第19話 三期生の温泉旅行(寝るまで配信編)
『《♯コユユカ温泉旅行》寝たら終了。寝るまで
4.2万人が待機中 20XX/07/28 00:00に公開予定
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温泉旅行当日。
一応頼まれていたので、当日の夜に配信を予定していた。
みんなに話したいこともたくさんあったし、こうやって三期生全員が集まってのオフコラボも久しぶりだったので――。
待機画面には、アカネ先輩がノリノリで描いていた、バスタオル姿で温泉に入る僕たち四人の姿。
奥の方で呆れた表情を浮かべながら、僕たちを眺めるカグラさん。
僕の腕を掴み、満足そうな表情を浮かべるココママ。
僕のバスタオルを引っ張ろうと、ニヤリ微笑んでいるユイ。
そして、真ん中で顔を真っ赤にして慌てふためいている
うん、未来予知でもできるのかな?
と、思えるほど、全く同じ事が温泉でも繰り広げられたので、思わずこれを待機画面に選んでしまった。
【コメント】
:寝るまで耐久って、もうユキくんの寝る時間じゃないのか?
:開始即終了が見えているw
天瀬ルル🔧:うぅぅ……、なんで温泉旅行が別なの……。
姫野オンプ🔧:楽しそうで何よりなのですよー
:今頃、ユキくんたちは温泉か……
:俺も入りたいな
:↑通報しました
まだ開始一時間前にも拘わらず、コメントが大いに盛り上がっていた。
そして、コメントで予想されていたとおり、僕は既にあくびをかみ殺して、なんと寝ないように堪えていた。
「ユキくん、大丈夫? まだ配信開始まで時間があるし、少しだけ寝ておく?」
こよりさんが優しい言葉を投げかけてくれる。
しかし、僕は首を振る。
「大丈夫……。今寝ると配信時間に起きられなさそうだから……」
「ユキくんがそういうなら仕方ないね……。でも、昨日も寝てないのだから無理をしないでね……」
「うみゅ?! またユキくんは寝てないの!? 開始したら即終了しておくから、早く寝るの!」
既に配信モードに入っている結坂がポンポン、っと布団を叩いてくる。
「ね、寝ないよ!?」
「寝るの!!」
「はぁ……、二人とも、そのくらいにしておきなさい。ユキも起きてても良いけど、それで体調を崩したら許さないわよ。ユイは逆に寝なさい! あなたが寝てるところは見たことないわよ」
瑠璃香が呆れながら言ってくる。
「た、確かに、ユイが寝てるところは見たことがないかも……」
「う、うみゅ!? ゆ、ユイはちゃんと寝てるの! ユキくんと同じ布団で寝てるの!」
「ダメですよ!? ユキくんは私と一緒に寝るんですからね!?」
「ち、違うよ!? 僕は一人で寝るからね!?」
「もう、みんな一緒に寝たら良いんでしょ!?」
呆れながら言ってくる瑠璃香さん。
でも、それも間違ってるよ……。瑠璃香さんもだんだんと三期生の毒に蝕まれてない?
「うみゅ、それなの!!」
「決まりですね!」
「えっと……、僕の意見は……?」
当然のように無視される僕の言葉に思わず口を挟んでしまう。
すると、こよりさんが当たり前のように言ってくる。
「ユキくんを一人にして、もし誰かに襲われでもしたら大変ですからね」
「……何で僕が襲われる方なの?」
「うみゅ、確かにユキくんは襲われそうなの。ゆいが段ボールで犯人を吹き飛ばすの!」
「ぼ、僕の段ボールは渡さないからね!?」
「――その前に段ボールは武器にならないことを突っ込みなさいよ……」
瑠璃香が呆れ顔を浮かべてくる。
「そ、それもそうだね。段ボールは防具だもんね」
「それも違うわよ……」
そんなやりとりをした後、結局僕たちはみんなで固まって眠ることになった。
◇◇◇
配信開始の時間となる。
画面には、いつものアニメーションを流していた。
そして、僕の瞼は重くなり、うつらうつらしていた。
ココネ:『ユキくん、大丈夫?』
ユキ :『だ、大丈夫……。ね、寝てないよ……?』
【コメント】
:ユキくん、起きてた!?
