第20話 三期生の温泉旅行(寝るまで配信編ぱーとつー)

ユイ :『うみゅー!! ユキくんの写真、欲しいのー!!』


ココネ:『そうですね。あとから三期生のチャットに貼っておきますね』


カグラ:『それでユキがあんな格好をしていたのね。さすがに見たときは驚いたわよ』


ユイ :『いつものユキくんだったの』


ココネ:『可愛かったから普通ですよ?』


カグラ:『まぁ、可愛かったことは否定できないわね』




【コメント】

:リアルユキ犬姫だと!?

:お、俺も見たい

《天瀬ルル🔧:¥10,000 こ、これでぼくにも写真を下さい》

:↑ルルちゃんwww

:ココママ策士w




ユイ :『次はユイたちが登場するの。ココママたちが遅れてやってきたところなの』


カグラ:『そうね。それじゃあ、待ち合わせ場所から電車で移動するところまでを話しましょうか?』




◇◇◇




「うみゅーーー!! 遅いのーーーー!!」



 待ち合わせ場所にたどり着いた僕たちは、揃って結坂に怒られていた。




「ご、ごめん……。少し遅れちゃって……」




 時間は待ち合わせの二分後。

 それだけ聞くとたいしたことないように思えるかもしれない。

 でも、いつも一時間前には着いているはずの僕がいなかったのだ。

 きっと凄く心配していたに違いない。


 だからこそ、僕は素直に謝っていた。




「全然待ってないから構わないわよ。彩芽あやめもついさっき来たところよ」


「あっ、バラしたらダメなのー!」


「それよりも今日は……、まぁ、祐季の服については何も言わないでおくわね。いつものことだから――」


「とっても可愛いの。これって例の賞品なの?」


「そうみたい。私が預かってたので、せっかくだから着てもらっちゃった」




 こよりさんはいたずらがバレた子供のように、可愛らしく舌を出していた。




「うぅぅ……、それよりもこの服、着替えたい……」


「ダメだよ?」

「ダメなの!」

「諦めなさい」




 三人に即答されてしまう。



――あれっ? これって僕がおかしいのかな?




 思わず首を傾げてしまう。

 しかし、それを気にする暇もなく、僕たちは移動することになった。




「そういえば、今回温泉行くのって、僕たち三期生だけなんだね」


「最初は四期生も同じ日にしようとしたらしいよ? でも、みんな集まるとゆっくり仲を深めることもできないから、って担当さんが配慮してくれたみたいだね」


「うみゅー、枕投げは多いほうが楽しいの!」


「メインは温泉よ?」


「桶を投げて戦うの!」


「あ、危ないわよ! 私も投げ返すわよ?」


「もう、二人とも。温泉は遊ぶ場所じゃないよ!」




 こよりさんに注意される結坂と瑠璃香さん。




「うみゅー……、ごめんなの。ユキくんのタオルを捲る程度に抑えておくの」


「そうね。私も彩芽に乗せられすぎたわ。ごめんなさい。今度、祐季のアルバムを見せてあげるから許して欲しいわ」


「仕方ないね。二人がそんなに反省してるなら……」




 こよりさんが結坂や瑠璃香さんと熱い握手を交わしていた。

 しかし、僕には不穏な台詞にしか聞こえなかった。




「ちょっと待って! なんか色々とおかしいことが聞こえたけど気のせいかな?」


「うみゅ、気のせいなの!」


「ちょっ!? まだどれのことかも言ってないよ!? それに気のせいじゃないからね!?」


「とりあえず祐季くん、そろそろ電車に乗るからあんまり騒いだらダメだよ。はいっ、迷子にならないように手を繋ぎましょう」


「うん……。って、僕、子供じゃないからね!? 迷子にならない……とは言えないけど」


「迷子になるなら手を繋いでおこうね」




 こよりさんに手を掴まれてしまう。




「うみゅ!? ユイも掴むの!!」




 こよりと反対の手を結坂が掴んでくる。




「ちょ、ちょっと!? なんで二人とも握ってくるの!? る、瑠璃香さん……た、助け……」


「あっ、電車が来たわよ。ほらっ、急いで!!」




 僕のことを視界に入れようとせずに、さっさと電車の方へ行ってしまう。




「そうだね。私たちも行こっか」


「うみゅー! 温泉でゆっくりするの」


「ぼ、僕は一人で歩ける! 歩けるからぁ……」




 僕たちも三人で手を繋いだまま、電車へと向かって行った。




◇◇◇


【コメント】

:珍しくココママがママしてる

:ユキくんをお持ち帰りしたい

天瀬ルル🔧:ぼくとユキ先輩が離ればなれになったのは担当さんのせい……

:ルルちゃん、怖いよ!?

