第17話 三期生の温泉旅行(開始編)
まさか、本当にこの二人に勝てるなんて思わなかった。
勝敗がついた後も僕は信じられない気持ちのまま配信画面を眺めていた。
間違いなく僕の画面には『大富豪』という文字が浮かび上がっている。
そして、それは同時に貴虎先輩が都落ちで最下位になったことを意味していた。
タイガ:『ど、どうして俺が負けてるんだ! まだ俺は戦えるぞ!?』
タマキ:『もう戦えないのにゃ。タイガは最後の最後に油断したのにゃ』
タイガ:『くっ、きゅうり、猫を噛むとはこのことか!』
フウ :『えっと……、きゅうりではなくて窮鼠……だと思うポコよ?』
タイガ:『きゅーそ? なんだそれは』
フウ :『えっと、追い詰められたねず――』
タマキ:『それは狸のことにゃ。にゃっにゃっにゃっ、勇者を落としたところで奴は最弱にゃ。喜ぶのはこの魔王を倒してから――』
フウ :『これでフウは上がりポコ。……えっと、何か言ってたポコ?』
タマキ:『ぐ、ぐぬぬっ。で、でも、勝った数はにゃーたちの方が多いのにゃ!』
『でも、このゲームは最終順位が勝敗になるよね? つまり、僕たちの勝ちだよ!』
フウ :『や……。やったポコーーーー!! 勝ったポコーーーー!』
感極まったフウちゃんが隣にいる僕に向かって抱きついてくる。
それをサッとかわそうとするが、もちろん僕の動きを読んだユイが体を掴んできたせいで、なすすべなくそのまま抱きつかれてしまう。
『わわっ、ユイ!?』
ユイ :『うみゅ、今日は譲ってあげるの。ユイ、お姉さんだから』
フウ :『ありがとーポコ―』
ユキ :『ちょっ!? ぼ、僕は商品じゃないからね!?』
タマキ:『うにゃ、負けたのにゃ。仕方ないから何でも罰ゲームを言うといいのにゃ。さすがに全裸で外に出るのはなしにゃ!』
イツキ:『――ガタッ』
フウ :『ちょっと、イツキちゃん!! 反応しないでポコ!!』
タマキ:『にゃははっ、まぁ、女同士全裸になったところで恥ずかしくもないのにゃ。裸の付き合いも大切にゃ』
フウ :『そ、それポコ! ふうからの罰ゲームは用意してた温泉旅行のチケットをふうにください!』
タマキ:『にゃんだ、やっぱり裸同士のお付き合いがしたかったのにゃね。担当さんに渡しておくのにゃ』
フウ :『ち、違いますよ!? ただ、みんなで旅行に行きたいだけですからね!? みんなも楽しみにしてるだろうし、断るわけにはいかないポコ』
タマキ:『にゃははっ、にゃーにはわかっているのにゃ。狸は温泉でみんなの裸を見たいえっちぃ子なのにゃ』
イツキ:『よくわかったな!』
フウ :『ぜ、全然違うポコ!! そ、それじゃあ、ユキ先輩も罰ゲームをどうぞポコ』
ユキ?:『僕もユキ犬姫の衣装が欲しいな。もう準備してあるんだよね?』
タマキ:『もちろんにゃ。それじゃあ、ユキにはその衣装を送っておくのにゃ』
『えっ!? ぼ、僕、何も言ってない――』
ユイ :『うみゅー、これで収まるべきところに収まったの。ユキくんの新衣装、楽しみなの』
ユイがうれしそうな声を上げる。
もちろんさっきの声を出したのもユイだ。
僕の声真似をするのが日常茶飯事になってきているユイ。その精度も日に日に上がっており、一瞬僕が声を発したのかとすら思えてしまうほど……。
『えっと、僕そんな衣装をもらってもその……、誰かに見せるわけじゃないし……、その……』
ルル :『ユイ先輩――』
ユイ :『うみゅ、任せておくの!』
ルルとユイが何やら目でやりとりをしていた。
特に何か口に出しているわけではないが、なんでだろう……? 凄く嫌な気がした。
思わず身震いしてしまう。
とりあえず何も見なかったことにしよう。
【コメント】
:ユキ犬姫がリアルで誕生!
