第3話:凸撃、隣のモノマネ対決!? ♯猫羊

『《♯羊布団 ♯猫羊》凸撃、隣のモノマネ対決!?《羊沢ユイ/猫ノ瀬タマキ/シロルーム》』

2.1万人が待機中 20XX/06/01 21:00に公開予定

⤴1,290 ⤵2 ➦共有 ≡₊保存 …




 ユイはタマキと相談して、あえてコラボ配信のタイミングを一時間ずらしていた。

 もちろん担当には事前に確認済みで、許可はもらってある。



 理由は簡単で今回の配信内容にあった。



 特定の誰かのものまねをして、シロルームのライバーに電話。

 モノマネをしたユイたちが本物か、それとも別の人物かを当ててもらうというもの。

 そのためにシロルームメンバー全員のキャスコードアイコンも集めた。


 さすがに自分の名前のアカウントで通話をしたら、誰かバレてしまうので、そこを誤魔化すために準備したものだった。



 そして、皆が放送を終えるこのタイミングで通話。

 それなら流石に他人の放送は見ていないだろう、と。



 そして、本人か偽物かを答えてもらい、ユイとタマキのどちらが多く騙せるかを競いあうゲームだった。




タマキ:[絶対に負けないのにゃ!]


ユイ :[うにゅ、頑張ってなの。ゆいは適当にするの]


タマキ:[とか言って闘争心メラメラなんだにゃ。それともゲーム・・・で負けを認めるのかにゃ?]


ユイ :[うにゅ? それは違うの。猫相手だと適当にやってもぼろ勝ちしてしまうって意味なの。ゆいを本気にさせてから言うといいの]


タマキ:[適当と言いながら、やる気満々なのにゃ。でも、油断していられるのも今のうちにゃ。七色の声を持つにゃーに勝てるなら勝ってみるといいにゃ]


ユイ :[うみゅ。罰ゲーム忘れてない? 負けた方は勝った方のいうことを一つ聞くの]


タマキ:[わかってるのにゃ。とっても楽しみだにゃ]


ユイ :[うにゅ、猫が跪いて謝ってくるのを楽しみにしてるの]




 チャット画面から目を離したユイはユキからもらった羊の着ぐるみに身を包み、気合を入れる。そして、ユイは軽く自分の声色を確かめる。




「わ、わふぅ……。ぼ、僕はシロルーム三期生の雪城ユキです。そ、その、今日は拾いに来てくれてありがとう……」

「ここばんはー、シロルーム三期生の真心ココネですー。ママじゃないですよー」

「仕方ないから来てあげたわよ。神宮寺カグラ。カグヤじゃないからね!」




 同期三人の声を出してみる。




「うん、大丈夫……。でも、相手は何を考えているかわからないタマキ先輩。これだけじゃ不十分かも。本当に何を考えているか分からないもんね」




 相手は二期生の裏のまとめ役、と称される人物。


 一体何を考えているのか、全く読めなかった。



――わざわざ私の得意分野で勝負してくるなんて……。



 ただ、ユイとしても主導権を相手に握られるつもりもない。

 それに、何よりもゲーム・・・で負けるわけにはいかない。




「勝つのはユイなんだから」




 少し気合を入れた後、みんなの配信前に送られてきたユキくんのチャットを見る。



ユキ :[み、みんな、頑張って……]



 いかにもユキくんの緊張が伝わってくるその言葉。

 でも、同時に三期生みんなのことを心配してくれていることもよく伝わってくる。




「これはユキくんのためにも、負けられないね」




 さらに覚悟を決めるとユイは配信画面にミニアニメを流し始める。




◇◇◇




 ミニアニメが終わると配信画面に二つの段ボールを表示させる。

 ユキくんがいつも使ってる段ボールだが、その文字が違う。



[私は誰でしょう]



 そう書かれた段ボール。

 それだけ画面に表示させるとユイは声を出す。

 ただし、それはいつものセリフではなかった。




ユイ :『わふぅ……、羊飼いのみなさん、こんばんは。シロルーム三期生の雪城ユキです。今日も拾いに来てくれてありがとうございます』




【コメント】

:えっ!? ユキくん?

:ユキくんもコラボだった?

:タイトルには書いてないな

:もしかして、前みたいにユキくんを誘拐したのか?




――あれっ? ちょっとコメント欄が酷くないかな?



 思わず苦笑いを浮かべてしまうが、それを画面では見せないようにする。




タマキ:『うみゅー、コメントうるさいの』




 ユイがユキくんの声で登場したからか、タマキは敢えてユイの声で登場してくる。

 ただ、微妙に違う声。



 少しトーンが低いし、掠れてる感じがする。

 でもここがユイの放送、と言う付加価値が加わると違和感は和らいでいた。




【コメント】

:ユイちゃん、風邪でもひいた?

