第16話:ユキくん、冴える?

 カグラとのコラボを終えた次の日。

 僕は途中で寝落ちしてしまった配信のアーカイブを見て悶絶していた。




「ちょ、ちょっと待ってよ!? な、何で僕の寝息が入ってるの!? しかも音楽消して、瑠璃香さんもわざわざ何も喋らないようにして――」


「えっ? もちろんみんな聞きたそうだったからよ?」


「ぼ、僕の寝息なんて聞いてもみんな楽しくないよ!? うぅぅ……、また僕の痴態が広められてしまった……」


「みんな微笑んでたわよ?」


「ど、どうして……。うぅぅ……、ますます僕の正体をばらせなくなったよ……」




 思わず身震いしてしまう。

 しかし、もう配信されてしまった後なのだからどうすることもできない。




「と、とりあえず今日は僕、帰るね。えっと……、僕の服は?」


「あー……うん、それがね……」




 昨日洗濯してもらっていた服を探すが、どこにもなかったので瑠璃香に確認をすると、彼女はすごく言いにくそうな顔をしていた。


 ものすごく嫌な予感がした僕は、恐る恐る聞いてみる。



「……な、何かあったの?」


「洗濯機が回ってなくて、さっき回したところだからその……、ユキの服はまだ着れる状態じゃないのよ」


「えっ!?」


「ま、また乾かして持っていくからその……、今日はその格好のまま帰ってくれるかしら?」


「そ、そんな……。この格好で帰ったら僕、変態扱いされるよ!?」


「大丈夫よ。とっても似合ってるから……」




 瑠璃香が顔を背けながら言ってくる。

 ただ、僕は必死に抵抗をする。




「嬉しくないよ!? これだとどこからどうみても女装少年だよね!?」


「可愛らしい少女にしか見えないわよ。ううん、これはもっとやばいわね。ココネとユイが取り合ってる気持ちがわかるかもしれないわ」


「や、やめてよ!? 同期三人が僕を取り合うなんて……」




 ココママはしきりに一緒にお風呂に入ったり、寝たりしようとしてくる。

 ユイは朝までホラーゲームをしようとしてくる。

 最近だと、自分の身の危険すら感じるようになってきていた。



 その点、瑠璃香だとあくまでも配信が中心。


 確かに恥ずかしいところを撮られたりはするけど、それも配信のためで、グイグイとくる感じは……そこまでない。

 気を利かせたつもりが、ちょっとポンコツして服が着られなくなったりするくらいで――。



「ユキが私を頼ってるのなら仕方ないわね。わかったわ、とりあえずユキが恥ずかしくないようにしてあげるわ」


「ほ、本当!? ありがとう」




 僕が笑みを向けると、瑠璃香は頬を緩ませていた。

 そして、タンスの中から大きめのリボンを取りだし、少し険しい表情をしながら、僕の髪に白い大きめのリボンを結んでいた。




「うっ……、この破壊力……。本当にやばいわね。わかっていても可愛すぎるわ……」




◇◇◇




――うぅぅぅ……、ますます恥ずかしいよ……。



 瑠璃香の手によって、僕はどこからどう見ても可愛らしい少女になっていた。


 確かに今の格好を見て、誰も僕が男だとは思わないだろう。

 つまり、恥ずかしいのは僕だけ。


 照れたら変に思われるので、なるべく平静を装う。

 あとは知り合いにさえ会わなければ問題ない。


 そもそも、僕の知り合いは片手で数え切れるほどしかいない。


 瑠璃香の家から帰るまでの時間に、その知り合いに会う可能性なんてほぼゼロにも等しいだろう。




「あれっ? 君って確か小幡くん……だよね?」


「えっ!?」



 まさか声をかけられるとは思わず、ついつい反応してしまう。

 そこでしまった、と思い、慌てて訂正する。




「そ、その、僕はこ、小幡ではない……ですよ?」


「あーっ、やっぱり小幡くんだー!」




 振り返ってみるとそこにいたのは、以前結坂の友達として紹介された女性だった。


 名前は確か……。

 確か……。




「えとえと、知らない人とは話したらダメだから――。その……ごめんなさい」




 思わず謝ると女性は苦笑をする。




「あっ、ひどいよ。前も自己紹介したはずだよ? 大代おおしろこより。彩芽あやめちゃんの友達で小幡くんの一つ上の大学三回生だよ」


「あっ、はい。えっと、僕は小幡祐季こはたゆきです。その、よろしくお願いします」




 軽く頭を下げると大代は笑みを浮かべていた。




「あははっ、やっぱり小幡くんじゃん」


「あっ……。ゆ、誘導尋問なんて酷いですよ……」