:どこに行ったらユキ犬姫は拾えますか?
:ユキ犬姫は段ボールの中にいることが少ないからな
:姫様だもんな
:ユキくん、似合いそう
『って、ちょっと!? ぼ、僕はそんな服、似合わないからね。ほ、ほらっ、今も――』
ユイ :『うみゅ、普通のユキくんの姿なの。とっても似合ってるの』
『うんうん、そうそう。普通の
ルル :『ユキ先輩はとってもかわいいですよ、安心してください!』
『全然安心できないよ!? むしろ身の危険を感じるよ!?』
【コメント】
:ユキくんの姿が似合うならユキ犬姫も似合うよな
:容易に想像が付くw
《:¥10,000 服代》
『えとえと、ふ、服代はその……、猫ノ瀬先輩の枠に投げてください。で、でも、ありがとうございます』
タイガ:『ユキの服か!? なら俺はとっておきの段ボールを用意してやろう! ユキがそのまま入れるような特別デッカくて運びやすい新品のやつだ! 大は小を食べるからな』
タマキ:『兼ねる、にゃ』
『ほ、本当ですか!? あ、ありがとうございます!』
僕が笑顔を見せながらお礼を言う。
【コメント】
:ユキくん、今日一番の笑顔だw
:なるほど、ユキくんの誕生日には段ボールを大量に送ればいいのか
:ちょっと待て。俺は全然違うものを送ってしまったぞ?
:俺もだ!?
:しまった……。もう少し早くに知っていれば――
:ふふふっ、俺はとっておきの段ボールを送ったぞ! 中に別のものを入れてしまったが
:新品じゃないと意味がないぞ!?
『あっ、誕生日プレゼント……。たくさん届いているって聞いてます。本当にありがとうございます。ただ、その……僕の部屋が埋まってしまいそうだから、まだ運営さんに預かってもらってるんだ……。そ、その……、量が……ね』
一度シロルームの本社で見たけど、倉庫一つ埋まるほどの段ボールが置かれていた。
あれが全て僕へのプレゼントじゃないと思うけど……。
――ち、違うよね!?
自分でフラグを立てていっている気がするけど、この際気にしないことにする。
タマキ:『倉庫、まるまる埋まるなんてユキはみんなに愛されてるのにゃ』
ユイ :『ユキくんはユイのものなの!』
ルル :『いえ、ユキ先輩はぼくのものです!!』
イツキ:『あらっ、女の子同士の対立? お姉さんも挟まれるために参加しようかしら?』
アカネ:『ユキくんは私が奪っていくぞ!』
コウ :『はいはい。アカネはちょっと黙っててね』
アカネ:『くっ、コウがいるせいで身動きが上手くとれない……』
また、みんなの暴走が始まりだしている……。このままだとまずそうだ。
僕はチラッとフウちゃんの顔を見る。
すると、フウちゃんは理解してくれたようで、一度頷いてくれる。
フウ :『わかったポコ。ふうに任せて欲しいポコ!』
四期生のこととなるとフウちゃんが頼りになるな。
『ポンにはポコだよね。うん、やっぱりフウちゃんしか勝たん』
笑みを浮かべて頷いていると、フウちゃんはとんでもない言葉を告げてくる。
フウ :『ユキ先輩はふうの頼れる先輩ポコ。もちろん、ふうがもらっていくポコ。賞品ポコ』
『ふ、フウちゃん!?』
フウ :『ということで、今度は二人きりでオフコラボしましょうね。ユキ先輩』
にっこりと微笑んでくるフウちゃん。
屈託のない笑顔を見ると僕も断る……という選択肢を選ぶわけには行かずに――。
『えっと、その……、また熟考をして返事を――』
フウ :『日にちは温泉旅行の後。八月の頭で予定しておきますね』
『わわっ、ま、まだ僕、返事をしてないよ……』
フウ :『えへへっ、ユキ先輩のことはルルちゃんからしっかり聞いてますから。押してダメなら体当たりしろって』
『うぅぅ……、ルルぅ……』
