード画面に表示される、攻略キャラのミニキャラが喋っていた記憶がある。……というか、青慈って攻略キャラの名前じゃなかったっけ?


 流石に、以前のわたしが薬学にも精通していたとは思いにくい。わたしが知っている範囲では少なくともそんな設定が提示されていたことはなかったし、いくらゲームとはいえ、万結はまだ二十歳にもなっていない年齢。人に薬を売れるだけの知識と技量、そして視覚があるとは思えない。


 となると……ゲーム内で作れる、図鑑にのる分だけの万道具が全てってことはないだろうし、もしかして、わたしの知らない万道具の薬があるってこと……?

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