第16話:シロルーム遊び合戦ポンぽこ、らすとぱーと

「えっと、突然押し寄せてごめんなさい。流石にアカネを一人、野放しにするのは飼い主としてどうかと思ったの」


「いえ、僕としては助かりました。ちょっとその……濃いメンバーだけが集まってしまいましたから……」


「まぁ、そうね。これがシロルームと言ってしまったらおしまいだけど、基本暴走する子ばっかりだから早めに慣れておくと楽でいいよ」


「えっと、とても慣れる気がしないです……」


「そこは……ファイトだよ!!」




 コウ先輩が応援してくれる。




「わ、わかりました。が、頑張らせていただきます」


「うんうん、その意気だよ」


「うみゅー! ユキくんがもう起きてるの!! まだ、ゆっくり寝てないとダメなの!!」


「えっと、僕はもう目が覚めたから……」


「だーめーなーのー!! ユキくんが倒れたらみんな心配するの!」


「ははっ……、良い仲間を持ったね。これはゆっくり休むしかないね」


「そうみたいですね……。でも、さすがにこれだけ集まるとその……気になって寝られないですよ」


「まぁ、普通の部屋に合計八人だもんね。座ってるだけで精一杯かも」


「うみゅー。だからユキくんはベッドなの。ユイもベッドなの」


「ぼくもベッド……」


「はいはい、ルルちゃんは私たちと一緒に固まるからね」


「うぅぅ……、ユキ先輩の寝顔がぁぁぁ……」


「よし、なら私が!」


「アカネ? いらないことをしたら捨てるよ?」


「えっと、ゴミ箱??」


「ううん、焼却炉」




 満面の笑みを浮かべながら伝えるコウ先輩。

 あまりにも普段通りの口調から本当にやりかねないと思えてしまう。

 だからこそ、アカネは慌てて首を横に振る。




「な、何もしないから燃やさないで!」


「うんうん、何もしなかったら良いよ」


「ほっ……」


「良く燃えてるから、炎上の単語は怖いんだね」


「そ、そんなことないよ! 私は最凶魔王! 燃えることなんて造作もないの」


「それじゃあ、また燃えてみる?」


「は、はははっ、そ、その程度で私に勝ったと思うなよー」




 体を震わせながらも何とか強がってみせるアカネはその指をコウに突きつけていた。




「……別に勝ち負けを競ってないよ。とにかくアカネは暴れないでね」


「――コウの膝に座らせてくれたら考える」


「はぁ……、わかったよ。ボクの膝に座ってくれたら良いから……」


「やったー」




 アカネがうれしそうにコウの膝の上に座る。

 それを見ていた葵が未来美を自分の膝に座らせる。

 すると、未来美は驚いて顔を真っ赤にしていた。




「えっ? えっ? あ、葵ちゃん!?」