:ユキ犬姫を探せばユキくんに会えるのか




ココネ:『そういえば、まだカグラさんのユキくんアルバムを見てないですね』


カグラ:『わかってるわよ。さすがに持ってきてないから今度うちに来てくれるかしら?』


ココネ:『わかりました。それじゃあ、私のユキくん写真集お宝も持っていきますから、それを眺める雑談オフでもしますか?』


ユイ :『うみゅー、ゆいもゆいも!! ゆいも行くのー!!』


カグラ:『わかったわよ。でも、くれぐれもユキには内緒よ?』


ココネ:『そうですね。ユキくんにはバレたらダメですね。邪魔してきますから』


ユイ :『うみゅー、わかったの。黙ってるの』




【コメント】

天瀬ルル🔧:ぼ、ぼくも行きたいです!

:楽しみなコラボ配信だ

:みんなでユキくんアルバムを持ち寄って感想を言い合うのかw

:他に行きたい人もいそうw




ココネ:『では、次は電車の中での出来事ですね』


ユイ :『トランプ―!!』


カグラ:『はいはい、みんなでゲームしてた話ね』


ユキ :『すぅ……』




◇◇◇




 電車に乗ると早速、戦争が勃発していた。

 その理由は誰がどの席に座るか……という、単純な物だった。




「うみゅー! ゆいが隣に座るの!」


「私が隣に座って、責任を持って祐季くんを見るよ」


「はぁ……、全く二人は――」




 いつものやりとりだけど、ここは電車の中。

 人の目が気になって、僕一人だけそわそわとしていた。


 そこでため息交じりの声を出していた瑠璃香さんを見てハッとなる。

 こよりさんと結坂が争っているなら、一番喧嘩にならない場所は――。


 少し考えた結果、僕は瑠璃香さんの隣に座っていた。




「あっ……」


「うみゅ!?」


「えっ?」




 三人とも驚きの声を上げるが、僕は平然と言ってのける。




「ここに座るのが一番喧嘩にならないよね?」


「そ、そうだね……」


「うみゅー……、負けたの……」


「祐季もやるようになったわね」




 そして、結局窓際に僕とこよりさん。

 通路側に瑠璃香さんと結坂が座ることになった。


 それからしばらくは電車の揺れを感じながら、のんびり雑談をしていたのだが、唐突に結坂がトランプを持ち出してくる。




「勝負なのー!!」




 電車の中でもやたら元気な結坂。



――うん、旅行中ってテンションが上がるよね。



 理由はわかりつつも、僕は昨日寝ていないこともあり、心地よい電車の揺れによってウトウトとしていた。




「うみゅ? 祐季くん、眠たいの?」


「うーん、大丈夫……」


「私が膝を貸そうか?」




 こよりが自分の膝を叩いてくる。

 ただ、向かい合って座っている現状でその膝を使うことはできない。

 いや、そもそもが使うつもりもなかったけど……。




「だ、大丈夫だよ!? そ、それよりもトランプだね。……う、うん、やろっか」




 顔を染めて、大慌てで言う。

 すると、こよりさんはどこか残念そうだった。




「うみゅー、それなら祐季くんの膝枕を賭けて勝負なの!」


「負けないよ!」




 こよりさんと結坂がバチバチと火花を飛ばし合っている。

 その様子を呆れた顔で見ていたのは、瑠璃香さんだった。




「全く……、こんな電車の中で人目につくことをしたらダメでしょ?」


「る、瑠璃香さん……」




 暴走を始めたときに味方になってくれるのは瑠璃香さんだけだよね。

 やっぱりカグラさんしか勝たないよね。


 目を輝かせて、瑠璃香を見ているとカグラさんは更に言葉を続ける。




「迷惑を掛けないように、膝枕は今日の夜にするべきでしょ。全く、他の人に迷惑を掛けたらダメよ!」




 うん、僕の味方はここにはいなかったらしい……。




「そ、それよりもどうして当たり前のように僕が景品になってるの!? た、たまには僕じゃなくて、結坂やこよりさんが景品をやってよ」


「それじゃあ景品にならないよ」


「うみゅー、みんなが欲しいものだから必然的に祐季くんになるの」


「まぁ、他の人だと景品にならないわよね。景品役に私がいないことは気になるけど」




 どうしても、僕が景品、という部分は揺るがないようだった。

 それなら追加のルールを加えるべきだよね?




「わかったよ。それなら僕が勝った場合は――」


「うみゅ、好きな人に膝枕をしてもらうと良いの」


「全員でも良いよ」




 ちょっと待って!? それだとどっちにしても景品ってことじゃないの!?




