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わたしは透くんから離れて、少し距離を取る。彼も距離が違いことに気が付いて、気まずくなってしまう前に。……今日のわたしは、意識しまくりでなんだか駄目だな。
わたしは軽く頭を振って、展示の教室を目指して、透くんと共に歩き出した。
――でも、透くんがわたしを異性として好きかもって気が付いたからって、なんなんだろう。
なんなんだろう、っていうのはちょっと変だけど……。わたしは、彼とどうなりたいのかって言われると、ちょっと返答に困る。恋人になってデートがしたいとか、そういう、具体的なイメージが沸かないんだよね。
わたしの店があって、そこでわたしは働いていて。そして透くんがいる。
それ以上の何かがあってほしいとは、あんまり思わないのだ。
透くんやわたしが、それぞれ別の誰かと結婚した未来。透くんは店を辞めない、って言ってくれているから、わたしが結婚したときの場合を考えたほうがいいか。
わたしの夫になってくれる人は、可能であれば、うちの店で働いてほしいとは思っている。わたしが完全に万道具の製作や修理に関わって、客とのやりとりをしてくれると嬉しい。
そうしたら、わたしが工房に引っ込むことになるから、店で透くんと働くのはまだ見ぬ誰か。
――……。
……?
あんまり想像つかないな……。
どれだけ想像してみても、祖父以外の第三者があの店に店員としている場面が想像できない。
わたしの想像力が乏しいだけか? いや、そんなことないと思うけど……。一年もずっと二人きりだったから、いまいちピンとこないだけだろう。きっと。
じゃあ、透くんが結婚した場合はどうだろう。透くんはうちで働いたまま。でも、彼の奥さんがうちで働くとは限らない。
まだこっちの方が想像つくかも。……いや、つくか?
この世界の人間は、男にしろ女にしろ、嫉妬深い傾向にある。それこそ、ヤンデレとかあのレベルまで突っ切った人は少ないけれど、そうじゃなくたって、ずっと昔からの異性の幼馴染の店で二人きりで働くって、普通の女性だったら嫌がるだろう。
そうなったら、いくら透くんが、うちで働き続けたいと言ってくれたとしても、辞めることになるかもしれない。
それは……なんか、嫌だな。
透くんの婿入り万道具を作るつもり満々だったのに、いざ、透くんが結婚してどこかに行ってしまう、と思ったら、なんだか落ち着かない。
「――……万結さん? 展示の教室に着きますよ」
「えっホント!?」
廊下を歩きながら、悶々と考え込んでしまったが、明確な結論が出ないまま、わたしの意識はすっかり万道具へと奪われたのだった。
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