第4話:勝利は誰の手に? ♯あかわふこみー

タマキ:『うにゃ、上手くだませると思ったのに惜しかったのにゃ』


『さ、流石にわかるよ……。ココママの声は何度も聞いてるから』


ユイ :『うみゅ、ユキくんが想像以上に強敵だったの』




 悔しそうにするユイとタマキ。

 一応、僕の配信画面に二人のアバターも静止画だけど表示する。


 ただ、あまりにも人が多くなりすぎたので、緊張してきた僕は次第に段ボールの中に体を埋めていった。




コウ :『えっと、ボク達の方もまだ配信中だったけど、よかったのかな?』


ユイ :『うみゅ、問題を出す側と答える側の両方が見られるからきっと楽しいの』


『で、できたら事前に教えてほしかったよ……』


ユイ :『それだとモノマネが来るとわかって身構えてしまうの。それにまだモノマネは終わってないの』


『……えっ?? で、でも、ユイのコラボって猫ノ瀬先輩だけだったよね?』


ユイ :『特別ゲストなの。どうぞなの』


ココネ:『えっと……、今更ですごく出にくいんですけど、三期生の真心ココネですよ』


ユイ :『本物のココママも連れてきたの』




 にっこりと微笑むユイのかけ声と共に現れたのは三人目のココネだった。

 その瞬間にアカネがきっぱりという。




アカネ:『よし、偽物だ!』


コウ :『……確かにココネちゃんならもっと早くに二人にツッコんでいそうだよね?』




 真っ先にユイのことを言い当てたアカネとコウは偽物、という方に傾いている様だった。


 確かにこのタイミングまで一切何も言わなかったのは、ココネとしては違和感がある。

 事実、僕もさっきその違和感で猫ノ瀬先輩を当てている。



――でも、なんでだろう……。ココママと言われても全く違和感がない……。



 猫ノ瀬先輩の場合は声色が少し違った。

 ユイの場合は話す内容がおかしかった。



 でも、このココネにはその違和感が全くない。

 それこそ本人にしか思えないレベルだ。



――ユイがわざとらしく[本物]って言葉を付けたのも気になるかな。



 今までユイは嘘を言って騙したことはない。


 敢えてそう思わせる様に言うことで、相手から勘違いさせていた。



――つまり僕は……、うん。素直にユイとココママを信じたらいいんだね。



 にっこり微笑むとアカネとコウに向けて言う。




『アカネ先輩、コウ先輩、違うよ。この人は本物のココママだよ』


タマキ:『にゃにゃ、意見が分かれたのにゃ』


ココネ:『ゆ、ユキくん……』


ユイ :『うみゅ、どうするの? 多数決?』


アカネ:『ユキくんがそういうなら私は全力で乗っかるよ! この枠はユキくんの枠だ! あえて間違ってそうな方を選ぶ。これぞ、配信者って感じだよね?』


『えっ!? ち、ちが……』


コウ :『はぁ……、アカネはまた適当なとこを言って……。でも、ボクたち以上にココネちゃんを知ってるユキくんがいうなら間違いないね。ボクもユキくんに乗るよ』


タマキ:『間違えたら当然、罰ゲームなのにゃ。それでもいいのかにゃ?』


アカネ:『もちろんだよ!!』


コウ :『ちょ、ちょっと!? またタマキもいきなりそんなことを追加をしてこないでよ。アカネも勝手に乗らない! ……ユキくん、大丈夫?』


『うん、大丈夫。むしろ、今の猫ノ瀬先輩の言葉が致命的かな。相手に猜疑心を植えつけて悩ませようとしてるんだね。僕はユイとココママの言葉を信じるだけだから……。この人は本物のココママだよ』




 段ボールから少し顔を覗かせて、はっきり言う。




ココネ:『ゆ、ユキくん……。や、やっぱりわかってくれたんですね』




 ココネが声を震わせながら喜んでくれる。




【コメント】

:さすがユキくん

:この流れは絶対に偽物だと思った

:まさかの本物だった!

野草ユージ🔧:うそっ、本物なのか!?

