女性限定なのにスカウトされた僕、なぜか美少女VTuberとなる

空野進

本編

第1章:三期生の絆

【改稿版】プロローグ(上)

大幅な改稿版になります。

――――――――――――――――――――――――



 Vtuberが飽和しつつある現代。

 人気配信者やプロの声優が参戦してくる中、生き残れるVtuberはごく僅か。


 今更個人Vtuberとして参戦したとしても収益化まで届かせるのは非常に厳しい時代だ。ましてや応募すらしていない僕が企業系Vtuberになるなんて一体誰が想像できるだろうか?


 しかも女性限定の二大箱の一つであるシロルームからスカウトされるなんて誰が想像できただろうか?




 ◇◇◇




「こんな時に雨が降ってくるなんてついてないよ……」



 突然の大雨にびしょ濡れになりながら僕は落とした鍵を探していた。

 気分はまるで捨てられた子犬である。


 服がびしょびしょで気持ち悪い。



“うぅぅ……、このままだと風邪を引いちゃうよ……”



 なんでしっかり鍵を確認しなかったのか、と自分を恨みたかった。



 高校生になり、両親に多少無理を言って一人暮らしを始めた僕。


 背は低く150cmしかなく、華奢な体つきをしており、肩幅も狭い。

 更に子供っぽく見られがちな童顔。

 肩より少し伸びた黒髪。

 性別を言わなければ女性に間違えられることもしばしばだった。


 子供っぽい自分から卒業するために独り立ちしたい。

 そんないかにも子供がいいそうな理由を熱心に語った結果、セキュリティーのいいマンションの一室で一人暮らしすることとなったのだ。


 高校生の一人暮らし用の部屋としては高価な物件ではあるのだが、両親は“祐季ゆきくんが襲われたら大変でしょ”と言って無理やり契約してしまったのだ。

 住まわせてもらっている僕としてはまさに頭の上がらない状況ではあるのだが。


 家には僕しか住んでいない以上、鍵がないと永遠に家に入れないことになってしまう。更に両親や大家さんに連絡しようとしても今日に限ってスマホの充電を忘れ、今はうんともすんとも言わない黒い板に成り下がっていた。



“どうしても見つからなかったら慶太けいたの家に泊めてもらおうかな”