:でも、すぐ寝そうw
:頑張れw
天瀬ルル🔧:ユキ先輩、僕と一緒に寝ましょう
:ルルちゃんが本能ダダ漏れだw
ユキ :『うにゅ……、ね、寝てないからね……』
ユイ :『うみゅー、うにゅーはユイの言葉なの!!』
カグラ:『とりあえず、ユキは寝てなさい。フラフラしてるわよ』
ユキ :『だ、大丈夫……。僕、まだ寝てないからね……』
ココネ:『はいはい、ユキくんはこっちですよ。私のお膝で寝て下さいね』
ユキ :『うん、ココママ……』
ココネに膝枕をされながら、僕の瞼はゆっくり閉じていった。
ユイ :『うみゅ! ということで、今日の配信はここまでなの。お疲れ様なの!』
ココネ:『こらっ、ユイちゃん。ユキくんが寝てるからもう少し静かにね』
カグラ:『まだ開始一分も経ってないわよ……』
ユキ :『うみゅ……、僕はまだ寝てないよぉ……』
カグラ:『確かに一旦枠を閉じて、別枠をした方が良いわね』
ココネ:『そうですね。では、一旦お疲れ様です』
【コメント】
:やっぱりユキくんだったw
:開始早々w
天瀬ルル🔧:ユキ先輩の寝言、かわいい
:次枠が始まるまで待機してるよ
:ユキくんは拾っていきます
《:¥1,000 寝息期待》
この放送は終了しました。
『《♯コユユカ温泉旅行》寝たら終了。寝るまで
5.1万人が視聴 0分前に公開済み
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チャンネル名:Yuki Room.雪城ユキ
チャンネル登録者数40.1万人
◇◇◇
『《♯コユユカ温泉旅行》静かに
5.1万人が視聴中 ライブ配信中
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【コメント】
:始まった
:やっぱりユキくんはおねむかw
:耐久RTAだったなw
:おいっ、お前ら、静かにしろ。ユキくんの寝息が聞こえないだろ!
天瀬ルル🔧:ぼくには聞こえる
ユキくんが寝てしまったので、今度はココネのアカウントから配信を始める。
すると、さっきまでいた人たちがそのまま移動してくるので、いきなり視聴者数が増加していた。
ココネ:『みなさん、ここばんはー。真心ココネですよー。今日はユキくんが寝ているので静かに進めていきたいと思います』
ココネが小声で話していく。
すると、それに呼応してカグラが小声で自己紹介をする。
カグラ:『神宮寺カグラよ。さすがに旅行の夜は疲れるわね』
ユイ :『うみゅ? そうなの? ユイはまだまだ元気なの! これから耐久配信も余裕なの!』
カグラ:『絶対しないわよ!?』
ココネ:『こらっ、二人とも! うるさくしたらダメでしょ!』
ユイ :『うみゅ、ココママが一番うるさいの』
ユキ :『うにゅ……、んっ……? もう朝……?』
ココネ:『まだ夜だから寝ておいてくださいね』
起きそうになったユキを再び寝かしつけるココネ。
【コメント】
:相変わらずの三期生w
:ユキくんの寝言助かる
:ココママがまともだw
:ユキくんが寝ちゃったからな
ココネ:『とりあえず、温泉旅行に来てるので、昼の話でもしましょうか?』
ユイ :『うみゅ、温泉に入ったの!』
ココネ:『さ、さすがにそれだけじゃわからないですよ。順番に話していきますね。えっと、まずは駅で待ち合わせをした話からですね』
◇◇◇
温泉旅行当日。
僕はリュックとトランクを必死に運んで、待ち合わせ場所に来ていた。
「うぅぅ……、重い……」
こうやって誰かと旅行に行くということがなかったので、必要になりそうな荷物を片っ端から準備していた。
その結果が今の大量の荷物だった。
「あっ、祐季くん、おはよ……って、その荷物、どうしたの!?」
僕の姿を見た瞬間にこよりさんは驚きの声を上げる。
「おはよう、こよりさん。えっと、旅行の荷物だよ??」
「夜逃げでもしたのかと思ったよ!? 重くないの?」
「あ、あははっ……」
「重いのですね。ちょっとこっちに来て! まだ私の家の方が近いから、いらない荷物は置いておこう?」
「だ、大丈夫だよ!? このくらい――」
「いいから!」
こよりさんに引っ張られて、一旦彼女の家へと向かう。
そして、着いた瞬間に鞄がひっくり返される。
「えっ!? ちょ、ちょっと、こよりさん??」
「うーん、これもいらない。あれもいらない……」
ぽいっ、ぽいっ、っと避けられていく荷物たち。
「祐季くん、さすがに温泉旅行へ行くのに温泉の元はいらないよ? いくらなんでも……」
「で、でも、いざ行ったときに、温泉が工事中で入れない……とかなったら、みんな困るかなって。ちょっとでも、温泉の気分が味わえるかなって――」
「考えすぎだよ。それに温泉街へ旅行に行くのだから、どこか入れるよ。うーん、ちょっと私が整理するから、祐季くんはこの服に着替えておいて!」
こよりさんに、ユキ犬姫の衣装を渡される。
薄黄色のフリルやリボンがたくさんあしらわれた純白のドレス風ワンピース。
あまりにも高い完成度。
サイズもぴったり。
どう考えても僕用に作られたものだった。
「うん、わかったよ……。って、えっ!? ど、どうして、こんなものがここにあるの!?」
「担当さんから預かってきたよ! 『写真よろね!』ってコメントを添えてね」
「き、着ないよ!? い、今の格好でも頑張ってるんだからね!?」
今の僕の格好は通常のユキくんスタイルだった。
ワンピースと犬耳パーカー。それにレギンス。
こよりさんに買ってもらったもので、知り合いに会うときや、近くの場所へ行くときなら問題はないのだけど、やっぱり旅行ともなると勇気がいる。
そのおかげで、昨日もろくに寝ることができなかった。
ただ、旅行の前日なら普通だよね?