「はははっ、お姉さんの膝に座らせてあげよう」


「えとえと、べ、別に私は座りたいわけじゃなくて……」


「お姉さんが座らせてあげたいのよ」


「うぅぅ……、へ、部屋が狭いから仕方ないんだよね? ……わ、わかったよ。このままで我慢する」


「もっと正直に言うと良い。実はミクちゃんはお姉さんの膝に座りたかった、と」


「うぅぅ……、座るならお酒臭くない人が良かったよ……」




 未来美たちの様子を見ていたエミリが自分の膝とルルの姿を見比べていた。

 そして、覚悟を決めて声を出す。




「あの、ルル? 良かったら私たちも……」


「ゆーきせんぱーい、ぼくを膝に座らせてくださーい」


「あっ……」




 ベッドの方へ駆け出していくルルを見て、エミリは声を漏らす。

 そして――。



 ぽこぽこ……。



 机をたたき出すエミリ。




「そ、それ、パソコンデスクだから……、だ、ダメだよ……」




 葵の上に座っていた未来美が慌てて立ち上がるとエミリを後ろから抱きしめる。




「エミリちゃん、パソコン壊れちゃう……」


「あっ……、うん。ごめんね……」




 すぐにエミリが叩くのをやめてくれるので、未来美はホッとため息をついていた。




「あと、ルルちゃん! さっきもユキ先輩を休ませてあげるって言ったよね?」


「うぅぅぅぅ……、わ、わかったよ。あぅ!?」


「ふふふっ、ルルちゃん。捕まえたー」




 未来美が退いた後、いつの間にか葵はルルの側に寄っていて、捕まえてしまった。

 足をバタつかせるルル。

 しかし、この中でも特に小柄のルルに逃れる術はなかった。




「お姉さん、今日は凄く役得なの」


「うぅぅ……、ユキ先輩が側にいるのに触れないなんて、厄日だよー」




◇◇◇

『《♯シロルーム遊び合戦ポンぽこ》タマキンにさらわれたユキ犬姫を救うため、勇者タイガとペットの狸が魔王に挑む!《猫虎vs犬狸》《犬狸視点》』

2.1万人が待機中 20XX/07/25 20:00に公開予定

⤴874 ⤵1 ➦共有 ≡₊保存 …




 ついに放送開始間際になってしまった。

 パソコンの前に僕と未来美が隣同士に座り、周りを囲むように他のみんながいた。




「うぅぅ……、飲み過ぎたわ……」




 一人既に脱落状態だったが、そこは気にせずに配信の方へと意識を向ける。

 待機画面は例のごとくアカネ先輩が描いた物。


 コウモリが飛び交う邪悪な城をバックに、怪しげなマントに身を包んだ猫ノ瀬先輩と、勇者の服装を着て訳がわからなさそうに魔王の隣に立つ貴虎先輩、猫ノ瀬先輩の手を掴まれて、涙を流しながら助けを求めているユキ犬姫ぼくとその三人を睨み付ける狸。フウちゃんではなく、紛うことなき狸。




