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夢中になって展示物を見るわたしに遠慮してか、透くんは話かけてこない。さっきまでなんか妙に甘い空気になっていたのが気のせいのようだ……!
いや、わたしはこれが目当てで来たわけだし、それは透くんも分かってるし……。万道具の情報に浸るのは勿論、技術を盗めるなら盗みたいし、新しいアイディアへの刺激になれば、と思って来たわけで。普段から万道具中毒者のわたしが夢中になるのは分かり切ったことである。自分で言うことではないが。
「――わあ!」
わたしは一つの万道具の目の前で足を止める。
温度計の役割をするという万道具。小さな子猫のような形をしていて、温度によってポーズが変わるらしい。正直欲しいし作りたい。でも、現在だとこの子猫を作る素材が禁制品となっていて、合法的に入手する手段がないと、説明文が展示されていた。
明らかに違法薬物に片足突っ込んでいるようなジゲナの木の葉っぱは普通に流通しているのに……。どういう基準で禁じているんだろう。
「ね、ね、見てみて、これかわい――あれ?」
そんな説明の万道具に思わずときめいてしまい、透くんの袖を引っ張ろうとして――わたしの手が空を切った。
びっくりして振り返ると、居ると思ったはずの透くんがいない。透くんだけでなく、誰もいない。
わたしがあまりにも夢中になったからどこかへ行ってしまったのだろうか?
いや、きっと透くんなら一言声をかけてくれるはずだ。黙っていなくなるはずがない。
とすると、わたしが集中しすぎて彼をおいていってしまったに違いない。
そう思い、慌ててホール内を探してみるが、そこに透くんはいなかった。
……これは、迷子!
当然わたしが、である。ここで透くんったらしかたないなあ、と言うわたしではない。やば、合流できるかな。
別々になってしまうことを想定していなかったので、もしはぐれたらここに集まろう、みたいな集合場所も決めていない。失敗したな……。
前世みたいにスマホがあればいいのに。この世界、電化製品の代わりに万道具があるくせに、電話は固定のものしかない。いや、わたしからしたら、万道具であんなにも機能が一杯あるスマホを再現するのが無理っていうのは分かるんだけど。
一応、一世代前の携帯電話に近い、連絡を取り合うものは存在するが、軍とか、そういう政治的なものでの利用しかできない。あれ、作るのにも素材を集めるのにも許可がいるんだよねえ……。
スマホは流石に世界観が壊れる、というのが制作陣の考えなのだろうか? 冷蔵庫や洗濯機は普通にあるのに……。
そんなわけで、わたしは透くんを見つけられなければ迷子として、校内放送をしてもらう他なくなってしまう。
この年で迷子放送をかけてもらうのか……。いや、確かに、学生でもおかしくない年齢だから、ギリ子供と言っても通る年ではあるけれど……。
迷子放送に頼るのは最終手段、とわたしは決めて、透くんを探しに行った。
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