第19話:ココユキ、オフコラボ配信

 なんだか周りがまぶしい……。

 あれっ、そういえば僕、いつの間に寝てたんだろう?


 意識がはっきりと覚醒しないまま、僕はゆっくりと瞼を開けていた。

 すると何か頭に柔らかい感触があった。


 そして、目の前にはこよりの顔がある。




ココネ:『ユキくん、おはようございます』


『……おあよー、ココママ』




 まだ意識がはっきりとしないので、ろくに呂律が回っていない。


 どうして目の前にこよりがいるのか……。

 きっとまだ夢なのだろう……。


 そう思い、再び微睡みの中へ意識を落とそうとしたときに、モニターに映る配信画面が目に留まる。




『うにゅ? あ、あれっ?』




 目を擦り改めて、画面を見る。


 勢いよく流れるコメント。


 一瞬ぼんやりとしていた意識が瞬時に覚醒する。




【コメント】

:おあよー

:ユキくん、おあよー

:おあよー

:おあよー

羊沢ユイ🔧:うにゅー、おあなのー

:おあよー

:寝ぼけ声助かる

:おあよー




『ふぇっ!? えとえと……、そ、その……、これはどういうこと??』


ココネ:『ほらっ、ユキくん。配信するって言ってたじゃないですか。時間が来たので配信をしてたんですよ』


『ちょ、ちょっと待って。そ、それって今始まったところ?』


ココネ:『そろそろ三十分が過ぎるところですね。今日のオフ会の話をして、今はユキくんのサプライズプレゼントの話をしてたところなんですよ』


『ふぇっ??』




 僕はもう一度配信画面に視線を向ける。

 いつものココネのアバターとユキくんぼくの段ボール。それと犬のぬいぐるみ。その手に持っている看板には――。




『ぴぃぁぁぁぁぁぁぁぁ……。な、なんでそれをみんなに見せてるの!?』


ココネ:『もちろんみんなに自慢したかったんですよ。ユキくんが私のためにプレゼントしてくれたものですから』


『で、でも、その……。ぼ、僕は恥ずかしいよ……』




 思わず顔を俯けてしまう。

 頬は熱を帯びたかのように赤くなり、配信画面を直視できない。




『と、とりあえず、もうそれはいいよね? みんな、見たよね? ほらっ、早くしまって……。みんな忘れてね……』




【コメント】

:ユキくん、必死w

:良い贈り物だと思うよ

:ユキくん可愛いw

:悲鳴助かる

羊沢ユイ🔧:うみゅ、ユキくん。ゆいのは?




『ゆ、ユイの時も何か考えるよ。た、ただココママには一番お世話になったからね。まず最初に渡したかったんだ……。だって、今こうやって僕がみんなの前で配信をできているのはココママのおかげだから――』




 思い返せば僕が初配信の時に手を差し伸べてくれたのはココネだった。

 それにコラボをすることになったときも真っ先にしてくれて、僕が安心してコラボをできる道を作ってくれた。




ココネ:『ゆ、ユキくん……』




 ココネは嬉しそうに目に涙を溜めていた。




『それでせっかくだから形に残るものが良いなって思って、それで僕だったら犬のぬいぐるみが良いかなって。喜んでもらえたのならよかったよ……』


ココネ:『あ、ありがとう、ユキくん。ユキくんがそこまで私の事を考えてくれていたなんて……』


『わわっ、だ、抱きつかないで、ココママ。……と、とりあえず、こ、この話はおしまい! そ、それよりも今日は記念配信でしょ。し、しっかりしないと――』




【コメント】

:ココユキはいいな

:なんだろう、俺も泣けてきた

:やっぱりココユキだな

:先に逝く

:俺ももうダメだ……

:お前たち、まだ逝くな。俺が先だ

:お前もかw




ココネ:『ぐすっ……、そ、そうですね。今日は寝るまで記念配信ですもんね。ユキくんも起きたことですし、改めてユキくんの自己紹介をしてもらいますね』


『わ、わふー、み、みなさん、今日は僕が寝てしまっていて申し訳ありません。シロルーム三期生、雪城ユキです。今日はココママに拾われてやってきました。よ、よろしくお願いします』