:早く治した方がいいよ

《:¥1,000 治療費》

:いや、待て。タイトルを考えると偽物?




ユイ :『うみゅー!! ゆいは風邪なんて引いてないの! 猫は嘘をついたらダメなの!』


タマキ:『うみゅー、治療費ありがとうなの。ゆいは本物のゆいなの』


ユイ :『全然違うの! みんな、猫に騙されたらダメなの!』


タマキ:『にゃにゃ、羊にも騙されたらダメなのにゃ』




【コメント】

:草

:ユイちゃんは相変わらずモノマネが上手いな

:たまきんは微妙に違うんだけど、特徴を捉えてるんだよな

:意外とわからないかもしれない




ユイ :『うみゅー、改めてシロルーム三期生の羊沢ユイなのー。開始早々疲れたので今日の配信は終わるの。お疲れなのー』


タマキ:『にゃー! ちょっと待つにゃ! にゃーの自己紹介がまだにゃ。にゃーはシロルーム二期生の猫ノ瀬タマキなのにゃ。それじゃあ、お疲れ様なのにゃー!』




 二人で手を振って、そのまま配信画面がエンディングに切り替わる。




【コメント】

:まさかのw

:終わった?w

:ツッコミ役が不在だからw

:何もせずに終わったw

:モノマネ対決は?w

:ツッコミを……。ツッコミを呼べ!

:草




 流石にこのまま配信が終わらせることはせずに、すぐに画面を元に戻す。




ユイ :『うみゅ、ツッコんでくれないと本当に終わっちゃうの』


タマキ:『それはそれで楽しいかな、と思ったのにゃ。二人でとことんボケ倒すのにゃ!』


ユイ :『うにゅ、それもいいの。それならツッコミは通話する相手に期待するの』


タマキ:『それだにゃ! 早速通話だにゃ!』


ユイ :『うみゅ、最初の相手はタマキ先輩に任せるの』


タマキ:『んにゃ、それじゃあまずはこの人にゃ』




 ピコピコピコッ……、ピコピコピコッ……。




 キャスコードの通知音が鳴り響く。




【コメント】

:一体誰にかけたんだ?

:たまきんなら二期生か?

:ユイちゃんの枠だから三期生という可能性もあるな

:いや、黒い猫だぞ? きっと暴走特急を召喚するはずだ

:ツッコミ役が欲しいと言っただろう? つまり召喚するのはポン枠だ! カグラ様だ!

:なぜポン?w

:ポンじゃツッコメないぞ!? ますますカオスにw

:むしろそれが狙いかw

:呼ばれそうなポン……、ユキくんか!?




 電話相手を予想するコメントが流れていた。

 つまり、タマキ先輩が呼ぶ相手は、ここで一切名前が上がっていない相手ということをユイは予想がついた。




ユイ :『うみゅ、草先輩か真緒先輩?』


タマキ:『にゃにゃ、よくわかったのにゃ』




 タマキが驚いた表情を見せたその瞬間に電話がつながる。




ユキヤ:『――どうした?』




 繋がったのは、ユイが予想した一人。

 真緒ユキヤだった。

 一期生のミステリアスな雰囲気を持った男性Vtuber。

 そのクールな声が通話先から聞こえてくる。




【コメント】

:まさかの真緒さんだwww

:ど、どうなるんだ!?

:一番冗談が通じないタイプじゃないか?

:も、物真似をするんだよな?




ユイ :『やっほー! ゆっきーだねー。どうしてこんなところに来たの?』




 ユイは迷わずに美空アカネの真似をしていた。

 あまり接点がないであろう二期生や三期生よりも一期生のまねで行った方がバレやすい分、力の差がはっきりとわかるだろう。




ユキヤ:『……美空アカネか? いや、違うな。なんの真似だ、羊沢ユイ。いや、それだけじゃない。三期生が簡単に俺にかけられるはずない。そうなると……猫ノ瀬タマキもいるのか?』