 とはいえ友達の家に泊まるのは最終手段。

 今は探すことを優先しよう。


 それから数十分探して諦めかけたその時、僕に声をかけてくる人物がいた。



「おやおやー、こんなところに捨てられた子犬ちゃんがいるよー?」



 どこかで聞いたことある声なのだが、余裕のない僕にはその声がどこで聞いたものか思い出せなかった。


 僕より少し大きな背丈。

 長い茶色のくせ髪の少女がすぐ近くにいるにも関わらずに遠くを見る仕草をしながら言ってくる。

 活発そうな服装をしておりいかにも元気な少女だが、その顔は整っており、近づかれると思わず恥ずかしくなって顔を背けてしまう。


 もちろん知らない人と話すことに慣れていない僕は思わず口を詰まらせる。



「えっと、あの、そ、その……」



 小さく縮こまりながらも顔を上げて少女を見る。すると、少女は一瞬声を詰まらせていたが、すぐに元の声を出していた。



「っ!? あ、あれれー? 本当に捨てられてたのかなー?」

「そ、そんなことないです……。ただ鍵をその……。落としちゃって……」



 俯き加減で消えそうな声のまま話す。

 自分の鈍臭さに嫌になってくる。



「その様子だと電話もできないんだね」

「……はいっ」

「よーし、わかった。ここはお姉さんが人肌脱いであげよう! あっ、脱ぐと言っても本当に脱ぐわけじゃないか、そこを勘違いしたらダメだよ!」



 冗談混じりに舌を出して言ってくる。

 僕が声も出さずに呆然としていると逆に少女が慌て出す。



「そこはほらっ、もっと突っ込んでくれて良いところだからね!? “何言ってるの!パシーン”とか、“暴走しすぎよ!ドカッ”とか、“一緒にお風呂入ろ”とか」



 言葉はやに捲し立ててくる。

 ただ三つのうち二つが暴力で一つがエロとはどういったものだろうか。


 いや、そんな感じのVtuberを僕は知っている。


 今をときめく大手Vtuber企業、シロルーム。

 それを大きくした一期生の中に“暴走特急”と呼ばれる人がいた。


 彼女の言動、大袈裟な仕草、グイグイとこられても妙に許してしまう雰囲気。


 シロルーム第一期生アカリンこと美空アカリみそらあかりとそっくりなのだ。


 もちろんアカリンは顔出ししていないし、そもそも鍵を探していたらアカリンが声をかけてくれた、なんて妄想も甚だしい。


 たまたま雰囲気が似ている人なのだろう。うん。



「えっと、本当に何か言って欲しいな……、なんて。黙られるとお姉さん、何を言っていいのかわからなくなるよ。いや、ずっと話してるんだけど、でもでも、やっぱり言葉のキャッチボールは一方的だとダメだとお姉さん、思うな」

「ふふっ……」



 慌てふためく少女を見て、僕は思わず笑みを漏らす。

 すると、少女は華が開いたような笑顔を見せる。



「やっと笑ってくれたね。可愛い子はやっぱり笑ってないと」

「そ、そんな、可愛いだなんて……」

「いや、君は可愛いよ。その可愛さはまさに爆弾。全人類を虜にするよ!」



 雨に濡れるのも気にせず傘を放り出して両手を広げる少女。

 そのはちゃめちゃぶりもやはりアカリンのようである。



「お、お姉さんもその、ぼ、僕の推しのVtuberそっくりで、た、楽しいですよ……」



 ようやくはっきりと口に出せる。

 ただ見ず知らずの人に何を言っているのだろう、とすぐに顔を赤く染め上げていた。

 すると、少女は傘を再び拾い、僕も一緒に入れるように差してくれる。



「へーっ、配信者に興味あるんだ。その子ってなんて言う名前なの? 他に推しはいるの? 好きな箱は? あと“お姉さん”じゃなくて“お姉ちゃん”ね。破壊力が違うから間違えたらダメだよ!」



 もしかするとこの少女もVtuberが好きなのだろうか。グイグイ食いつき気味に話してくる。

 でも最後のは欲望が混ざっていると思う。


 弟が欲しかったのかな?



「えっと、その人はアカリンって呼ばれてる人ですね。いつも明るくてたまに……というか毎回なんですけど暴走しちゃうときもあって、それが楽しくて落ち込んだ時に見ると元気をもらえるんです……」

「お、おふっ」



 なぜか少女が赤面していた。



「他だとどうだろう……? 個人勢だと夏瀬なななつせななさんとかかな?」



 元気で明るく後押しをしてくれるような人。

 暴走はしないけど、ある意味系統としてはアカリンと似ている人の名前を挙げる。



「そっかそっか。うんうん」



 なぜだか上機嫌になっていく女性。



「好きな箱……。箱?」



 質問の意図がさっぱりわからなくて首をかしげる?