 ココママが改めて僕のアバターを表示させる。

 もちろんしっかりと段ボールの中に入れてくれる。




ココネ:『まずは段ボールユキくんからですね。今日は私の記念配信なので、ユキくんの可愛いところを思いっきり話したいと思います』


『えっと、それは違うんじゃないかな? ココママの記念だから、ココママのすごいところを話さないと!』


ココネ:『むぅ……、意見が分かれましたね。こうなったらココフレのみんなに聞いてみましょうか』


『うん、そうだね。ココフレのみんなはココママのすごいところを聞きたいよね? 僕に料理を教えてくれた話とか――』


ココネ:『あっ、それもう話しちゃいました』


『えっ!?』


ココネ:『それよりもユキくんのすごいところとか、可愛いところとかを聞いてみたいですよね?』


『ちょ、ちょっと……、もう話してるって聞いてないよ? えっえっ……、い、一体どこまで話したの!?』




【コメント】

:これはユキくんの話を聞きたいな

:どっちも聞きたい

羊沢ユイ🔧:どっちもなのー

:どっちも聞きたい




ココネ:『あははっ、やっぱりどっちもになりますか。時間もありますし、ゆっくり話していきましょうね』


『うん、ココフレの人がそう言ったから仕方ないけど、そろそろ僕を離してくれないかな?』


ココネ:『嫌ですよ? 今日は一日ギュッとユキくんを抱きしめながら配信するって決めてましたから』


『うぅ……、やっぱり僕の体が持たないよ……』


ココネ:『私の記念配信なのですから、このくらいのわがまま、いいですよね? それに配信中は抱きしめて良いって言ってましたよね?』


『うっ……』




 た、確かに今日はココママの記念だ。僕が恥ずかしいだけで我慢すればココママにも喜んでもらえる。




『わ、わかったよ……。今日だけ……だからね』


ココネ:『わーい、ありがとうございます』


『むぎゅ……』




 ココネが力一杯抱きしめてくるので、思わず声が漏れてしまう。




【コメント】

:画面の向こうで一体何が!?

:これだ、これを待っていた!

羊沢ゆい🔧:うみゅ!? ゆいも混じるの!




『と、とりあえずこのままだと話が進まないよ……。えっと、どんな話をしたらいいのかな?』


ココネ:『そうですね。お互いの好きな部分を言っていくっていうのはどうでしょうか?』


『……えっと、それってすごく恥ずかしくない?』


ココネ:『ユキくんに私の好きなところを言ってもらえるのなら本望ですよ』


『うっ……、が、頑張るよ』




 既に顔が赤く染まってる感じがする。

 それでもここは頑張るしかない、と必死に耐える。




ココネ:『そうですね。でも、ただ言い合うのも芸がないですね。ここは勝負をしませんか?』


『勝負?』


ココネ:『えぇ、お互いが見つめ合ったまま好きなところを言うんですよ。それで先に顔を背けた方が負け。負けた人は罰ゲームとかどうですか?』


『わ、わかったよ……』




 顔を背けなかったら良いだけなら簡単だよね?

 そんな軽い気持ちで受けてしまった。




【コメント】

:これはやばいw

:ユキくんの負けw

羊沢ユイ🔧:うみゅ、ゆいも参加したい

:ユキくんwww

:そもそもじっと見てられるのか?w

猫ノ瀬タマキ🔧:罰ゲームは何がいいかにゃ

美空アカネ🔧:おっ、コウと一緒にしたやつ

海星コウ🔧:ボクが圧勝したやつね

美空アカネ🔧:つ、次は負けないから!




『そ、それじゃあ、ココママ、離してくれる?』


ココネ:『どうしてですか?』


『だ、だって、見つめ合うにはその――』


ココネ:『このままでもできますよね?』




 ココネと見つめ合う。

 その瞬間に僕は安易に勝負を受けてしまったことを後悔した。


 すぐ目と鼻の先にココネの顔がある。そう考えると自然と顔が熱くなり、今すぐにでも顔を背けたくなった。

 でも、背けてしまったら負けてしまう。


 なんとか我慢して、ジッとココネを見る。




『や、やっぱり近すぎない?』


ココネ:『すぐ近くでユキくんの顔を見られて嬉しいです』




 ココネはまだまだ余裕があるようで、にっこり微笑んでみせる。




ココネ:『それでは先にどちらから言いますか?』


『僕からで良いかな?』




 こういうのは先に相手を負かせてしまうのが必勝法だ。

 あまり長く続けられるほど、僕にも余裕はない。



――こうなると先手必勝だ!