タマキ:『にゃにゃにゃ!? な、何も言う前から当てるのはずるいのにゃ!』


ユキヤ:『なるほど、モノマネを当てていくゲームだったか。それはすまないな。俺はそういった類のものは苦手だ』


ユイ :『うみゅー、仕方ないの。これはどっちも引き分けなの』


タマキ:『にゃ、にゃーの作戦が裏目に出てしまったのにゃ』


ユキヤ:『俺はもう用事はないな? それじゃあ、失礼するぞ』




 悔しそうに口を噛み締めるタマキ。ただ、その仕草は明らかに嘘っぽい。

 きっと、この結果も予想通りだったのだろう。


 そんな中、ユキヤは電話を切っていた。




ユイ :『うみゅ、次はゆいが掛けるの』


タマキ:『にゃにゃ、ユキくんかにゃ? そろそろ声が聞きたくなってきた時間なのにゃ?』


ユイ :『ユキくんは後からゆっくり電話するの。だから大丈夫なの。今は勝ちに行くの』


タマキ:『それは楽しみなのにゃ。一体どんな人物でくるのにゃ?』




【コメント】

:ユイちゃんならそう言いつつユキくんに平気でかけるからなぁw

:予想外のところでくるならユージ草か?

野草ユージ🔧:人の名前に草を生やすなー

:ユージがいて草

:本物w

:略してユージ草




タマキ:『ユージ草が配信見てるから別の人しかないのにゃ。誰を選んだのにゃ?』


ユイ :『うにゅ、もちろんこの人なの』




 ユイは自信たっぷりに答える。

 そして、自分のチャットから連絡をとる。




ココネ:『あれっ、ユイ? どうしたの?』




 普段の敬語じゃないココネが電話に出る。




【コメント】

:ココママ、同期相手だと砕けた話し方になるんだw

:何も言わずにバレてて草

:何を考えてるんだ、ユイちゃん

:草




ユイ :『私はシロルーム三期生、真心ココネですよー』




 ユイは敢えてココネの声色で話し始める。

 タマキならこの意図をわかってくれると信じて――。




【コメント】

:草

:草

:まさかの本人w

:絶対バレるだろw

:草

:草




ココネ:『ユイ? なんで私の真似をしてるの? もしかして配信中?』


ユイ :『配信中ですよ。どれだけ物真似で騙せるかをしてるんですよ』




 その二人のやりとりを見て、ピンときたタマキは二人の間に割って入る。




タマキ:『私が本当の真心ココネですよ。ほらっ、ママじゃないですよー』


ユイ :『私がシロルーム三期生のココネですよ』


ココネ:『ちょ、ちょっと、配信してるならリスナーの人が困惑しちゃいますよ!? それに私が本当の真心ココネですよ!?』




【コメント】

:草

:混沌としてきたw

:ユイちゃん、本当にうまいなw

:たまきんはまだわかるw

:ココママが必死で草

:草




ユイ :『うにゅ、これだと誰が本物かわからないの』


タマキ:『こうなったら別の人に聞きに行くしかないにゃー』


ココネ:『ちょ、ちょっと待って!? どこをどう見ても私が本物ですね!? そもそも私に電話をしてきたんですよね!?』


ユイ :『うにゅー、仕方ないの。こうなったら三期生のことを一番わかっているユキくんに聞くしかないの』


タマキ:『にゃにゃ、まだ向こうも配信をしているみたいだから、ちょうどいいにゃ』


ココネ:『わ、私も参加するのですか? ゆ、ユキくんに迷惑かからないかな……』


ユイ :『うみゅー、それじゃあアイコンと名前をココネに変えるの。それでグループにユキくんを――』


タマキ:『まだ配信が続いているのだったら、アカネパイセンとコウパイセンも誘わないとダメなのにゃ』


ココネ:『えっ!? わ、私、コウ先輩と話すの、これが初めてなんですけど、こんな形になるのですか!?』


ユイ :『うみゅ、きっと名前を覚えてもらえるの』


ココネ:『ぜ、全然良くないですよー!?』


タマキ:『んにゃ、それじゃあココネっちは参加なしっと。にゃーとユイっちのどっちかが本物のココネっちとユキくんに認めてもらえるわけだにゃ』


ユイ :『ゆいはそれで全然いいの。ユキくんを独り占めなの』


ココネ:『だ、だめです!? わ、私も参加します! ユキくんにココネと認めてもらうのは私です!』


ユイ :『仕方ないの。それじゃあ、ココママはゆいたちの正体がバレてから・・・・・しか話したらダメなの。一緒に話すと流石にココママだとわかるの。だから、一番最後に話してそれで正体を当てられたらココママの勝ち、もし間違えたらユイたちの勝ちなの』


ココネ:『わ、わかりました。ユキくんなら私の事をわかってくれるはずですから――』




 ユイたちに負けなくない一心でついつい引き受けてしまう。途中まで話せないというかなり不利な状態で――。




◇◆◇




 ライブ配信中に突然かかってきたココネからの通話。

 一応アカネやコウに確認をした後、僕はその通知を取っていた。




『あの……、ココママ? 今、まだ放送中なんだけどその――』


アカネ:『パンツの色を教えてくれない?』




 僕の言葉に割り込むようにアカネが余計なことを言ってくる。



――しかも、僕の声色を真似て……。



 慌てて僕はココママに訂正を入れる。




『えと、あの、ち、違うよ? 今のはその……、あ、アカネ先輩が言ったことで――』


ココネ?:『もう、ユキくんは。そんなに私のパンツが知りたいのですか? 教えるのはユキくんだけですよ? ちょっと待ってください。今確認しますので――』




――あ、あれっ、なんかココママがおかしい? って、今の反応はユイだよね? モノマネでもしてるのかな?