:驚きすぎ草




ユイ :『うみゅぅぅぅぅ!! ま、負けたの……』


タマキ:『にゃははっ、ユイっちは自信あったからにゃ』


『えっと……、当てることができたのはユイのおかげだよ』


ユイ :『うみゅ? ど、どういうことなの??』


『だって、ユイが[本物]のココママって言ったでしょ? ここでユイが嘘をつくはずないもんね』


ココネ:『確かにユイはそんな嘘はつきませんね。わざと言葉を隠すことはあっても』




 僕のいうことにココネが同意してくれる。




コウ :『なるほど、同期だからこそわかる……か。ボクとアカネみたいな感じだね』


アカネ:『えっ!? バットで一方的に殴られる関係なのか?』


コウ :『また喰らいたいの?』


アカネ:『お菓子?』


コウ :『もちろん右ストレートよ♡』


アカネ:『死ぬよ!?』


『えっと……、その……、ぼ、暴力を振るい合う仲ではない……かな。僕も痛いの嫌いだし……』


ユイ :『うにゅー、全力を出して負けたのは悔しいけど、でも楽しかったの。またやりたいの』


『あ、あははっ……、そ、そのときは事前に教えてよ……』


ユイ :『うみゅ、もちろん、内緒でするの』


タマキ:『それじゃあ、そろそろ罰ゲームを決めてもらう時間なのにゃ。今回の勝者はココネっちなのにゃ』


ココネ:『えっと……、今回のは私というよりユキくんの勝ちに見えますけど』


ユイ :『うみゅ、確かにユキくんはすごかったの』


タマキ:『それじゃあ、ユキくんの勝ちなのにゃ。はい、拍手なのにゃ』




【コメント】

:888888

《:¥8,888》

:888888

野草ユージ🔧:888888

:888888




アカネ:『あははっ、ユージが書くと燃えてるみたいだね』




 アカネがコメント欄を見て爆笑していた。


 確かにパチパチ……という音が火花を出して燃えている音にも聞こえる。




【コメント】

:ユージ888888

野草ユージ🔧:勝手に燃やすな

:ユージ888888

《:¥8,888》




『わわっ、スパチャで拍手、ありがとうございます。何が何だかわからないまま勝者になってしまいました……』


ユイ :『うみゅ。罰ゲームの発表、よろしくなの』


『へっ!?』


タマキ:『そうにゃ。勝者が敗者に罰ゲームを与えることができるのにゃ。今回の勝者はユキくんなのにゃ。好きな罰ゲームを言うといいのにゃ』


アカネ:『くーっ、せっかくユイちゃんとタマキのあられもない姿を見るチャンスだったのに……。はっ!? ゆ、ユキくん……、ものは相談だけど――』


コウ :『はいはい、アカネはちょっとあっちへ行ってましょうね』


アカネ:『わ、私はまだ何も言ってな――』




 アカネ先輩の声が小さくなっていく。




ココネ:『ほらっ、なんでも好きなことを言って良いんですよ。ユキくんがしたいこと、して欲しいことはなんですか?』




 ココネが優しい言葉を掛けてくれる。



――僕がしたいこと……か。



 後輩ができたらまたシロルームの雰囲気が変わるかもしれない。

 突発的な大人数でのコラボだったし、雰囲気に飲まれてあたふたとしてしまったわけだけど、でも楽しかったかな……。




『また、こういう大人数でのコラボもその……してみたい……かな? た、大変だったけど……』


ユイ :『うみゅ、ゆいに任せておくと良いの! ユキくんとの大人数オフコラボ、考えてみるの!』


タマキ:『にゃにゃ、それもいいかもしれないのにゃ。担当の根回しは任せるにゃ』


『えっ!? ち、違うよ? オフじゃないよ……?』


コウ :『なんともユキくんらしいと言うか、罰ゲームらしくないというか……』


アカネ:『よし、全員集合のサムネなら任せて!』




【コメント】

:シロルーム全員でのコラボか。

:今だと十二人か? すごい数になるな

:ただ、オフだと配信されないのか?

野草ユージ🔧:俺っちももちろん参加するぞ!