ココネ:『もちろん構いませんよ。それじゃあ、ユキくん、私の好きなところを言ってください』




 じっと期待した視線を送ってくるココネ。

 そう見つめられると言う側でも恥ずかしくなってくる。




『ココママはいつも困ってる僕を助けてくれるとっても優しい人なんだよ。初めての配信で何もできなかった僕に優しく手を差し伸べてくれたし、何もできない僕に対して必ず最初に助けてくれるのが、ココママだったんだ……。だから、ココママは僕にとって特別で、その……』




 流石に話していると恥ずかしくなってくる。

 ただ、いつもの感謝を示す良い機会かもしれない。


 僕は笑みを浮かべながら言う。




『そんなココママが好きだよ。……いつも感謝してるよ』




 多分顔がゆでだこのように赤くなっているだろう。それでも素直な気持ちを伝えられたことが何よりも嬉しかった。


 ただ、配信されていることは完全に頭の中から抜け落ちていた。




【コメント】

:うっ……、俺は先に逝く

:ユキくん……

:可愛すぎる……

:切り抜きはまだか!?

:ボイスで売って欲しい

:ユキくん、お持ち帰りできないかな

:破壊力抜群すぎ




ココネ:『ゆ、ユキくん……、私のことをそんな風に思ってくれてたんですね……。ありがとうございます』




 僕の渾身の言葉を聞いていたココネは顔を背けるどころか、むしろ真剣に僕の目を見て、嬉しそうにお礼を言ってくる。


 その表情を見て、僕は恥ずかしさのあまり慌てふためいていた。




『あわわわっ……、そ、その……、その……。うぅ……、恥ずかしいよぉ……』


ココネ:『まだ、これから私の番ですよ』


『て、手加減してね……』


ココネ:『そうですね。ユキくんが出会った頃の話で来たわけですし、私もそうしますね』




 ココネがジッと僕に視線を合わせてくるので、既に恥ずかしくなりながらもその視線を外さないようにする。




ココネ:『ユキくんは困ったことがあるとすぐに逃げようとするんです』


『ふぇ!?』




 まさかいきなり貶されるとは思わずに呆けてしまう。

 ただ、ココネの話はそこでは終わらない。




ココネ:『しかも、恥ずかしがり屋で人見知り。他人を前にするとオドオドとして、ろくに話せなくなるんですよ』


『あ、あの……、そ、その、これって好きなところを言うんじゃ……?』




 なんだろう……、穴があったら入りたくなってきた。段ボールには入ってるけど。




【コメント】

:ココママw

:辛辣w

:ユキくんのライフはもうゼロよー

:なんだ、俺のことか

:俺もユキくんだったか

:お前らw




ココネ:『でも、そんなユキくんですけど、一度決めた約束は絶対守ってくれるんですよ。約束の中身を変えようとはしますけど、決めたことだけは絶対に守ってくれるんです。それに、常に私たちのことを考えてくれてるんですよ。カグラさんが困ってた時は真っ先にオフコラボをしてましたよね?』


『えっと……、あ、あれは、たまたまカグラさんがしたそうだったから……』




【コメント】

:そういえば三期生の配信ではだいたい見かけるな

:見れなかったのは全部アーカイブで見てるらしいし

:確かに一番同期愛がすごいのか

神宮寺カグラ🔧:あ、あれはユキがどうしてもっていうから仕方なくやったのよ

:ユキくんのことならよく見てるココママ




ココネ:『ユイちゃんの時もそうですよ。あれだけ嫌がってたホラーゲームとオフ会。その二つが重なってるのに、断らずに頑張ってましたよね。しかも、最後までずっと……』


『あ、あれはユイが僕のことを思ってしてくれたコラボだから……』


ココネ:『嫌なら最初から断ることもできたんですよ。ユイちゃんも別にユキくんが嫌がることをしようとしてたわけじゃないですから』


『そ、そんなこと、考えもしなかった……。だってそんなことをしたらユイが悲しむよね?』


ココネ:『そういうところがユキくんの良いところなんですよ。今日だって、まともに眠れてないのに私に付き合ってくれましたし、私たちが悲しむことはしない。ユキくんはすごく優しいんですよ』


『そんなことないと思うけど……』




【コメント】

:確かにあの時のユキくん、頑張ってたよな

:ユイちゃん、容赦ないから

羊沢ユイ🔧:うにゅ!? ユキくん、また寝てないの!?