「って、フウは本物の狸さんじゃないポコー!?」




 と配信モードに入っていたフウが叫んでいたのが聞こえた。

 ミュートだったので、ここにいるメンバーにしか聞こえないが、その反応を見たアカネ先輩は満足そうな表情を見せていた。



 ただ、リスナーの人たちはその画像を見て喜んでいるようだった。




【コメント】

:こんぽこー

:こんわふー

:まさか本物の狸がw

:狸www

:ユキくんが似合いすぎてるw

:それを言うならタマキンの魔王がイメージ通りなのだがw

:勇者、そっちは敵側だwww




タマキ:『そろそろ準備はいいかにゃ?』


タイガ:『もちろんだ! いつでもかかってこい!』


タマキ:『だからにゃーたちは味方にゃ。いい加減わかってほしいのにゃ』


タイガ:『敵も味方も吹き飛ばす!』


ユキ :『えっと、吹き飛ばしたらダメだよ……わふっ』


タマキ:『にゃにゃ!? それが噂のユキくん犬モードかにゃ。とってもいいのにゃ』


ユキ :『うぅぅ……、約束は約束だから仕方ないんだよ……、わふ』


フウ :『ユキ先輩はいいポコ。ふうはその……、ポコを名乗らないといけないポコ』


タマキ:『二人とも気合十分なのにゃ。これはにゃーたちも本気で行かないとまずいのにゃ』


タイガ:『任せろ! 全ツッパでいってやる!』


タマキ:『ち、違うのにゃ。にゃーが言った通りにするのにゃ』


タイガ:『それじゃあ始めるぞ!』


タマキ:『ま、待つにゃ! まだ話は終わって――』




 珍しく猫ノ瀬先輩が慌てている声が聞こえた。

 しかし、無常にも配信が開始されてしまう。


 そのタイミングで僕たちの見ている画面には四人のアバターが映し出されていた。




タマキ:『にゃははっ。よくぞきた、勇者ポコよ! 我こそはシロルームの裏番長にして、大魔王猫ノ瀬タマキなのにゃ!』


タイガ:『ちょっと待て! 勇者はこの貴虎タイガだぞ!?』


タマキ:『わかってるのにゃ。でも、勇者と魔王が手を組むのはおかしいのにゃ』


タイガ:『んっ? 何もおかしくないぞ?』


タマキ:『そうなのかにゃ? それなら気にしないのにゃ。では、よくぞ来たのにゃ、狸ポコよ。世界の半分を支払えば仲間にしてやってもいいのにゃ』


フウ :『ちょ、ちょっと待つぽこ! それだとフウ……ポコは踏んだり蹴ったりポコ!』


タイガ:『なんだ? 踏まれたかったのか?』


フウ :『ふ、踏まれたくないポコ!』


ユキ?:『わふっ、それよりも話を進めないと……。配信時間がなくなってしまうよ。……わふ』


『ちょ、ちょっと待ってよ、ユイ。勝手にしゃべらないで!? ……わ、わふぅ』


ユイ :『うみゅ、仕方ないの。ユイはユキくんのブレーンに戻るの』


タマキ:『にゃははっ、なるほどにゃ。しっかりニャーたちに勝つ準備はしてきた様にゃ。これで安心して挑めるのにゃ』




【コメント】

:なるほど、ユキくんにはゆいっちがついてるのか

:ゲーム勝負なら確かにゆいっちだな

:これはもしかすると勝ち目があるかもしれないな




タイガ:『おう、一人でも百人でもかかってこい!』


タマキ:『さすがに百人は多いのにゃ』


『そういってくれると思ったから、僕たちは助っ人を呼んでるよ……わふっ。一応事前に確認もしたけど――』


タイガ:『知らん!』


『わ、わふぅ……』


タマキ:『にゃははっ、にゃーはしっかり聞いているのにゃ。もちろん問題ないのにゃ。こっちには最強の幸運トラが付いているのにゃ』


タイガ:『俺のことか。任せておけ! タマキもろとも全て倒してやる!』


タマキ:『にゃにゃ!? だからにゃーは味方なのにゃ!?』


『……うん、ということで一応僕たちのサポートをしてくれる人たちを紹介……するのはやめておくよ。……わふわふ』




 今のメンバーを見て考えを改める。

 確かにゲーム対決である以上、ユイがいるという点はプラスに働くだろう。

 でも、残りのメンバーは?



 右を見ても、左を見ても、ポンポンポン……。



 唯一違うのはコウ先輩だけ。

 ただ、コウ先輩にはみんなをまとめ上げて欲しいから……。




アカネ:『酷いよ、ユキくん! このアカネちゃんを紹介しないなんて、全地球の損失だよ!? アカネさんがいないとゲームに勝てないと言ってきたのはユキくんじゃないか!?』


『そんなこと言ってないよ!? そ、その……、手を貸してくれるのはありがたいわふけど』




【コメント】

:あっ……

:察した……

:ポンVS最凶か

:ユキくんたちの罰ゲームは何だろうな?