 箱って言われても一つしか思い浮かばない。



「えっと、段ボール……」

「えっ、段ボール!?」

「な、なんでもないです。そ、その、箱って言われても段ボールしか思い浮かばなくてその……」

「いいね、段ボール! うん、とっても似合うと思うよ!」



 なぜか親指を立ててグッドポーズをとってくる。

 どうやら間違った回答をしていないようだ。


 僕は安心してため息を吐く。



「ほらっ、最後の。最後の」



 なぜか今までで一番嬉しそうに何度も耳元で言ってくる。

 見ず知らずの人にこんなことを言うのはすごく恥ずかしい。


 でもなぜか話したくなるような雰囲気がこの少女にはあったのだ。



「お、お、お姉ちゃん……?」

「はうぁ!? いい、これはすごくいいよ。うーん……」



 悶絶した少女はすぐに何かを考え始める。



「えっと、君……。あっ、そういえば名前を聞いていなかったよね。私は赤羽朱里あかばねしゅり。朱里お姉ちゃんって言ってくれたらいいからね」

「はい、赤羽さん」



 途端に不機嫌そうにそっぽを向く。

 そのしぐさがすごく子供っぽいが、なぜかとても似合っていた。



「じょ、冗談ですよ、朱里お姉さん」

「……お姉ちゃん」

「わ、わかりましたよ。朱里お姉ちゃん」



 ようやくこちらを向いてくれる。

 その表情はだらしなく歪んでいた。



「えっと、僕は小幡祐季こはたゆきです」

「うん、覚えたよ。ゆっきゅん!」



 勝手に変なあだ名をつけられる。



「ゆっきゅんはVtuberに興味あるんだよね?」



 朱里お姉ちゃんが覗き込むように言ってくる。



「えっと、はい。その……、好きです」



 なんだか性癖を暴露しているようで恥ずかしくなってくる。

 うつむき加減で言うと朱里お姉ちゃんが再び傘を放り投げて僕に抱き着いてくる。



「よーし、わかったよ。そこまでいうならお姉ちゃんが二肌脱いじゃおう。今ここで」



 今度は本当に脱ぎだすしぐさをするのでそれを慌てて止めることに。



「そ、そんなことをしたらダメですよ。それよりも何度も傘を放り投げると濡れちゃいますよ……」

「水も滴る良い女だからね、お姉さんは」



 むしろ雨にもかかわらず外で遊ぶ子供のようだ。



「とにかくすぐに電話を……くしゅん」

「ほらっ、風邪をひいちゃいますよ。僕のことは良いですからおうちに帰ってください」

「いや、でも捨てられたゆっきゅんをそのままにしておけないから……」

「だ、だから捨てられてませんよ!?」

「うーん、そうだ。それならゆっきゅんがうちにくるといいよ。うん、それがいい」

「えっ? えぇぇぇぇぇぇ!?」



 突然の申し出に思わず大声を上げる。



「えとえと、み、見ず知らずの人を家に連れ込むなんて何を考えているのですか!?」

「いやらしいこと?」



 なぜか朱里お姉ちゃんは唇をなめながら言ってくる。



「も、もしかして僕を襲うつもりなのですか!?」

「はははっ、それもいいけどお姉さんは合意の上でしか襲わないから安心していいよ」

「全然安心できないです!?」

「でも、このままだとゆっきゅんも風邪をひいちゃうでしょ? 連絡がつくまでお姉さんの部屋で休んでくれていいよ。それにちょっと話したいこともあるしね」



 もしかするとまだVtuberの話がしたいのかもしれない。

 僕としても普段はきょどることが多いのに、なぜか朱里お姉ちゃんの前だと自分を出すことができていた。

 ちょっとだけ、この人のことに興味を覚えたのかもしれない。



「ほ、本当に襲わないのですよね……?」

「それはもはや襲ってくれていいって合意じゃないのか!? それならお姉さんは遠慮しないよ?」

「ち、違いますよー!?」



 やっぱりついていくのは危険だっただろうか、と不安に苛まれる。

 そして、そこで僕はとんでもない事件に巻き込まれるのだった。




 ◇◇◇




 朱里お姉ちゃんの家はすぐ近くにあるマンションだった。



「お姉さんは少し仕事の話をしないといけないから先にお風呂に入っててね。あとで一緒に入るから」

「一緒には入らなくていいです! でもお先にいただきますね」



 朱里お姉ちゃんはタオルで自身の体を拭くとすぐさまスマホで誰かに電話を始めていた。

 僕より少し上っぽいし社会人だったのかもしれない。


 仕事があるのに雨に濡れている僕を心配してくれたのだろう。

 口では冗談ばかり言う人だけど優しい人なんだな……。


 暖められた湯船に浸かる。

 するとしばらくすると朱里お姉ちゃんの影が見える。



「湯加減はどうかな?」

「とっても気持ちいいです。ありがとうございます」

「そうか。それならお姉さんも……」



 突然服を脱ぎ出そうとする。


「わわわっ、そ、それなら僕、上がりますよ」

「冗談だよ、冗談。ここに服を置いておくよ。一応ゆっきゅんに似合いそうな服を選んだからね」

「あ、ありがとうございます」

「君が着ていた服は洗っておくよ。ただ明日までは乾かなさそうだね」

「何から何までごめんなさい……」

「気にしなくていいよ。うん」



 それから再び朱里お姉さんは脱衣室から出ていく。

 ほどなくして体が温まった僕は風呂から上がり、置かれた服に着替える。


 わがままは言えないが、置かれた服は犬耳フード付きのワンピースであった。

 確かにすごく可愛らしい服ではあるが、女性向け。

 寝巻だと考えるとおかしくはない……かな?