:ユイちゃん驚きすぎw

:爆弾級のてぇてぇが襲ってきそうだ




ココネ:『だから……ですよ。自分のことよりも他人のことを優先して、必死に頑張ってくれるユキくんのことが……、私は好きですよ』


『っ!?!?』




 耳元で囁くように言われる。

 それを聞いた瞬間に僕は驚いて顔を真っ赤にする。




『あのあの、ぼ、僕……、その……、ふきゅぅ……』




 思わず目を回して視線を背けて逃げようとしてしまう。

 すると、ココネはにっこりと微笑んでくる。




ココネ:『やったー、勝ちましたー!』




【コメント】

:あの迫力はやばかったw

:ユキくん、どんまい

:ココママ、おめー!

:ココママが本気出す




『わふぅ……。ココママ、ずるいよ……』


ココネ:『えへへっ、落としてから上げる。基本ですよ?』




 ココネはにっこりと微笑んで一度僕から離れてくれる。




ココネ:『それじゃあ罰ゲームですね』




 一度離れたかと思うと、すぐに戻ってくるココネ。

 その手には……、いつの間にか今日買ってきたたくさんの服が握られていた。




ココネ:『ユキくん、それじゃあ、この服に着替えましょうね。ユキくんのファッションショーです』


『わ、わふぅぅぅぅ……、だ、誰か助け――』


ココネ:『ユキくん、約束の罰ゲームですよ。買ってきた服、全部着て下さい』


『うぅぅ……、さ、さすがにはずかしいよ……』


ココネ:『大丈夫です。絶対に似合いますから……』




 ピコッ! ピコッ!




 ココネに追い詰められた瞬間にスマホの通知音が鳴る。




ユイ :[うみゅ、写真よろなの]


カグラ:[私にもその写真をくれないかしら?]




 三期生のチャット欄に表示された無情なその言葉。

 どうやらここに僕を助けてくれる人はいないようだった。




ココネ:[仕方ないですね。公開はしたらダメですよ]


ユイ :[うみゅ、もちろんなの。夜のお供にするの]


ユキ :[ちょ、ちょっと!? な、何に使うつもりなの!?]


ユイ :[それはもちろん内緒なの]


ユキ :[怖い、怖いよ!? か、カグラさんはそんな変なことに使わないよね?]


カグラ:[も、もちろんよ。拡大コピーをして部屋に飾るくらいよ。おかしい使い方はしないわ]


ユキ :[そ、それも十分おかしな使い方だからね!?]


ココネ:[本当に二人ともおかしい使い方をしますよね。大丈夫ですよ、ユキくん。私は普通の使い方しかしませんから安心してください]


ユキ :[いやいや、それもおかしいよ!? そもそも使うって何!? しゃ、写真を撮るだけ……だよね?]


ココネ:[…………もちろんですよ?]


ユキ :[ちょ、ちょっと待って!? 何、今の間!? 絶対別のことも考えてたよね!?]


ココネ:[安心してください。何も痛くないですから]


ユキ :[あ、安心できないよ? や、やめて……]




 なんとか逃げようとするものの既に身動きはココネによって押さえられている。


 それに罰ゲームを受けると言ったのも僕だ。

 一度頷いた以上、素直に受けるしかない。


 だから僕は覚悟を決めることにした。




『そ、その……、じ、自分で着替えられるから――』


ココネ:『えーっ、ユキくんを着替えさせてあげるのも楽しみの一つだったんですけどね。うーん、仕方ないですね。その代わりちゃんと全ての服に着替えてくださいね』




【コメント】

:俺たちも見たいぞ

:せ、せめて服だけでも

羊沢ユイ🔧:ぶいっ

:ま、まさか、ユイちゃん、手に入れたのか?