『ま、まだ負けたわけじゃないよ!? そ、それにコウ先輩も来てくれてるから大丈夫だからね。わふぅぅぅ……』


フウ :『と、とにかく勝負をしてみたらわかるポコよ。やるのは大富豪でいいポコか?』


タイガ:『おう、金を稼いだら良いんだな?』


タマキ:『全然違うのにゃ。でも、いいのかにゃ? これはにゃーたちに有利なのにゃ』

フウ :『大丈夫ポコよ。そのためにみんな集まってもらったポコから。……うん、一人酔い潰れてるけど……』




 フウは服がはだけ、へその辺りが見えている葵を見て苦笑を浮かべていた。




タマキ:『それなら問題ないのにゃ。それじゃあ、早速始めていくのにゃ』




 こうして雑談もそこそこに大富豪は始まった。




◇◇◇




 配られた手配を見る。




『うっ……』




 どうやったら勝てるのか、全く見えないほど酷い手札。

 弱いカードのペアがある程度で、一番強いカードはQ。

 階段にもならない程度にマークが別れ、8も一枚だけ。




タマキ:『あっ、ユキは酷い手札だったのにゃ』


『そ、そ、そんなことないよ!? つ、つよつよのカードばっかりで困っただけだよ。……わふっ』


タイガ:『なにっ!? ユキは強いのか!?』


タマキ:『タイガは何も考えずに全力を出すだけでいいのにゃ。あとはにゃーがなんとかするのにゃ』


タイガ:『当たり前だ! 勝負は常に全力。当然だ!』


フウ :『ふ、ふう……、ポコたちが返り討ちにするポコ。ぜ、絶対に負けないポコ!』


『あっ、そ、そうだ。この勝負って負けた方に罰ゲームがあるの?』


タマキ:『もちろんにゃ。負けたチームは勝ったチームのいうことを聞いてもらうのにゃ。一人一つずつがちょうどいいのにゃ』


『や、やっぱりそうなるよね。うん、頑張る……わふっ!』




 グッと気合いを入れるとすぐにユイに相談をする。




「えっと……、これって勝ち目あるかな?」


「……ないの。うーん、この手札だとどう動くかな……?」




 僕の方に体を寄せ付けながら一緒にモニターを見て悩んでくれるユイ。

 後ろからはアカネ先輩とコウ先輩の視線を感じるが、そちらはなるべく気にしないようにする。


 フウの方も四期生の面々が付いている。

 ただ、ルルはチラチラと僕の方を見ているし、エミリはそんなルルを見てガンガンと机を叩いているし、葵は寝ている。

 向こうの方が大変そうだな……。




「えっと、僕はユイがいたら平気なのでフウちゃんを手伝ってあげてください」




 アカネ先輩とコウ先輩に対して、そう告げる。




「そうね……。確かにユイちゃんがいたらユキくんは大丈夫だね」


「激うまな裏ボスの私もいるぞ!」


「えっと、上手いアカネ先輩はフウちゃんを手伝ってもらえますか?」


「あぁ、任せておけ! 私の力で勝ってあげよう」




 うれしそうに笑みを浮かべながらフウの側へ向かうアカネ先輩。

 その後ろに付いていくコウ先輩。




「うみゅ、決まったの! ここはユキくんの力を任せるの!」


「えぇぇぇぇ!?!?」




 悩んでいたユイが出した結論はまさかの放置だった。




◇◇◇




 もちろんユイに見放され、最弱の手札を持っている僕に勝ち目があるはずもなかった。




タイガ:『はっはっはっ、俺のターン! ドロー!』


フウ :『な、何も引かないポコよ!?』


タイガ:『喰らえ!! 今必殺の2だ!』




 僕が3を一枚出した後、いきなり最強の2を出してくるタイガ。

 もちろんそれより強いカードはジョーカーしかないわけで――。




フウ :『ぱ、パス、ポコ』


タマキ:『にゃははっ。にゃーももちろんパスにゃ』


『ぼ、僕もパスだよ。……わふっ』


タイガ:『俺に勝てる奴はいない!』


フウ :『ま、まだカードが一枚切れただけポコ。勝負はここからポコ』




 気合を入れるフウをよそにタイガは再び2のカードを出していた。




フウ :『ふぇっ!?』


『わ、わふっ!? ど、どうして??』




 確かに強いカードだが、わざわざ他のカードがないタイミングで出すものでもない。

 僕が不思議に思っていると、貴虎先輩はさも当然のように言ってくる。




タイガ:『んっ? 強いカードを出したら勝てるんだろう?』


『……??』




 なぜかルールが湾曲して伝えられていた。




『猫ノ瀬先輩、それってどういう……?』


タマキ:『――それ以上難しいことを理解してもらえなかったのにゃ……』




 猫ノ瀬先輩が遠い目をする。

 それを聞いて僕も乾いた笑みを浮かべていた。




『わふっ、そ、そういうことなんだね……わふっ』


タマキ:『でも、逆を言えばそれだけのルールだけ知っておけば、タイガは勝てると踏んだのにゃ』


タイガ:『ふははっ、多少のハンデくらいで勝てると思うなよ』




 えっと……、いいのかな?