“そうだよね。いくらなんでも男性向けの服はないよね”



 服を貸してくれるだけでもありがたいので、それに着替える。

 そして、朱里お姉ちゃんがいる居間へと向かうと扉越しに彼女の声が聞こえてくる。



 電話かな?

 スピーカーで話しているらしく別の人の声も聞こえてくる。



「もうちょっとでお風呂から出てきちゃうからすぐに来て。これ以上ない逸材なんだよ!? 枠、まだ空いてたよね」

「ちょ、ちょっと待ってください。また勝手なことを……。数分で行くので絶対に襲わないでくださいよ」

「はははっ、それは約束できかねるね」



 そこで電話は切れてしまう。

 そして、扉がゆっくりと開いていた。



「こっそり立ち聞き? せっかくだし中に入るといいよ」

「あの、今の話って……」



 襲う襲わないの話が出ていたために僕は思わず後ずさる。

 すると朱里お姉ちゃんは手をワキワキと動かしながら言ってくる。



「聞かれていたのなら仕方ないね。ゆっきゅんが欲しい。やらせてくれないか?」

「えっと、朱里お姉ちゃん……? その、目が怖いよ……」

「それはゆっきゅんが可愛いのが悪いのだよ。お姉さん、もう我慢できないよ」



 身の危険を感じ、部屋から逃げようとするがいつの間にか玄関側を朱里お姉ちゃんが陣取っているために逃れることができない。



「えっと、僕はその……、よ、用事を思い出したので……」

「安心するといいよ。少しだけ、ほんの少しだけでいいんだ。先っぽだけ……いたっ!」

「何を言ってるんですか、全く!」



 突然現れた新しい女性。

 スーツ姿がよく似合うスレンダーな大人の女性で、掛けたメガネを持ち上げていた。



「全く赤羽さんは。いつも言ってますよね。可愛い子を見つけても連れ込まないでって」

「連れ込むのは今回が初めてだよ。いつもは絵を描かせてもらっているだけだからね」

「それ、たまに通報入るので私が大変なんですよ! 今回なんて誘拐そのものじゃないですか!」

「でも、拾ってくださいって目をしてたんだよ? こんなに可愛い子が拾われたそうにしてたら拾わないと失礼でしょ?」

「その目は勘違いです!」



 二人の言い争いを呆然と眺めている僕。

 流石に着いていけなくて言葉すら失っていた。

 すると、女性が改めて僕の方を見てくる。

 その瞬間に一瞬顔を赤く染めていた気がしたが、咳払いをすると先ほどのクールな姿に戻っていた。



「うちの赤羽がすみません。いつもはこんな子じゃない……とも言い切れないですけど、悪い子ではないのです。ただちょっと暴走してしまう癖があるだけで。あっ、私はこういうものになります」



 女性は小さな紙を渡してくる。

 これが名刺というやつなのだろうか?