ルル :『ぼくはただ、ユキ先輩の良いところを広めたかっただけですよ? 本音では、あまりコラボをしたくなくて断りたいけど、頼られたら断り切れずに悩んでしまうユキ先輩とか、ぼくだけしか知らない姿は自慢したくて――』
フウ :『ほ、本当に予定があるとかなら延期しますので、そのときは遠慮なく言ってくださいね』
イツキ:『フウちゃん、興奮して語尾を忘れてるわよ』
フウ :『あっ……。ぽ、ぽこぽこ……』
『ははっ……、わかったよ。うん、知らない人とやるよりは全然大丈夫だから……。それに今度は邪魔されないように、二人でしよっか?』
フウ :『いいポコか!? あ、ありがとうございます、ユキ先輩!』
一度は離れてくれていたフウは感極まって、再び僕に飛びついてくる。
もちろん僕が避けられないようにユイがしっかり逃げ道を塞いでいるので、為す術なく僕は抱きつかれていた。
ルル :『あっ、フウが裏切りを!? ゆ、ユキ先輩はぼくのものなんだからね!!』
ルルが僕たちの間を割って入るように飛びついてくる。
それを皮切りにポンたちが一斉に動き出す。
ユイ :『ならユイも――』
隣にいるユイがさも当然のようにそのまま僕を抱きしめてくる。
そして、他の面々も僕たちの方へ向かって飛びついてきて――。
エミリ:『フウちゃんまで!? 二人ともユキ先輩には渡さないからね!!』
イツキ:『お姉さんを混ぜてくれないなんて酷いわよ』
アカネ:『はははっ、この場は混ぜ返さないとアカネ様の名が廃るね?』
コウ :『はぁ、全く……。ここまで暴走すると少し引くまで止められないね。むしろ、ここは流れに乗らないのも変だよね?』
こ、コウ先輩まで……。
みんなに飛びつかれた僕は重さに耐えかねて、そのまま目を回していた。
この放送は終了しました。
『《♯シロルーム遊び合戦ポンぽこ》タマキンにさらわれたユキ犬姫を救うため、勇者タイガとペットの狸が魔王に挑む!《猫虎vs犬狸》《犬狸視点》』
12.0万人が視聴 0分前に配信済み
⤴2.6万 ⤵28 ➦共有 ≡₊保存 …
チャンネル名:Huu Room.狸川フウ
チャンネル登録者数18.3万人
◇◇◇
無事にポンぽこ大戦が終わり、次の日には担当さんから連絡が来ていた。
マネ :『ユキくん、猫ノ瀬さんから贈り物が届いてますよ』
ユキ :『えっ!? もう届いたのですか!? いくら何でも早すぎる……』
マネ :『前もって送っていたみたいですね。まぁ、あの二人に勝つなんて信じられないですから』
ユキ :『ははっ……、まぁ、実質二対八でしたもんね。ここまで人数差があったらさすがに勝たないと……』
マネ :『それでも……、ですよ。それにあそこまで人を集められたのはユキくんたちの人望のおかげです』
ユキ :『どちらかといえば僕、というよりフウちゃんでしたね』
マネ :『そんなことないですよ。ココネさんも行きたがってましたよ。カグラさんも。他にもオンプさんがさり気なく酷い罰ゲームにならないように裏から手を回してくれてたり、猫ノ瀬さんがその……、
ユキ :『えっと、ゆ、ユージさんの扱い、酷くないですか?』
マネ :『いえ、これはユージさんからの提案だったのですよ。その、猫ノ瀬さんは色々とありまして、本当にどこまで裏で手を引いてるかわかりませんでしたから、そこを抑えられたのはユキくんの人望なんですよ』
ユキ :『えっと……、そ、そこまでするんだ……』
マネ :『えぇ。勝つためにはどんなことでもする子、ですよ。特に勝ちたい、と思ったときには――』
ユキ :『それじゃあ、昨日僕勝ったのってまずかったんじゃないのですか?』
もしかして、猫ノ瀬先輩に嫌われた!?