:ぐぬぬっ、なんとか見る方法はないのか?




『み、見る方法なんてないよ!? そ、その、みんなに見せるなんて、僕がもたないからね!?』


ココネ:『うん、私のコメントで妄想を捗らせてね』


『そ、それも禁止だよ!? こ、ココフレと犬好きのみんな、妄想もしたらダメだからね。僕との約束だよ!?』




【コメント】

:はーい

:はーい

:はーい

:ユキくんがどんな服を着るのか楽しみ

美空アカネ🔧:妄想が捗る! うぉぉぉぉぉ!

海星コウ🔧:アカネ、うるさい!

:草

:wwwww




 それから仕方なしに隣の部屋で違う服に着替えて、ココネの前に姿を現した。


 それは袖なしワンピースだったり、普通のパーカーと短めのスカートだったり、何故かかなり大きなシャツ一枚だったり、女性用制服だったり……。


 そして、最後には着ぐるみパジャマを着ていた。




『こ、これでいいかな?』


ココネ:『はいっ、たっぷり堪能させていただきました。この写真はユキくんフォルダに大切にしまっておきますね』


『……すぐに消して』


ココネ:『ダメですよ!? 私の一生の宝物なんですから!』


『そ、そんなものを宝物にしなくても……』




【コメント】

:写真を撮られるたびにユキくんが悲鳴あげてて草

:悲鳴助かる

:ココママ草




『そ、それじゃあ、これで罰ゲームも終わりだね。そ、そろそろ寝る時間かな?』


ココネ:『まだダメですよ。ユキくん、むぎゅー……』


『ココママはいつまで抱きついてるの、もう……。ふわぁぁぁ……』




 後ろからずっとココネが抱きしめてきている。

 ただ、流石に今日一日ずっと抱き締められていたら僕も慣れてくる。


 ずっと顔は真っ赤だし、最初はジタバタしてたので、騒ぎ疲れてしまった……とも言える。

 しかも寝不足もあって、さっき少し寝たにも関わらず、再び眠気が襲ってくる。




ココネ:『もちろん寝るまでですよ。違いますね。寝る時もずっと一緒ですよー』




【コメント】

:ユキくん、おつかれ?

羊沢ユイ🔧:うにゅ、ユキくんはそろそろ寝る時間なの

美空アカネ🔧:あとから完成したイラスト送るからね

:暴走特急が暴走してて草

美空アカネ🔧:もちろん今日ユキくんが着た服装のイラストだよ

:わくわく

:楽しみ

:暴走特急が仕事してくれた




『ぼ、僕はもうそろそろ眠くなってきたんだけど……』


ココネ:『はいっ』


『えっと……、まだ抱きついたまま……?」


ココネ:『はいっ』


『や、約束だから仕方ないよね……。で、でも、僕はもう……うにゅ……』




 次第に瞼が重くなっていく。


 コクリ……、コクリ……、と頭が上下に揺れてしまう。





ココネ:『ユキくん、起きてますか?』


『……うん』




 遠くの方でココネの声が聞こえる。

 だからこそ、その内容はわからないまでもとりあえず頷いておく。





ココネ:『ユキくんは私のこと、好きですか?』


『……うん』


ココネ:『三期生の中で私が一番好きですか?』


『……うん』




【コメント】

:ココママの誘導尋問草

:ユキくん、何を言わされてるのか

:誘導草

:寝言助かる

:ユキくん、やっぱり子供だね

羊沢ユイ🔧:うみゅ、ユキくんの一番はゆいなの!!