「えっ? 着てくれないの?」
こよりさんが凄く悲しそうな表情をする。
「うっ……。あっ、えとえと……、その……」
さすがにそんな表情をされると僕も言葉に詰まってしまう。
「祐季くん……、私の事が嫌いになった……?」
「そ、そんなことないよ!?」
「なら、着てくれる……?」
「うぅ……、うぅ……、わ、わかったよ。ちょっとだけだからね?」
「やったー! はいっ、これとこれ、あとはこれもいるかな?」
服だけじゃなくて、ヘッドドレスから靴下、挙げ句の果てに靴すらも渡される。
そして、こよりさんは満面の笑みを浮かべていた。
それを見て、僕は謀られたことに気づく。
「だ、騙されたの、僕!?」
そう言いながらも言ってしまった以上、着ないわけにはいかないので、僕は渋々ユキ犬姫の格好をすることになった。
◇◇◇
「うぅぅ……、は、恥ずかしいよ……」
着替え終わった僕は顔を真っ赤にしながら、ギュッと服を握りしめて恥ずかしさを堪えていた。
すると、こよりさんは恍惚の表情を浮かべて、何度も写真を撮ってくる。
「祐季くん、とってもかわいいよ。額に入れて飾りたいよ。はぁ……はぁ……」
「ちょっ!? 危ない人になってるよ!?」
「危なくないよ? ほらっ、ちょっと写真を撮ってるだけだよ?」
「撮らなくていい……。撮らなくていいから……」
「また一つ、祐季くんアルバムの写真が追加されたよ」
「いつの間にそんなアルバムが!?」
「あっ、これは秘密でした。忘れて下さい」
「忘れられないよ!? うぅぅ……、恥ずかしいよ……。なんだか、スースーするし……」
今まで着てきた服は下にレギンスを履いて、まだ男としての威厳を保っていた。
しかし、今回は素足を出している。
長めの靴下を履いているとはいえ、それがレギンスの代わりにはなり得ない。
つまり、いつもの数倍、数十倍、いやもっとかもしれない。
そのくらい恥ずかしいのだった。
「この下にズボン、履いて良い?」
一応こよりさんに確認をすると、笑顔ですぐに返事してくれる。
「ダメ! だよ」
「――だよね……。うん、知ってたよ……」
「だって、こんなに可愛いんだから。祐季くんはかわいい。かわいいは正義だよ!」
この話題を続けると、更に何か着させられるかもしれない。
少し離れた方が良いかもしれない。
「そ、そうだ。こよりさん、僕の荷物はどうなったの?」
「あっ、準備できてるよ。ほらっ」
僕が話題を変えようとしたことに気づいていないのか、こよりさんは普通にトランクを渡してくる。
たくさんあった荷物は、どういう魔法を使ったのか、トランク一つだけに収まっていた。
「す、すごい……」
「えへへっ。これが私の収納術だよ。必要最低限のものだけ持っていけば十分だからね」
「ほ、本当にありがたいよ……。こよりさん、ありがとう」
「うん、それなら次は水着に――」
「そ、そろそろ待ち合わせの時間じゃないかな!? ほらっ、こよりさん、もう行く準備をしないと!」
「あっ、もうそんな時間かぁ……。残念だね」
こよりは少し寂しそうな表情を浮かべていた。
「で、でも、旅行中はずっと一緒でしょ!? 違うのは夜、寝るときの部屋くらいかな? だから寂しくないよ?」
「えっと、少し違うけど、それもそうだね。うん、それじゃあ、行こっか?」
「うん、そうだね。それじゃあ、僕はそろそろ元の服に――」
「それじゃあ、行こっか?」
「僕の服――」
「行こっ?」
「うん、わかったよ……」
押し切られるまま、僕はユキ犬姫の姿で家の外に出ることになっていた。
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