11.集合聖女カルテット

 薄めの茶髪をポニーテールにした女性の騎士を従えて、エンジェラ様はゆっくりと私とコートニア様の間に入ってきた。……あの騎士か、ガルデスさんの妹さんって。失礼ながら熊な兄に対して鷲とか鷹っぽい感じ、いやどっちみち強そうってことなんだけど。


「キャルン様。わたくしをあなたの後ろ盾に、という理由、お分かりになりまして?」

「は、はは…………はい」


 にこにこ笑いながらそんなふうに言ってくるってことはエンジェラ様、どこらへんからか話聞いてたな? ま、宿舎の廊下だし、もうお昼だし、エンジェラ様もそりゃお昼ご飯食べに来るよなあ。


「お気遣い、ありがとうございます。エンジェラ様」

「いえ。これはフランティス殿下からのご依頼でしたの。国王陛下の思惑もあったようですけれど」

「それはおかしいですわね、エンジェラ様」


 エンジェラ様の言葉にかぶせるように、コートニア様が声を上げた。何がおかしいのか……うんまあ確実に、エンジェラ様が私の後ろ盾やってくれることについてだろうけどさ。


「コートニア様、なにか?」

「エンジェラ様が、キャルン様の後ろ盾なんておかしい、と申し上げているのです。わたくしどもは皆同じ、聖女ではありませんか」

「お家の格を引き合いに出して上からものをおっしゃった同じ口で、今更何を」


 本当にそうだったので、どうやら推測できていたらしいエンジェラ様があからさまに呆れた声でお返しした。おお、コートニア様もドナンも顔が見事にひきつっている。エイク、顔が歪んでるのはざまあみろってことだよね。分かる分かる。

 しかし、今のものの言い方はさっきのコートニア様のセリフを聞いていたかのようで。


「……エンジェラ様、どこからお話聞いておられました?」

「わたくしは『そちらがあなたの主?』からですが。ゲルダ、あなたは?」

「聖女コートニア様と騎士ドナンが、声を揃えて騎士エイクの名を呼んだあたりからです」


 エンジェラ様と、ゲルダさんとやらの返事は素早かった。というか、ほぼ全部じゃねえか。


「え、エンジェラ様もお人が悪いですわ。もっと早くお声をかけてくださればよろしかったのに」

「そうしてしまいますと、コートニア様の本音をお伺いすることができませんでしたので」


 見事に笑顔が固まっているコートニア様と、あくまでも普通に笑顔のままのエンジェラ様の会話。

 ゲルダさんは平然としてるのに対し、ドナンはぎりぎりと歯を噛み締めている。うはは愉快愉快……なんて思っていたら。


「あらぁ、エンジェラ様、コートニア様、何を仲良くお話しなさってますの?」

「ピュティナ様」


 また別の人が来た。私たちと同じ服装してるから、明るい水色のストレートヘアを背になびかせたこの人も聖女か。そう言えば私以外に三人、ここにいるってガルデスさんが言ってたもんなあ。この人で最後ってことだ、うん。

 私よりも小柄だけど多分年上で、どう見ても鍛えたアスリート系ボディしてる。ほんわか笑顔だけど、多分怒らせたら一番怖いタイプだ。なんというか、物理的に制裁されそうである。主にグーパンで。


「あらあら、こちらが新しい聖女様ね。はじめまして、ピュティナ・セイブレストですわ」

「は、はじめまして。キャルン・セデッカと申します」


 細い目でこちらを見てくるピュティナ様に、ひとまずご挨拶をする。それから、名字は実は前世からの記憶にもあったので尋ねてみよう。


「セイブレストっていうと、確か辺境伯様の」

「二番目の娘になりますの。セデッカ伯爵家の領地とは近いですから、名前くらいは伝わっているんですねえ」


 やっぱりかー。

 セイブレスト辺境伯。『のはける』でよく知ってるその名前は、エンジェラ様を酷い形で国から叩き出したフランティス殿下やそれをたしなめようともしなかった国王夫妻に呆れて帝国側についた、屈強な部隊を有する辺境の覇者の名である。もともと中央からは物理的にも心理的にも距離を置いていたから、そういう事もできたんだろうか。

 アニメ化されたときのキャラデザが、どう見てもでっかい馬に乗って覇王となったのに弟の恋人に執着した長兄ちっくなイメージで、みんなでツッコミ入れたっけなあ、SNSで。

 でも、『のはける』には娘さんとか出てこなかったよなあ? あーもー、ここまで来ると『のはける』とは基本的な設定しか一緒じゃない別世界か、もしくは二次創作とか言われてもおかしくないかも!


「よろしくお願いしますねえ、キャルン様。それとコートニア様」


 それはともかく、ピュティナ様は私にニッコリ笑って来て、それからコートニア様を、ギロリと睨みつけた。


「王妃殿下のお身内だからと言って、舐めた真似は程々になさいませよ?」


 コートニア様が上から目線だった理由、それかー!

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