ココネ:『それじゃあユキくん、また私とオフコラボしてくれますか?』


『…………』


ココネ:『ちょ、ちょっと、なんでここで黙っちゃうのですか!?』


『すぅ……、すぅ……』


ココネ:『あっ……、寝ちゃったのですね……』




【コメント】

:ユキくん、お疲れ様

:wwwww

:ココママの作戦失敗www

:草

:草

:wwwww




ココネ:『ちょっとはしゃぎすぎちゃいましたね。ユキくん、反応が大げさで楽しいですから……』


『すぅ……』




【コメント】

:わかるw

羊沢ユイ🔧:うみゅ、わかるの

:わかるw

:ユキくん可愛いw




ココネ:『さすがに長く続けてもユキくんを起こしちゃうから、今日はこの辺りで終わりにしますね。乙ココでしたー』




この放送は終了しました。


『《♯心の拠り所 ♯ココユキ》登録者数5万人記念。寝るまで雑談 《真心ココネ/雪城ユキ/シロルーム三期生》』

3.6万人が視聴 0分前に公開済み

⤴1.2万 ⤵23 ➦共有 ≡₊保存 …


チャンネル名:kokone_Room.真心ココネ

チャンネル登録者数:5.3万人




◇◇◇

【コメント】

:乙ココ

:乙ココ

:乙ココユキ

羊沢ユイ🔧:うみゅ、二人ともおつかれなの

:おつー

美空アカネ🔧:できたぞー。ユキくんに送りつけたー。おつかれー

海星コウ🔧:おつかれさまー

神宮寺カグラ🔧:おつかれ

:おつかれさまー




◇◇◇




 翌朝、目が覚めると僕はベッドの上に寝かされていた。

 そして、当然ながら隣にこよりの姿が……なくて、こよりは床に布団を敷いて寝ていた。



――言ってることとやってることが全然違うよ……。



 配信中は散々抱きついてきた癖に、僕が寝てしまうと一切手を出してこない。

 やはりあれは配信用の姿だったのだろう。


 こよりを起こさないように僕はスマホを確認すると、アカネ先輩からチャットが届いていた。




アカネ:[イラストができたから送るね]




 簡潔な一言と共に、数枚のイラストが添付されていた。

 それは昨日僕が着せられた服をユキくんに着させた、服違いのイラストだった。


 そして、最後にはユキくんとココネが二人寄り添い合って、楽しそうに笑うイラストが添えられていた。


 そのイラストはあまりにも尊すぎて、一人で見ているのがもったいなく思えてくる。




ユキ :[ありがとうございます、アカネ先輩。大切に使わせていただきます]


アカネ:[いいよいいよ。それよりも来週のコラボ、楽しみにしてるからね]


ユキ :[は、はい。緊張しますけど、頑張ります]


アカネ:[大丈夫、全てこのアカネお姉さんに任せておきなさい。弄んであげるから]


ユキ :[そ、その……、お手柔らかに……]




 アカネにお礼を伝えた後、僕は再びイラストを眺めていた。


 まさにてぇてぇとしか言いようがない、とても良いイラスト。

 これを僕一人で見ているのはなんだか違うような気がした。


 だから、僕はこよりが起きるのをしばらく待っていた。




◇◇◇




 こよりが目覚めた後、僕はすぐさま彼女にアカネからもらったイラストを見せていた。


 すると、こよりも思わず笑みをこぼしていた。




「とっても良いイラストだね」


「うん、本当にアカネ先輩には頭が上がらないよ……」


「あっ、でも、配信中はまた別だからね。私たちの時みたいになんでも頷いていたらダメだよ!」


「それは大丈夫……かな?」


「うぅぅ……、心配だなぁ。私もコラボに入れたら良かったんだけど……」


「何か用があるの?」


「うん、他期生コラボ解禁日だからね。私もユイちゃんもカグラさんも全員コラボがはいってるんだ……」


「あっ、そっか……。あれっ? でも、僕以外は男性とはコラボしないよね?」


「うん、私は氷水ツララ先輩、カグラさんは姫野オンプ先輩。それでユイちゃんが猫ノ瀬タマキ先輩だったかな。基本的には雑談枠で、先輩からの質問を答える枠になると思うよ」


「そっか……、一期生は僕だけなんだ……」


「油断したらダメだよ! アカネ先輩を舐めたらダメだからね。答えたらダメな質問は答えないこと!」


「うーん……、わかったよ。なるべく気をつけるね」


「あと、このイラスト、私ももらって良いかな? 私の待機画面にも使いたいよ」


「うん、もちろんだよ」




 こよりにもイラストを送った後、僕は今日の配信のために早めに家へと帰ることにした。




「小幡くん、今日は頑張ってね。収益化の記念配信、きっと大変なことになるから」


「えっと、うん。が、頑張ってくるよ……」

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