 せっかくの強いカードをこんな無駄にして……。


 そんなことを思いながら流される2のカードを見ていた。

 そこから、同じことが二回繰り返されたが……。




◇◇◇




 まさかそのあと、強い順位カードを出されていくとは思わなかった。

 結局僕たちは一枚も出すことなくタイガが一番最初に上がり、大富豪になっていた。




タイガ:『圧勝だ!!』


『――えっと、何この状況……わふっ』


フウ :『運が強いってレベルじゃないポコ!?』


タマキ:『にゃははっ。どうだ、参ったかにゃー』




 その後、なぜかジョーカーだけ隠し持っていた猫ノ瀬先輩が二位に。

 フウちゃんが三位になり、僕は最下位の大貧民となっていた。




タマキ:『にゃははっ、このまま最下位を独走するのかにゃ?』


『ま、まだだよ。そ、それに五回勝負で最後の順位で勝敗を分けるはずだよ?』


タマキ:『強いカードを渡してまで勝てると思うなにゃ』




【コメント】

:確かにこれはきついな

:ユキくん、勝てるのか?

:幸運トラはともかく、タマキンも魔王を名乗ってるだけあって上手いな

:ユイっちがいても勝てないのか?




 コメントが流れてる中、僕は隣にいるユイに話しかける。



「やっぱり負けちゃったよ……。これからどうするの?」


「うみゅー。二枚カードを交換できるのは強みなの。それで今の戦いではっきりタイガの弱点もわかったの。あとはユキくん自身の運しだいなの」


「僕の……運??」


「勝てるタイミングが来たら起こして欲しいの」




 ユイが僕の膝を枕に寝ようとする。




「ちょっ!? ゆ、ユイ!? 寝たらダメだよ!? 死ぬよ!? ……僕が」


「うみゅー……、そのときはそのときなのー。大人しく罰ゲームを受けると良いの」


「そ、そんな……」


「でも、勝てる手札が来たときはゆいを信じて欲しいの。何があってもゆいがユキくんを勝たせるの」




 それだけいうと、本当にユイは目を閉じてしまった。




◇◇◇




 彼女が目を覚ますことなく三戦が終わり、一切順位の変動がなかった。


 そして、最終戦。




タマキ:『にゃにゃ、やっぱりにゃーたちには勝てないにゃ』


タイガ:『はははっ、最強の勇者に勝てるはずないだろう!』


フウ :『うぅぅ……、どうするポコ。このままだと罰ゲームが……』


ユキ?:『問題ないよ』


『って、またユイが喋ってる!? ほらっ、喋るなら僕の隣に表示してもらうから……わふっ』


ユイ:『うみゅー、めんどうなのー』




 フウちゃんが表示してくれたので、仕方なくそのまま喋るユイ。




『それより、本当に問題ないの? だって、この手札……』




 ぱっと見たかぎりだと、最初配られたときよりも悪い。


