その都合の良さは誰のもの?
Uzin
異世界への転移
ある晴れた日の昼下がり
東京都八王子市、東京の郊外と言って良いここ閑静な住宅街の一角に、都内の商業高校としては最も浅い歴史を持つ高校があった。
その高校の名称は、都立第六商業高等学校。
その名の通り都立の商業高等学校の内、六番目に創立された高校であり、通称六商と呼ばれるこの高校は、東京郊外という立地と相まってかなりのゆとりある敷地面積を保有している。
この学校の関係者の現在の総数は、生徒数三百九十四名。それに対して教師陣は校長と教頭を含め三十三名。これに用務員と養護教諭がそれぞれ一名ずつで、全てを合わせると四百二十九名になる。
創立は今から遡る事三十年前の一九九〇年、翌年に崩壊するバブル景気の足音が誰にも聞き咎められる事無く響きだした年の開校である。
当時の潤沢な資金を惜しげも無く投入して確保した敷地と建てられた校舎は、三十年という歳月の中徐々に劣化という歴史を刻んでいる。
華々しいバブル経済真っ只中に産声を上げた校舎は、バブル崩壊と平成不況を乗り越えたものの少子化の波を受け、想定していた生徒数を割るようになって久しく。どこか閑散とした印象さえ与える程だ。
余裕のある時代に建てられ、余裕のある敷地面積を確保した結果がこの何とも侘しい静けさになるとは、当時バブル下に生きていた関係者は誰も思いも付かなかっただろう。
閑静な住宅街に立つ、閑静な校舎。
もはや皮肉にしか聞こえない学校の情景。その脇の道を一人の男が歩いていた。
彼の名前は
年の頃は三十八、縁無しの眼鏡を掛けワイシャツとスラックスという軽装の出で立ち。
持ち物もスラックスのポケットにスマーフォンに財布にカード入れにICカードを入れたケースのみ。
勤めている店舗から最寄りのチェーン店の中華料理屋に向かう為、貴重品のみを持った気軽な散歩だ。
光景としてはありきたりな光景、やや痩せ型ではあるものの平均的な日本人の風貌を兼ね備えた一人の男性が、勤め先近くの飲食店へと歩く姿である。
そんな長閑な風景はなんの脈絡も無く消失した。
この日、東京都八王子市に存在していた第六商業高等学校とその周囲数メートルの範囲が忽然と消失し、そこに見えるのは剥き出しの地面のみとなった。
特に事前に異常が観測される事無く現代に引き起こされた神隠しは、瞬く間にあらゆる情報媒体を駆け巡り、その情報が流布されていく。
何故なのか?どうやって?等の疑問が何一つ解決しないまま、特に解決策も立てられないまま時間が過ぎていく。
そして、何もかも判然とせず、いや判然としないままだからこそ、この事件は時間の経過と共に風化していき、一部の物好きと他者から呼ばれるような者以外からは、一切関心が向けられなくなっていった。
時は西暦二〇二〇年。
コロナが地球上を駆け巡り、マスクをするのが日常となった世界での一幕である。
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