12.やっとランチタイム
「な、舐めた真似なんて、わたくしは」
「ねえ、コートニア様。新人の方をいじめてはだめですよ?」
焦りの色全開なコートニア様対余裕綽々の笑顔ただし怖いオーラ全開のピュティナ様、どう考えても勝負の行方は見えまくっている。
ドナンがかっちり固まっているのに対し、エイクは遠い目でどこかを見てる。平然としてるのはエンジェラ様とゲルダさんくらいだな。私は面白がって見てるだけだけど……あ、緑っぽい髪のエイクより更に年下の男の子がいる。あの子、ピュティナ様の小姓かな。。
「わたくしはいじめてなどおりませんわ。ただ、聖女としての心構えを」
「いやですわあ。エンジェラ様にはお家の格で敵わなくて、わたくしには力で敵わないからって」
すごい、エンジェラ様やコートニア様とは違う方向性の上から目線だ。主に物理的な実力という意味合いでの上から、つまり殴り合いしたら絶対に勝つという。
いや、聖女としてはおかしいんだろうけれど……セイブレスト辺境伯の領地って確か、魔帝陛下の帝国のすぐ隣なんだよね。つまり、もし帝国が攻めてきたら真っ先にガチ戦闘になるところ。
『のはける』では向こうに寝返っちゃったからさほど被害は出なかったらしいけれど、もしそうでなければ……まあ、領主からして戦闘能力ないとやってられないよね。多分ピュティナ様も、そんなふうに育ったんだろう。
そのピュティナ様が、今のところ笑顔でコートニア様を諭している。ここで折れなきゃどうなるか、新米の私でも推測がつくのだ。
「可愛い後輩に、八つ当たりはいけませんわよ?」
「……わ、悪かったですわよ。キャルン、様」
「え、あ、はい」
頭こそ下げられなかったけれど、一応謝ってはくれた。ただ、何というか……よっく分かっちゃったなあ。
私が来るまで、コートニア様が一番弱い立場だったんだ。いや、立場上は二番目なんだろうけれど、エンジェラ様よりは弱いしピュティナ様が立ち位置気にするような人じゃなさげだし少なくとも腕っぷしでは負ける。
周囲は気にしてない風でもコートニア様はあんな感じの性格だから、めっちゃストレス溜まってたんだ。
『のはける』の世界がこのままの設定だとしたら、そりゃキャルンいじめられただろうなあ……それでフランティス殿下に救いを求めるのも悪くはないけどさ、だったらエンジェラ様は巻き添え食っただけじゃねえか。酷いなキャルン、今私だけど。
なんてこと考えてたら、コートニア様が「行きますわよ、ドナン!」って叫んで踵を返しかけた。そこに声をかけたのは、ピュティナ様で。
「あらあ。お昼、食べませんの?」
「た、食べますわよ!」
おお、くるりと戻って来てそのまま食堂に入っていった。
食べるんかい。いや、腹が減っては戦も聖女のお仕事もできないけど。
「では、わたくしもこれにて。レックスは書類をお願いね」
「はい」
「あれ? ピュティナ様、一緒にお食事しませんか?」
ぼーっと見てたら、ピュティナ様も小姓の子に指示をしてそのままするりと食堂に向かっていく。いや、思わず呼び止めたよ。せっかくなんだし、一緒に食事取って話ししてみたいじゃない?
「わたくし、あまり群れない性分ですの。それでは」
ありゃ、さっさと行っちゃった。まあ、とはいっても食堂で食事するつもりだろうけれど……必要以上に近寄るんじゃねえよ、というのが背中からオーラみたいに出てるので、追いかけるのはやめておこう。なんか怖い。
「ピュティナ様は、もともとああいう性格でいらっしゃいますから」
「そうなんですか?」
ここでやっと、エンジェラ様が口を開いた。多分、慣れてるんだろうなあ。ゲルダさんは表情が変わってない……普段から変化のない人なのか、彼女も慣れてるのか。いや、どっちでもいいか、そのうち分かるでしょ。
「ええ。もしわたくしやキャルン様がコートニア様に対し不条理なことを申し上げていたのであれば、ピュティナ様はためらわずにわたくしどもを非難しておられましたわ」
「な、なるほど」
エンジェラ様の説明を聞いて、すごーく納得した。
ピュティナ様って、結構公平に物事を見るんだなあ。もしこの考え方が親であるセイブレスト辺境伯も同じなのなら、『のはける』本編で王国見捨てたのも分かるかな。多分、それ以前から思うところがあったんだろうけどさ。
「さて。キャルン様、わたくしどももお昼にいたしませんこと? 彼らにもお昼の休憩は必要ですのよ」
「え」
いきなり言われて、彼女の視線をたどってまた納得した。
エンジェラ様の言う彼らって、つまりゲルダさんとエイクのことなんだろうな。そりゃ、この二人にもお昼ご飯は必要だし休憩時間も要るだろう。私たちの食事時間はつまり、彼らにとっても食事時間でかつ休憩時間、なわけか。
ではそういうことで、エンジェラ様にならってエイクに休憩してもらおう。
「聖騎士たちの食堂はこのすぐ隣りですから、大丈夫ですよ。ゲルダ」
「はい。食堂より退出時に声をおかけください」
「そうなんですか。エイク、私お昼いただくから、あなたも食べてきて」
「っ、承知しました」
エンジェラ様とゲルダさんはもう、すっかり気心知れた仲っぽい感じに会話を済ませて別れる。それに対して私とエイクは……ま、エイクの方が私を好いてないのだからしょうがないんだけどね。
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