 受け取るのは初めてのために作法などわからず、でもなんとなく両手でそれを受け取る。

 そこに書かれていたのは



 シロルーム

 マネージャー

湯切舞ゆきりまい



 という名前だった。



「えっ? シロルームのマネージャーさん!?」

「はい。ご存知でしたか」

「も、もちろんです。いつも励ましてもらっています」



 信じられない気持ちでいっぱいだった僕は悔い気味に湯切さんに話していた。

 すると湯切さんは口に手を当てて顔を染めていた。

 そして……。



「その……上目遣いをしてもらってもいいですか?」

「……はいっ?」



 突然変なことを言い出す湯切さん。

 ただ、するも何も身長は湯切さんの方が高く、僕は自然と上目遣いをしてしまっていた。すると……。



「はうっ……」



 顔を染め、声を漏らす湯切さん。

 そして、すぐに赤羽さんの下へ近づいていた。



「この子は逸材ですね。どうやってこんな子を見つけてきたのですか!?」

「だから言ったでしょ? 拾って欲しそうな目をしていた、と」

「本来ならオーディションで決めるところだったのですが赤羽さんの言う通り、一枠確保して正解でしたね」



 何の話かわからずに呆然としている僕をよそに湯切さんは朱里お姉ちゃんと話していた。そして――。



「私がこれからあなたの担当となります。よろしくお願いしますね、えっと……」



 そういえば名刺はもらったけど僕自身の名前は言っていなかった。



「ぼ、僕は小幡祐季です」

「小幡さんですね。今後ともよろしくお願いします」



 なぜか湯切さんにがっちり握手をされる。



「えっと、“よろしくお願いします”ってなんのことですか?」

「それはシロルームの……ってまさか!?」



 握手していた手を離すと湯切さんは朱里お姉ちゃんの下へ行く。



「勧誘の話、もしかしてしてないのですか!?」

「でもVtuberに興味あるって言ってたよ!」

「それは見るのが好きってことかもしれないですよね!?」



 一瞬朱里お姉ちゃんは明後日の方を見る。



「大丈夫、ゆっきゅんは配信も好きだよ。ねっ?」



 なぜか朱里お姉ちゃんが僕の方を見てくる。



「えっと、僕はその……、人前で話すのは苦手で……。だから……」

「でも、ゆっきゅん、Vtuberは好きなんだよね? 一緒にヤろうよ!」



 なぜかニュアンスが違ったように聞こえる。



「でも、僕になんてできるとは思えないですよ……」

「そこは安心してください。私たちも全力でサポートしますから。それに赤羽さんのお知り合いなら我々も安心ですから」

「あっ、ゆっきゅんとはさっき会ったところだよ?」



 爆弾発言二つ目。

 湯切さんが頭を抱える。



「一応私たちは企業なんですよ!? 一体どこに見ず知らずの人を勧誘する馬鹿がいるのですか!?」

「ここにいるよ」

「そうでしたね。“暴走特急”のあなたならあり得ることでしたよね?」

「……えっ? 暴走特急?」



 その呼ばれ方をされるVtuberを僕は一人しか知らない。

 確かに雰囲気は似ているかな、って思っていた。でも本人の顔は知らないし、まさか目の前にいるなんて考えてもいなかった。

 でも他ならぬシロルームのマネージャーさんが“暴走特急”と言ったのだ。

 彼女は本人。

 あのアカリンの中の人で間違いないのだろう。



“ど、どうしよう、僕。アカリンの前で好きなんて言ってたの? は、恥ずかしいよ……”



 先ほど朱里お姉ちゃんの前で直接話していたことを思い出して悶絶する。

 するとチャンスだと思ったのか、朱里お姉ちゃんはわざわざ僕の耳元に口を近づけて言ってくる。


 それはリアルASMRと言っても過言ではなく……。

 配信画面でしか見ることのなかったアカリンがすぐそばにいたのだった。



「ゆっきゅん、私と一緒にコラボしよっ♡」

「あぅあぅあぅ……」」



 僕は目をまわして困惑していた。

 自分の意志とは無関係にただ機械のように首を上下に振っていた。

 もちろんそこに承諾の意思はなかったのだが、それを見逃してくれる二人ではなかった。



「ゆっきゅんもぜひやりたいって言ってくれたよ」

「では三期生として頑張りましょうね」

「えっ!? えぇぇぇぇぇぇ!? 無理無理無理。僕にはぜっったいに無理ですよぉ!!」



 こうして僕は知らず知らずのうちにVtuberとしてデビューすることになってしまったのだった。



「ちなみに他の三期生はオーディションで決まります。一応これが募集要項ですね。小幡さんには関係ない者ですが、一応見せておきますね」

「あの……、ここに“女性限定”なんて書かれているのですけど?」

「今回募集するのは女性ユニットですから当然ですね」

「……あの、僕男ですよ?」



 その言葉を聞いた湯切さんは一瞬固まる。

 でも、僕の姿を上から下まで見た上でグッドポーズを出す。



「可愛ければ問題なし、です。いざというときには男の娘ということにしますから」

「いや、色々と問題ありますよね、それ!!」




――――――――――――――――――――――――

改稿版は主にリアル面の強化、恋愛要素の追加、あたりを強化しております。

今回はアバターが犬耳フードワンピースと段ボールの姿になった話です。



その他、名前等も微妙に変更している部分があります。


商業作品が忙しくなってきたら更新が止まってしまいますが気ままにお待ちいただけると幸いです。


プロローグ(下)は本日22時に更新予定です

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