「うぅぅ……、ま、負けないからね! 僕が勝って、誰にも膝枕をされないってルートを勝ち取ってみせるよ」


「うみゅ、そんなことを言って、全員に膝枕されることを望んでるの、祐季くんは」


「ち、違うよ!?」


「そんなこと私が許さないよ!? 勝つのは私だからね!」




 結局いつもどおり、景品を賭けた大富豪が始まっていた。

 そして、本気になったこよりさんは結坂に勝るとも劣らない結果を残していた。

 ただ、やはりゲームでは結坂の上をいく者はいなくて、結局負けてしまった。




◇◇◇




「うみゅ-、勝ったの!」


「ま、負けた……」




 座席の上に立ち、ガッツポーズをする結坂。

 一方、床に手を付きがっくりと肩を落とすこよりさん。




「あ、あの……、そ、そこまで悔しがらなくても……」


「だって、祐季くんの膝枕だよ!?」


「ぼ、僕がされるほうだよね? えっと……、別に恥ずかしいだけで嫌なわけじゃないからその……、いつでもしてくれていいんだよ……?」


「ほ、本当ですか!?」


「あっ……、えっと、人前じゃなかったらね……。ほ、ほらっ、二人の時とか……」


「二人っきりの時は祐季くんを自由にして良いんだね!」


「うみゅー。ちゃんと聞いたの。祐季くんと一緒にホラーゲームするの」


「えっ!? ち、ちがっ……。そういう意味の自由じゃない……」


「そうね。私も料理がうまくなった……と思うから、そろそろ祐季に食べてもらおうかしら?」


「そ、それはその……。た、食べられるもの……だよね?」


「どういう意味よ!?」


「それなら、今度祐季くんとオフコラボをするね。約束だよ?」


「うみゅー、ユイもするのー!」


「私もするわよ」


「えとえと、多いよ……。そ、その、予定を見てからね……」


「大丈夫だよ。祐季くんの予定は把握してるからね」


「ちょっ!? なんで僕が覚えてないのに、こよりさんが覚えてるの!?」


「隙があったらコラボを入れようと確認してるからね。自分の予定をみるついでに一緒に見るだけだからね」


「た、確かに予定には載ってるけど……、も、もしかして結坂と瑠璃香さんも覚えてるの!?」


「うみゅ? ユイは知らないの」


「私もさすがに自分の分だけね。その日の配信予定くらいは見てるけど」


「ユイはその日の分も見てないの」




 なぜか結坂が一番偉そうにしている。

 その様子に苦笑を浮かべながら、僕はこよりさんの方を見る。




「えっと、確かに僕も三人の予定は見てるね……。うん。最近忙しくてライブで行けてないけど……」




 なぜか最後に僕がこよりさんのフォローをすることになってしまう。




◆◆◆




ココネ:『結局、ユイが圧勝しちゃったよね』


ユイ :『うみゅ、ユイにゲームで勝とうなんて五万光年早いの!』


カグラ:『えっと、光年は距離だし、そもそも結構な接戦だったでしょ?』


ユイ :『うみゅ……、正義は最後には勝つの』


ココネ:『だ、誰が悪ですか!?』


ユイ :『ココママなの』


カグラ:『はいはい、また話が脱線してるわよ。どんどん次へいきましょう。次は温泉街を歩いた話かしら?』




【コメント】

:ユイちゃんは強いなぁw

:あれっ、でも今、膝枕してるのはココママ……

:カグヤ様……、どんどん自然になってるな……

:三期生のまとめ役は実は力グラ様?




カグラ:『カグヤじゃないわよ! いつも言ってるけど。あと、さり気なく『ちから』の漢字を使ってるけど、わかってるからね』


ユイ :『うみゅ、あの頃の純粋なハグラ様を返して欲しいの』


ココネ:『えっ? カグラさん、純粋じゃないの?』


カグラ:『誰がハグラ様よ!? あと、今でも十分純粋だからね?』


ユイ :『うみゅ……、この流れはするべきかなって思ったの』


ココネ:『みんなに愛されてるんですね』


カグラ:『わ、私はもっと普通に相手をしてくれていいのよ?』




【コメント】

:普通に相手してるだけだよな?

:カグラっち、こうやって相手にして貰えるのがうれしそうだからな

:ココママが段々自然に戻ってきたなw

:ユキくんが寝ちゃってるからなw




カグラ:『また脱線してるわね。と、とりあえず次よ次。ユキが迷子になって大変だったのよね』


ココネ:『ユキくん、誘拐されたのかと思って大変でしたよね……』


ユイ :『うみゅ!! ユキくんはまだまだ子供なの! 次からはユイがしっかり手を繋いでおくの!』

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