 三枚ペアが二つあるくらいだけど、そもそもこれを出すタイミングが最初しかなさそうだ。




ユイ :『うみゅー、やっぱりこの手札が来たの。パターンを見た限り多分来ると思ったの。だからユキは安心して見てると良いの。ユイがいうことに間違いはないの』




 自信たっぷりの表情を見せるユイ。

 ただ、僕にはどうしてそこまで自信が持てるのかわからない。


 ただ、猫ノ瀬先輩は何かを察したようだった。




タマキ:『にゃにゃ、もしかして……』


ユイ :『ふふふっ、ことゲームにおいてユイに負けはないの』


タマキ:『ぐぬぬっ、相手の力を測り損ねたのにゃ』




 ユイとタマキのやりとりの中、僕とフウちゃんはついていけずにその場で呆けていた。




『えっと、どういうことかな? ……わふぅ』


フウ :『え、えっと……ポコにもよくわからないポコ……』


タイガ:『はははっ、私に負けはなーい!』




 ぼんやりしている三人。

 すると、ユイとタマキが突然静かになっていた。


 手元を見た限りだとスマホの文字を打っているので、チャットで何かやり合っているのだろう。




ユイ :『うみゅ、わかったの』


タマキ:『にゃにゃにゃ、絶対に負けないのにゃ』


ユイ :『うみゅー、ユキくんはユイの指示に従ってくれたら勝てるの』


『ユイ……』




 いつにもなく頼もしいユイの姿に僕は感動すら覚えていた。

 そして、ユイが言っていたことをゲームが始まってすぐに思い知らされる。




『あっ……、これって――』




 四枚ペアのカードがあった。

 弱いカードが強くなる革命を起こせる。



 ――まさかユイはこうなることまで予測してたの??



 これは本当に勝てるかもしれない。




『ユイ、まず最初はもちろんこのカードだよね?』




 革命のカードを出そうとするけど、ユイは首を横に振っていた。




ユイ :『違うの』


『えっ?? でも、これしかないと思うけど……』


ユイ :『ユイが勝つためには、まずこっちのカードなの』




 ユイが指さしたのは三枚ペアの方だった。

 これも革命した後の方が強いと思うけど、何かユイに作戦があるんだろうな。




『ほ、本当に良いのかな?』


ユイ :『うみゅ、これで大丈夫なの。ユイを信じるの』




 カードを出そうとした瞬間に僕の動きが固まる。




『そういえばユイ。さっき、チャットをしてたけど相手ってもしかして猫ノ瀬先輩?』


タマキ:『うにゃ。そうなのにゃ。ユイっちには、ユキくんとフウちゃんが負けたときの罰ゲームを教えただけにゃ。ユキくんは【次のオフにユキ犬姫の服装をしてもらう】のにゃ。フウちゃんには【四期生たち全員で裸のお付き合いをしてもらう】のにゃ』