ココネ:『オフだと集まる場所が大変かもしれませんね。集まるのは同期で、コラボは全員で……という形の方が良いかもしれないです』


コウ :『それもそうね。私たちは更に男女で分かれることになりそうだけどね』


『あっ、それなら僕は――』


ユイ :『うみゅ。もちろん、ユキくんはゆいたちと集まるの!』


ココネ:『当然ですね。ユキくんは三期生のメンバーですから』


『あぅぅ……、そ、そうなるよね。うん、お手柔らかにお願いね……』


タマキ:『全員でやるとなると急いだ方が良いかもなのにゃ。今は四期生募集で担当たちも忙しくしているのにゃ』


『そ、そうだ、四期生……。僕たちにも後輩ができるんだよ。どんな子なんだろう。楽しみだね』




 思い出した様に言うとココネがすねた口調で言ってくる。




ココネ:『ユキくんは三期生なんですからね』


『えっ? もちろんそうだけど……?』


ココネ:『あんまり四期生の子に浮気したらダメですからね』


『浮気!? し、しないよ、そんなこと……』


ユイ :『うみゅ、そうなの。ユキくんはちゃんと次にゆいとコラボをしてくれる良い子なの』


『えっ!?!? は、初耳だよ!?』


ユイ :『今言ったの。約束なの』


『わ、わかったよ……。えと……、真緒さんたちとのコラボの前ならできるかな……』


ココネ:『あーっ、わ、私もコラボを……』


『えとえと……、あっ、ご、ごめん。ユイのを入れたら次は少し先になるかも……。さ、再来週で良いかな?』


ココネ:『うぅぅ……。わかりました。それでお願いします』


ユイ :『うみゅ、早い者勝ちなの。ブイッ!』


アカネ:『なら私も――』


コウ :『はいはい、ボクがコラボしてあげるから我慢してね』




【コメント】

:大人気ユキくんw

:コラボだらけw

:ユキくんも成長したね。あれだけコラボ嫌がってたのに

:同期だと慣れたのかな




コウ :『ユキくん、そろそろ時間が――』


『あっ、そ、そうだね。それじゃあ、最後にみんな挨拶と報告が何かあったらどうぞ』


アカネ:『次こそはみんなが聞きたいエチエチな情報を聞き出すから楽しみにしててね。あと、私のタグはユキくんに任せた!』


『えっ!? き、聞いてな――』


コウ :『ボクはその情報を聞き出そうとするのを全力で阻止するよ! でも、今日はユキくんとのコラボ、新鮮で楽しかったよ。真面目な後輩くんもいいね』


アカネ:『こ、コウは渡さないよー!』


ユイ :『うみゅー、勝負に負けたけど、ユキくんとコラボできることになったからチャラなの』


タマキ:『にゃにゃ、全員コラボ、楽しみだにゃ。次はどんな罠を仕掛けるかにゃー』


ココネ:『なんかものすごく振り回された気がしますけど、たまにはこういうのも良いかもしれませんね』


『あの、アカネ先輩。僕、タグのことは全く聞いてな――』




この放送は終了しました。


『《♯犬拾いました ♯あかわふこみー》コラボ解禁。雑談枠 《雪城ユキ/美空アカネ/海星コウ/シロルーム》』

6.3万人が視聴 0分前に配信済み

⤴3.1万 ⤵47 ➦共有 ≡₊保存 …


チャンネル名:Yuki Room.雪城ユキ

チャンネル登録者数17.0万人




◇◇◇

【コメント】

:相変わらずのユキくんだったw

:おつーw

:お疲れ様

:タグ押しつけられてて草

:お疲れー




◇◇◇




 配信後、僕はアカネのタグに頭を悩ませていた。


 相手は先輩。

 下手なものはつけられない、と考えると僕一人では荷が重かった。



――ううん、動画のネタをもらった、と考えればいいのかな?



 そんなタイミングで送られてくるコウからのグループチャット。




コウ :[ユキくん、大丈夫? アカネのタグは適当に「あかー」とかでいいからね]


アカネ:[それ、適当すぎない!?]


コウ :[つまり、そこまで悩まなくていいってことよ。ユキくんは思い込むタイプでしょ?]


アカネ:[よし、それなら今日からみんな、挨拶は「あかー」だ!]


コウ :[……アカネ一人でやってよ。そういうわけだから、同期の子につける感じで大丈夫だよ]




 コウは僕に気を遣って、こんなメッセージをくれていた。


 ただ、それでも僕自身が納得できるものを渡したい……と色々と案を出して消してを繰り返していると、いつの間にか朝になっていた。

 窓から見える眩しい朝日を見て眉をひそめていた。



――なんで太陽っていらないときに限って登ってくるのかな。



 部屋には紙が周りに散らかっている。

 そこまでして、ようやく候補を絞ることができた。



[ソラー]

[キラッ]

[シュタッ]



