04.王都でアンブッシュ

 そんなこんなで、コトント村を出てから五日ほど、のんびりとした馬車旅が続いた。座席はそこそこクッションが効いてて、座り心地は悪くない。

 私が出発するときは、村人総出で万歳三唱で送り出された。この世界でも、そういう習慣というかあるらしい。なおお父さんとお母さんが残る家は補修されて、聖女生誕の家っていう看板立てる模様。観光名所にできたらいいね、とちょっと遠い目になった。

 で、面白かったのが夜に泊まるところ。初日は野宿、二日目は街道沿いの小さな宿を貸し切り、三日目が通り道の町長さんの家で四日目の昨日は街道沿いの宿屋をワンフロア貸し切り。

 だんだん豪華になっていくのは、王都に近づくに従って住んでる人の懐具合がどんどん良くなってるってことなんだろうね。いいなあ金持ち。


「キャルン様。王都が見えて参りましたよ」

「ほんとですか!」


 馬車の外から、ラハルトさんが声をかけてくれた。密偵だってことを忘れればすっごく実直な騎士さんなので、気にしないことにする。ヒドインムーヴしなけりゃ、敵にはならんでしょ。

 そんなことより、生まれて初めて見るリアル王都だ。窓から軽く顔を出して前方を見てみると、そこに大きな塀とその向こうにいくつもの高い建物が見えた。どっかのアミューズメントパークで見るようなお城が、一番高い建物だね。


「うわあ……大きいですね、王都って」

「ええ。クランブレスト王国の中心となる都ですからね」

「ですよねー」


 てか、前世の記憶もあるこっちからするとまるごとアミューズメントパークだよね、あれ。お城があって、囲いもあるし。

 いや、これは現実の街で、私は今からそこに行く田舎娘なんだから……よし。


「あの、奥の方に見えるのがお城ですか?」

「はい。クランブレスト国王陛下のおわす王城です。敷地内に聖女様方の宿舎がございますので、まずはそちらへご案内いたします」

「よ、よろしくお願いします……」


 つーか、これからある意味お城住まいになるのか、私。すごいな聖女って……いや、使用人さんとかも中に住んでるんだろうから、それと似たようなもんじゃないだろか。

 そういえば、聖女って一人じゃないよね。ラハルトさんも「聖女様方」って言ってるし、そもそも『のはける』でも私以外にエンジェラ嬢いるし。


「今、私の他に聖女はどれくらいいるんですか?」

「各地の任に就かれておられるのが五名、王城におられるのが三名です。キャルン様は九人目、ということになりますね」

「ありがとうございます。そか、九人目か」


 この世界では、聖女というのはいわゆる量産型の素質っぽいよねえ。『のはける』ではキャルンとエンジェラ嬢くらいしか出てこなかったけど……そうか、キャルンというか私も聖女は聖女なんだ、うん。

 そんなことを考えているうちに、馬車は門をくぐって王都の中に入る。ラハルトさんが何やら紙を見せただけで入れたので、聖女輸送中とか書いてあったんだろうな、あの紙。いや、運ばれてるの私だけど。

 今朝の宿に入る前くらいから、土の道が石畳になっている。もちろん、王都の中もしっかりとした石畳で……あれ、何か人多いなあ。商人とか普通に住んでる人とか、結構ごった返してるって感じ。


「……王都って、人多いんですね」

「確かに多いですが、この人たちは恐らくキャルン様の馬車を見に出てきているのかと」

「は?」

「聖女様の馬車ですので、そんなに見られるものではありませんから」

「ああ、珍しいものが来たってわけですねえ」


 そりゃ珍しいだろうなあ。そうそうあちこちで出てくるもんじゃないし、と言っても今分かってるのが私以外に八人……うんやっぱ珍しいわ。見に来るだろ、王都にいる人たちも。

 と、馬車が横道に入った。正面に見えてる王城に入るはずなんだけど……ああそうか、表から入るんじゃないんだ、この馬車。


「王城には、通用口から入ることになりますのでご了承ください」

「はあい。ま、お仕事に来たようなものですし」

「ご理解いただけて何よりです」


 ですよねー。他所の国のお客様とか、最低でも貴族の当主とかじゃないと表から馬車で堂々と入るもんじゃないよね。私は聖女の素質持ちとして、修行とその後は聖女のお仕事をするためにお城に来たんだから。

 ただ、ラハルトさんが声を潜めてこっちに向けてきた言葉には、さすがにどうかと思ったけどさ。


「……それと、その、失礼ながらキャルン様は平民の出身でいらっしゃいますので……」

「……あーあーあー、そういうことですか……」

「…………申し訳ありません…………」


 要は一般人の小娘ごときが表から入ってくるんじゃねえ、ってことか。国王陛下とかがどう考えているのかは知らんけど、少なくともそういうのを嫌がる貴族が多いってことだよねえ。ったく、ふざけんなっつーの。一応伯爵家の養女だぞ、形式的だけど。

 あと、ラハルトさんは小さくなる必要ないと思う。どーせお国に情報行ってるんでしょ、魔帝陛下なんかはどう考えてるんだろうな?


「おや」


 ラハルトさんの声に、ふと周囲の景色を見る。ああ、もうお城の敷地内に入ってるな、これ。兵士とか、お宿で私の準備手伝ってくれたメイドさんと同じ格好した人たちとか、忙しそうに動いてるし。

 そのうちに、広い場所で馬車は止まった。ラハルトさんが扉を開けてくれたので、手を取ってもらって降りる。

 そこに、何かひどく目立つ人たちがいた。


「あ、あ、あれ?」

「やあ、新しい聖女様。いらっしゃい」

「いらっしゃいませ。キャルン・セデッカ様、ですわよね」

「は、はい……?」


 一人は、背の高い金髪碧眼きらきらイケメンだった。淡い緑がメインのいかにも王子様っぽい服を着てて、ラハルトさんより色的に目立つかも。

 もう一人は、そのイケメンさんより頭半分くらい背の低い、でも私よりは十分背の高い美女だった。私が国王陛下から頂いた箱の中にあったのと同じ、シンプルな白に近い水色のドレスを着ている。

 いや、つーかさ、二人共見たことあるっつーの。『のはける』のメインキャラなんだから、ガッツリ覚えてるわけよ。


「僕はフランティス。クランブレスト王国の王太子をやらせてもらってるよ」

「わたくしは、レフリード公爵家のエンジェラと申します。キャルン様、お待ちしておりましたのよ」

「ほへっ!?」


 『のはける』ざまぁ主対象の王太子殿下と、堂々たる主人公エンジェラ嬢だった。

 これじゃあ、逃げる暇すらなかったよ! ああもう、なるようになれえええええ!

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