 一瞬訳もわからずに固まってしまう。


 でも、すぐに我に返るとこのままだと僕が変態だと言うことになりそうなので、反論をする。




『ち、違うよ!? そ、その、見なくていい……。見なくていいから!?』


アカネ:『そうだよ。僕が見に行くから!』


『あ、アカネ先輩!? ぼ、僕そんなこと言わないよ!?』




【コメント】

:アカネパイセンの暴走が始まったw

:というか、この人、自分が見たいだけだよな?w

:草

:でも、なにげにユキくんに似てるなw

:本人がいなかったらわからないんじゃないか?w

:ココママは何か変だな

:でも、ユキくんが絡むとこんな感じじゃないか?w

:確かにユキくん依存症だもんな。ココママ




コウ :『ユキくん、もう一回封印しちゃう?』


『あっ、そ、そうだね……。えいっ』




 アカネに再び段ボールを被せる。

 これで段ボールが二つ重なっていて、ちょっとのことでは顔が出せない様になった。




アカネ:『ぐっ……、しまった。これだと出られない。段ボールに僅かに残るユキくんの残り香を嗅ぐことしかできないじゃないか!』


『か、嗅がないで下さい!! もう、僕が使ってた分は取り戻します。代わりにこっちに入っていて下さい!』




 僕は段ボールを取り戻すと、コウと二人準備していた真っ黒に塗った怪しげな段ボールにアカネを閉じ込める。

 取り戻した段ボールは当然僕の方へ……。



――やっぱり段ボールがあると落ち着くね。




アカネ:『うおっ、な、なんだこの段ボール……。私はこんなのを用意してないぞ!?』


コウ :『えぇ、私とユキくんの合作よ。アカネの暴走が止まらなくなったときに使おうと思ってたのよ』


『そ、その……、できたら使わないならそれでも良いと思ってたんだけど。全くユイは……、アカネ先輩を暴走させたらダメだよ』


アカネ:『くっ……、せっかく合法的にユイちゃんのパンツを聞くチャンスだったのに……』


コウ :『えっ!? 今のユイちゃんだったの!?』




【コメント】

:へっ!?

:今のユイちゃん!?

:ココママじゃないの!?

:ユキくん、わかってたの??

:全然気づかなかった

:アカネパイセンも気づいていただと!?

:コウさんが気づいてなかったのに




 確かに声だけだとわかりにくいよね。

 どちらかと言えば、話の内容だから普段から接してないとわかりにくいかも。




『アカネ先輩、わかってたんですね』


アカネ:『当然だよ? さすがに嫌がる相手に聞くなんてそんなこと……、いつもしてるけど、でも、相手の本質を絵に落とし込む私が、明らかにココネちゃんじゃない話し方を見逃すわけがないよ』




 少しだけアカネ先輩のことを感心してしまう。

 だから、黒段ボールの封印を解いて、僕と同じ段ボールに入れておく。




コウ :『あ、あれっ? これじゃあ、ボクだけ仲間はずれみたいじゃない?』


アカネ:『ユイちゃんだとわからなかったコウが悪いよ。それじゃあ、あらためて、ユイちゃん、今日のパンツは――』


ユイ :『うみゅ……、ばれたのなら仕方ないの。ゆいの配信、モノマネ対決だったからうまく相手をだませたら勝ちだったの。敗者のゆいは当てた暴走特急の言うことを聞くの。今日のパンツは――』


ココネ??:『ちょ、ちょっと、そんなに簡単にパンツの色を教えたらダメですよー!』




 別のココネが話に加わってくる。


 今度は雰囲気や話の内容は本物のココママに思える。でも、声が微妙に違う……。

 でも、風邪を引いてるとか、マイクが変わったとか、そういう事情で違うくらいにも思える。



――でも、そもそもココママなら最初から止めてこなかったのはおかしくないかな? それならモノマネをしているのはユイのコラボ相手の――。




『えと……、もしかして猫ノ瀬先輩?』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る