――うん、我ながらボキャブラリーのなさに驚く。




「って、も、もう大学に行く時間だよ!?」




 時計を見ると既に走って行かないと間に合わない時間。



――今の僕の格好……、ココママに買ってもらった服だ。



 昨日の配信はすごく緊張していたので、三期生のみんながくれたものを手元に置いて勇気をもらっていた。



 ココママが買ってくれたユキくんに近い服。

 なぜか服装のことを話したあと、ユイが押しつける様に渡してきた犬の足跡を模した腕時計。

 カグラさんからもらった巨大骨クッション。



 骨クッションは今、ユキくん段ボールの中に入っている。

 配信中は段ボールを側に置いて、ギュッと骨クッションを抱きしめながら配信をしている。

 恥ずかしいときとかはそれに顔をうずめられるし、たまにしてしまう寝落ちもクッションがあれば安心だった。



 そして、腕にしている腕時計。なぜか女性用なのは犬にちなんだ男性ものが見つけられなかったのだろう。

 腕まで気にする人はいないし、これは普段から愛用していた。



 ココママの服はやっぱり黒のレギンス、白のワンピース、黄色い犬耳パーカー、の組み合わせが一番落ち着くので、みんなの力を借りたいときはこの格好でいたのだ。



――部屋の中だから、問題ないよね……。そ、外に出るわけじゃないし……。



 そう言い聞かせて着ていたのだが、今はもう家を出ないと遅刻をしてしまう。

 着替えている時間は――。




「うぅぅ……、悩んでる暇はないよね? ち、遅刻よりはマシかな……」




 ろくに寝ていない、思考が停止した頭で下した結論はそのまま大学に行く……というものだった。


 慌てて鞄を持つと、僕はそのまま部屋を飛び出す。




◇◇◇




 まずは駅に向かって、必死に走って行く。



 時間はギリギリ。でも、休まずに走れば間に合うはず……。



 今まで運動してこなかったことが悔やまれる。

 すぐに僕の息は上がってしまい、呼吸を荒くしながらも気力で駅へと向かっていた。



――全ては遅刻を免れるために……。



 駅に着くと、呼吸を落ち着けながら電車の時間を確認しているタイミングで、突然声をかけられる。




「すみません……、少し良いですか?」




 突然声をかけられたことに驚きつつ、そちらに振り替えると、そこには長い銀髪の小柄な少女がいた。



 僕よりも少し小さな少女。

 頭には赤のキャスケットを被り、白のワンピースを着ており、幼い顔立ちもあって、数歳年下のようにも見える。


 でも、僕自身がよく言われていることなので、相手が年上のつもりで接する。




「あっ……、はい。えっと……、その……、どうしました?」


「この場所に行きたいのですけど、場所がわからなくて……。どの電車に乗ったらいいかわかりますか?」




 彼女が見せてきた手紙には見知った名前が書かれていた。




【シロルーム】




 直接足を運んだことはないものの、やはり自分が所属する企業。

 その場所等はしっかり調べてあるし、行き方ももちろんわかる。

 でも、気になるのがその手紙に書かれていた先の言葉だった。




【シロルーム四期生、一次試験合格。二次試験のご案内】




 どうやらこの子はシロルームの面接へ向かう様だ。



――もしかすると僕の後輩になるかもしれない子……。さすがに無碍むげにはできないよね?




「あっ……」




 少女と話しているうちに、乗る予定の電車が出発してしまう。



――つまり、今から向かっても遅刻……。



 今日の講義もそれ一つだったので、大学へ行く理由がなくなってしまった。




「その……よかったら案内しようか? 僕の予定もなくなったから……」


「えっ!? いいのですか? で、でも、そこまでしてもらったら悪いですよ……」


「大丈夫、僕もシロルームには少し用事があるから――」




――せっかく行くのだから担当さんにでも挨拶していこうかな。



 そんな軽い気持ちで提案してしまった。


 今までの僕だと自分からそんなことを言うなんて考えられないのだが、少しずつ配信をすることで僕も成長しているのだろう……。




「ありがとうございます。本当に助かります。あっ、私、七瀬奈々ななせななっていいます」


「僕は小幡祐季こはたゆきです。それにしても君、シロルームの面接を受けるんだね」


「そうなんですよ。やっぱりシロルームのVtuberって憧れますよね」


「えと……、そ、そうだね……」




 目を輝かせて言ってくる七瀬。

 流石に自分がそのシロルームに所属しているとは言えずに、苦笑を浮かべてしまう。




「特に三期生! ユキくんが私の推しなんですよ。見てて癒やされるし、どこか応援したくなるんですよね」




 目の前でユキくんぼくについて熱く語る七瀬。

 流石にそれを聞いていると恥ずかしくなってくる。




「と、とりあえず急いだ方が良いんだよね? い、行こうか?」


「はいっ! よろしくお願いします!」

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