急に不安が押し寄せてくる。
マネ :『大丈夫ですよ。むしろ、ライバル認定して『次は勝つ!』と闘争心をメラメラに燃やしてましたよ』
ユキ :『それはそれで困るような……』
マネ :『頑張ってくださいね。あと、ついに来週ですね。ココネさんにチケットを渡してますけど準備はできてますか?』
ユキ :『準備? 来週って何かありましたか? ココママとコラボ?』
マネ :『やっぱり忘れてましたか。三期生の旅行ですよ!』
ユキ :『旅行? ……あっ!?』
そういえば三期生全員で温泉旅行に行くことになっていた。
しっかり、夏にタイミングを合わせて……。
マネ :『そうだと思いましたよ。一応明日、ココネさんに時間を取ってもらってますから準備に付き合ってもらってください。配信は二日間お休みですよね?』
ユキ :『ま、まさか、このために休みを取っていたのですか!? 積んでたゲームをしようとしたのに……』
マネ :『積みゲームですか? 例えばどういったものですか?』
ユキ :『えっと、竜のクエストとかですよ。一人でするRPGが多いです』
マネ :『あっ、そちらなら大丈夫ですよ。タイトルごとに聞いてくれたら配信に使えるかどうか調べますから』
ユキ :『ふぇっ!? え、えっと、ど、どういうことですか!?』
マネ :『ゲーム枠で配信しましょうね』
ユキ :『えぇぇぇぇぇ!? ……いや、いいのかな? 僕の好きなことだから……』
マネ :『もちろんですよ、ユキくん。遠慮なく配信しちゃってください。それじゃあ積んでるタイトルは今度教えてくださいね。配信できるかはこちらで調べておきますので』
ユキ :『で、でも、ゲームってやり出したら止まらないから、一人だと結構長時間しちゃうかも……』
マネ :『そうですね。あんまり長いと大変ですからね』
ユキ :『ですよね。だから、この話はなかったことに――』
マネ :『前、ユイさんが一週間耐久ゲーム配信をしようとしたときはさすがに止めちゃいましたね』
ユキ :『えっと、僕の配信は米粒みたいな短さなのでやらせていただきます……』
そうだった……。シロルームはこういうところだった……。
断る基準が一週間なら、数日徹夜する程度だとむしろ歓迎されてしまいそうだ。
僕はガックリと肩を落としていた。
マネ :『ユキくんが構わないならそれでいいのですけど……』
ユキ :『えっと、それじゃあ、僕はココママに明日の予定を聞いておけばいいのですね? 僕のために時間を作ってもらうのも悪いから、僕一人でも――』
マネ :『大喜びして配信を急遽休むことにしてましたよ?』
ユキ :『な、なんでそこまで!?』
マネ :『だって、最近ユキくん、他の人とのコラボばかりでココネさんと会うこと、減ってますよね? 寂しがっていましたよ?』
ユキ :『コラボの予定を入れたのって担当さんですよね?』
マネ :『それでも……ですね。ほらっ、ユキくんって用事がないと連絡しないですよね?』
ユキ :『そ、そういうものじゃないのですか?』
マネ :『――まぁ、ユキくんにそういうことを求めても仕方ないですよね。なので、明日はたっぷりココネさんに付き合ってあげてくださいね』
ユキ :『あれっ? 明日は僕の旅行の準備――』
気がついたら目的が変わってるんだけど……?
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