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 赤希の解説を聞き終え、教室を後にする。流石に、他の教室でも解説してもらうのは、赤希にも、解説員の解説を聞きたい他のお客さんにも迷惑かな、と思い、教室を出るのと同時に分かれた。

 ちなみに、わたしたちが赤希の解説を聞いている間に詩黄は教室から消えていた。……姫鶴のところに遊びに行ってしまったんだろうなぁ。


 いくつか教室をめぐって展示品を見ていると、開けた場所に出る。


「……すっごい……」


 多目的ホールと言えばいいのか。校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下と併設して、広い空間があった。前世で通っていたわたしの中学、高校共に似たような目的の場所はあったが、公立だったためかここまで広くない。

 何百人も収容できそうなほど広々としたその空間には、様々な万道具の実物や、道具や素材の研究内容が展示されている。


 にぎやかな祭りの中、ここだけが真面目な空気がただよっていて、同時に静かだった。遠くから喧噪は聞こえてくるけれど、ここだけ切り取られた世界みたいに思える。

 展示内容を見れば、万道具の歴史についての研究内容みたいだった。


「すご、凄い!」


 わたしは思わずはしゃいで声を上げる。予想以上に声が響いて、ぱっと口元に手をやった。

 でも、興奮せずにはいられない!


 ここに並んでいるのは、万道具の中でも歴史的な価値があるもの。設計図が失われて作るのが難しくなってしまったものや、素材の一部が絶滅して二度と新しいものを作れなくなってしまったものだと、貴重な万道具がガラスケースにしまわれ、展示されている。


 他の教室は体験型で、それこそ先ほどの結び相のように触って、実際に万道具を使えたが、ここは違う。どれも展示されるだけで触れないし、横にある解説は長く、細かい。

 他と違ってかなり堅苦しい印象を受ける展示だ。だから、他より人気がないことは仕方がないのかもしれない。


 ――まあ、わたしにとっては楽園のような場所なんだけど!


 一品づつ、片っ端から吟味していく。

 前世のの便利な家電、化学製品を使っていたわたしにとって、万道具にはロマンを感じる。


 例えば、照明道具。スイッチ一つで照明が、とまではいかなくとも、ろうそくに火を灯せば事足りる。

 しかし、万道具はそうじゃない。

 わざわざ特別な魚を捕まえて飼い、常に餌や健康状態に気を配らねばならない水提灯をはじめ、磨き続けると発光する宝石をいくつも集めて詰めたり、花弁が淡く光る花を花束にしてみたり。メジャーなのはこのあたりだが、まだまだある。


 最短も最適もない。一つの結果を得るために、いろんな手段があるのだ。万道具のちょっと面倒だけれど種類の多いところがわたしは大好き。

 だからこそ、素材の組み合わせを変えてみたり、こういう使い方もできるかも、と新たな使用方法を探してみたり、そういうのを考えるのが楽しくてしかたがないのだ。

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