『えっ!?!?』


フウ :『えっ……!?』


『ちょ、ちょっと待って……。僕、ユキ犬姫の服装なんてもってない――』


タマキ:『既に準備済みなのにゃ。この勝敗如何で担当さんからユキくんへ届けられるのにゃ』


フウ :『ふう……、ポコも裸の付き合いだなんてそんな……』


タマキ:『にゃ、旅行の手配も準備済みなのにゃ。安心して行くといいにゃ! あっ、四期生とエロ特急は既に買収済みにゃ』




 それを聞いたフウは慌てて四期生たちの方に視線を向けていた。




「えっと……、ぼく、ユキ先輩があの服を着るの、見たくて……」


「四期生全員で旅行なんて私が反対するはずないよ!」


「お姉さんは全裸の付き合い、賛成よー」


「はははっ、ユキ犬姫衣装を着た姿を写真でくれると言われたら断る理由はない!」




 いつの間にこんな買収をしていたのか……。




『ちょ、ちょっと待って。つまり、僕たちはたった二人でみんなを相手にしないといけないの!?』


フウ :『か、勝てる気がしないポコ……』


タマキ:『はははっ、信じてた仲間に裏切られる気持ちはどうにゃ? たまには魔王らしいことをしてみたのにゃ』




――ど、どうしよう……。これ、ユイを信じたら負けるやつ……だよね? でも、本当にユイが裏切るような真似をするなんて……。



――勝てる手札が来たときはゆいを信じて欲しいの。



 先ほどのユイの言葉が僕の脳裏に浮かび上がる。


 うん、そうだよね……。難しいことは考えなくていいんだよね。僕はただ、ユイを信じたら良いだけなんだから――。



 僕は笑みを浮かべるとユイが言ったカードを場に出していた。



 5が三枚。



 さすがに三枚ペアはあまり持っていないと思うけど……。




タマキ:『にゃーはパスにゃ』




 タマキがすぐにパスしてくる。

 僕たちのカードが弱いので、強いカードは二人に固まっているのだろう。


 さすがにこのタイミングで、別カードを出すべきじゃないと思ったのだろうな。

 次にフウちゃんの番だった。




フウ :『えっと、これはどうしたらいいポコ……』




 四期生のみんなが敵側だとわかったフウちゃんは困惑していた。

 すると、その肩をポンッと叩く人物がいた。




コウ :『大丈夫よ。ボクが力になるから。その……、ゲームはそこまで得意じゃないけどね』




 コウ先輩が安心させるために笑顔を見せていた。


 それを聞いたフウちゃんは思わず目に涙を溜めていた。




フウ :『こ、コウ先輩……。あ、ありがとうございます……』


コウ :『でも、フウちゃんたち四期生もこんなことでバラバラになるような仲じゃないよね? みんなが離れそうなら引き戻すのはフウちゃんの役目だよ』


フウ :『……っ!? そ、そうですね。四期生のことはふうに任せてください』


コウ :『うんうん、それじゃあ、アカネのことは私に任せておいてね』




 満足そうな表情を浮かべるコウ。

 もうフウは大丈夫だと、すぐにその視線をアカネへと向けていた。




アカネ:『や、やるのか、コウ! いくらコウといえども溢れ出した私のパッションは止められないぞ!』


コウ :『……人に与えられたものでいいの? 違うでしょ? アカネはもっとすごいものを自分で生み出す側でしょ?』


アカネ:『……うぐっ。た、確かに、それはあるな』


コウ :『それに、ボクのアカネは誰かに使われるような人じゃないでしょ?』


アカネ:『あ、あぁ、そうだな。わかった、私はタマキンに使われるような人間ではなかったな。私は私だ! よし、それじゃあ早速、勝手にユキくんのあられもない姿を描いてくるか』





