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そんなわたしだけど、食べられる素材、というだけで、料理をしよう、という発想はなかった。
「ちなみに、どんな効果があるんですか?」
「シルビオンの小金焼は記憶力アップ、タジロンの小金焼は疲労回復よ」
「ああー、成程。それは確かに……」
言われてからわたしは納得する。
シルビオンは雪ぎ香の追加素材でよく使われるもので、記憶をいじったり、忘れさせたりするタイプの万道具の効果を打ち消し、記憶を元通りにする効果がある。そう考えると、記憶を蘇らせる、っていう意味ではベストなのかも。記憶の保持や、記憶喪失の者の記憶を呼び戻すなど、医療系の万道具に使われる素材でもあるし。
タジロンはマッサージの万道具に使われることが多い素材だ。まあ、万道具に使うのは木材の方なんだけど、食べるなら葉っぱの方だよね。
「じゃあ、万結はタジロンの小金焼でいいかしら」
「そうですね、一つお願いします」
わたしは料金を姫鶴に渡す。
シルビオンの小金焼に興味がないわけではないけれど、あのパクチーの風味が消えていない限り食べられないし、駄目な味だったとき、困るし。
はい、と万結が作り置きしてあったタジロンの小金焼を、食べ歩きやすいような包装紙に入れて差し出してきたのを受け取ろうとして――。
「彼氏さんはどうしますか?」
――あやうく取りこぼすところだった。
なんとかギリギリ、落とすことなくタジロンの小金焼を受け取り、バッと姫鶴の方を見る。それはもう、いい笑顔をしていた。よ、余計なことを……!
「か、彼氏じゃないですから! ぼ、僕もタジロンの小金焼でいいですっ」
動揺したような透くんの声。彼の方を見れば、顔を真っ赤にしていた。
「はぁい、タジロンの小金焼一つー」
にこにことした表情で姫鶴が透くんにもタジロンの小金焼を渡す。
姫鶴は、渡し終わった後に、こっそりわたしに近付いてきて、耳元でささやいた。
「ほらね、言ったでしょ。あの表情を見ても、貴女が鈍感じゃなくて、透さんは貴女のこと異性として意識してないって、言えるのかしら?」
にこにこ――いや、にまにまとからかうような笑みを見せながら、姫鶴がわたしに問う。
ここまでくれば、もはや反論の余地はない。
それでも、認めてしまうのがなんだか照れくさくて、わたしは「知りませんって!」と言って、タジロンの小金焼にかぶりつくのが限度だった。
――……普通に美味しいな、これ。
「美味しいですね、これ! わたしも研究してみようかなぁ……」
思わず声に出して姫鶴に伝えれば、彼女の笑顔は呆れたようなものに変わったのだった。
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