 あっさりアカネの説得に成功していたコウ先輩。それを見て、フウも気合を入れていた。




フウ :『エミリちゃんはふうの敵になるの? 四期生の仲を分断させるの?』


エミリ:『わ、私も別にフウを困らせたいわけじゃなくてその……、やっぱりみんなで旅行に行きたくて……』


フウ :『それなら勝って、罰ゲームで旅行券を奪っちゃおうか』




 フウがイタズラした子供のように舌を出すと、エミリは大きく頷いていた。




エミリ:『そっか……。そういう方法があったんだね。うん、わかったよ。それなら私はフウの味方をするわ。四期生の仲を分断させるわけにはいかないからね』


フウ :『ありがとう、エミリちゃん』




 フウがエミリを抱きしめると、彼女は嬉しそうに顔を赤く染めていた。




フウ :『さて、次はルルちゃんだね。ルルちゃん、本当にそんなことをしていいの?』


ルル :『どういうことかな? ぼくはただユキ先輩の可愛い姿を見たいだけで――』


フウ :『ユキ先輩に嫌われてまですることかな? 違うよね? ルルちゃんはユキ先輩の姿を見たいんじゃなくて、ユキ先輩自身に好かれたいんだよね?』


ルル :『うぅぅ……。た、確かにそうかも』


フウ :『なら嫌われるようなことをしたらダメ。ほらっ、ユキ先輩たちと一緒に魔王を倒そう?」


ルル :『うん、そうだね。ありがとう、フウちゃん。ぼく、道を間違えるところだったよ!』




 フウと熱い握手を交わすルル。

 これで二人。あとは――。




イツキ:『あとはお姉さんね。お姉さんはそうそう説得されたりは――』


フウ :『そう……。なら、明日からイツキちゃんのご飯は全てピーマンのみじん切りにしておくね。それじゃあ、ゲームを再開しよっか』


イツキ:『ちょっと待って!? お姉さんの説得だけ雑すぎない!? ほらっ、お姉さんにももっとこう、熱い抱擁を――』


フウ :『ナスの田楽もセットにしておくね』


イツキ:『全力でフウ様の力になりますので、勘弁してください』




 イツキは頭をつけて謝ってくる。

 全員を無事に説得できたフウは安心して、出すカードの相談をする。




フウ :『一応出せるカードはあるけど、どうする?』



 三枚あるのはフウの最強カードであるKだった。

 さすがにそれを出すのはもったいない気がする。


 でも、ルルがすぐに言ってくる。




ルル :『何かユキ先輩が企んでるね。これは出したほうが良くないかな?』


フウ :『ユキ先輩のことはルルちゃんが一番わかってるもんね。なら、このカードは出すね』




 フウがKを三枚出す。

 すると、貴虎先輩が不敵な声を出していた。




タイガ:『ふっふっふっ、この程度か。これでこの勇者を倒そうなどと片腹痛いわ!』


タマキ:『それにフウちゃん、語尾を忘れてるのにゃ。狸は狸らしくたぬたぬ言うといいにゃ』


フウ :『たぬたぬは言わないポコーーーー!!』




 フウの言葉が響き渡るその瞬間にタイガは1を二枚とジョーカー出していた。




タイガ:『俺も学んだぞ! ジョーカーはコピーカードだ!』


『えっと、違いますよ……わふっ』




 自信たっぷりに言うタイガに対して、僕は苦笑を浮かべる。


 もちろんカードは2も全てタイガが持っているので、他のみんなに出せるカードはない。

 場が流れ、再びタイガの番がくる。




タイガ:『カードが切れたら弱いのを出す。四天王最弱を召喚だ!』




 タイガが出したのは一枚のカード、7だった。


 珍しく弱めのカード。


 そして、次は僕の番が回ってくる。




ユイ :『うみゅー、これで不安要素がなくなったの。万一にも革命を返される心配がないの』


『えっと、それじゃあ、さっきあえて三枚を出したのって……』


ユイ :『うみゅ、ジョーカーを使わせるためなの。新しいルールを知った人は使いたくなるものなの。勝つために相手を観察するのも当然なの』




 ユイはえっへんと胸を張っていた。




『そ、それじゃあ、ユイは別に猫ノ瀬先輩に寝返ったわけじゃないんだね……』




 信じたとはいえ、どこか心の中で不安があった。

 だから、ユイが味方でいてくれたことにホッとしていた。




ユイ :『うみゅ、当然なの。相手がこういう手を使ってまで本気で挑んでくれてるのに、手を抜くなんてゲーマーのゆいには考えられないの! 相手が本気を出してるなら、こっちも本気で迎え撃つの! でも、カード傾向を分析するのは流石のゆいでも疲れたの。あとは任せるの』




 今度こそユイは僕の膝を枕に寝息を立て始める。


 それは珍しいユイの寝顔だった。


 すごく力になってくれたことに感謝をしながら、僕はユイの頭を軽く撫でていた。




『ありがとう、ユイ。ここまで頑張ってくれて……』


ユイ :『……うみゅうみゅ、ユイへのご褒美はユキ犬姫の衣装を着てくれるだけでいいな』


『うん……。って、えっ!?』


ユイ :『うみゅー、聞いたの。ユキくんはユイのためにユキ犬姫の衣装を着てくれるの!』




 ユイは目を開けて、ちょろっと舌を出していた。




『ま、また、僕をはめて――』


ユイ :『それよりもほらっ、早くゲームでトドメを刺してくるといいの。今の手札的にユキくんと狸が負けるはずないの』




 ユイに言われるがまま、僕はカードを出していき、そして、初めての大富豪を獲得していた。

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