「別にそんなことしてないんだけどね。それより、今日はずいぶん可愛い格好をしてるんだね? 小幡くんって本当に男の子?」


「えとえと、これには深い事情があって……」


「うんうん、わかってるよ。彩芽あやめには内緒にしておくよ。……家に持って帰っていい?」


「だ、ダメです……。そのその、これは本当にたまたまなんです……」




 考えれば考えるほど、顔が赤くなってくる。


 確かに側から見ればただの女装少年。それは変態以外の何物でもなかった。

 しかし、そのことを知ってか知らずか大代は普通に話しかけてくる。




「私は可愛かったらオッケーだよ。妹も欲しかったからね」


「っ!?」




 思わず後ろに下がって身を守る。



――担当さんといい、ユイといい、大代さんといい、何で僕の周りにはこういう人ばかりいるのだろう?




「あー、違う違う、取って食おうとかそういう理由じゃないよ。可愛いものって見ると目の保養になるよね? 別にそこに性別は関係ないかなって」




 手をばたつかせて顔を赤らめながらいう大代。


 ただ、ここは道の往来。そこまで人通りが多い道ではないものの、それでも道ゆく人はいる。

 そんな道のど真ん中でさっきの言葉。


 すぐに大代の顔は赤くなり、急に僕の手を引っ張ってくる。




「こ、小幡くん、ちょっと付いてきて!」


「えっ、ちょ、ちょっと待って……」




 僕の言葉は耳に入らないようで、大代に連れられるがまま僕は近くの喫茶店に入っていた。




◇◇◇




 テーブル席に向かい合う大代とワンピース姿の僕。

 そして、大代は手を合わせて僕に謝ってきていた。




「ご、ごめんね、小幡くん。勝手にお店に入っちゃって。ここは私が奢るから許して」


「えと、お金は良いのですけど、その……僕は自分の格好が――」




 女装をしたままの方が気になって落ち着かなかった。




「そ、それは可愛いから大丈夫だよ。でも、本当にごめんね。お詫びに何でも食べていいから……」




 そんなタイミングで僕のお腹が鳴っていた。


 よく考えると昨日の晩から、あの失敗作の料理しか食べていない。

 ろくなものを食べていないのだからお腹が減るのはある意味当然だった。




「えと、そ、それじゃあ僕はサンドイッチのセットを」


「うん、私は苺のパフェにしようかな。店員さーん、いいですかー?」




 大代は手をあげて大声で店員を呼んでいた。

 よくそんなことができるな、と僕は思わず感心してしまう。


 コミュ障の僕だと店員さんがそばを通るまで、呼ぶことなんてできない。

 そもそも喫茶店に入ることすらままならない。


 改めて僕には大代は眩く思えてきた。




「んっ、私の顔に何かついてるかな?」




 無意識のうちに大代のことを見ていたようだった。

 不思議に思った彼女が尋ねてくる。




「な、何でもないです……。その……眩しいなって」




 インドアな僕からすれば陽キャである大代が直視できないほど眩かった。




「そんなことないよ……。店員さんを呼んだだけだよ?」


「僕にはできないよ……。あっ、そうだ……。大代さんはどこで結坂と出会ったのですか?」


「彩芽と? うーん、初めて会ったのは会社の面接かな?」




――面接? バイトか何かかな? そういえば配信についても教えてもらったって言ってたかな?




「バイト仲間だったのですね……」


「バイト……とはちょっと違うんだけどね」




 苦笑をする大代。

 ただ、そのタイミングで僕のサンドイッチが運ばれてくる。


 色鮮やかな黄色たまごキャベツトマトといった食材に思わず感動してしまうのは、昨日の料理が黒一色だったからだろうか?


 焦げ臭くもなく、弾力あるパンを見ると思わず喉を鳴らしてしまう。


 すると大代が気を遣って言ってくる。




「あっ、先食べてくれていいよ。私のパフェは遅いだろうし」


「すみません。それじゃあ、いただきます」




 手を合わせたあと、僕は目の前に置かれたサンドイッチを口に運ぶ。




「お、美味しい……」


「……普通のサンドイッチだよ?」


「普通って幸せですよね。普通って」




 昨日のことを思い出して、思わず遠い目をする。

 すると、大代が笑いをこぼしていた。




「あははっ、小幡くんって変わってるって言われないかな?」


「そ、その、言われるような友達がいなくて……」


「あっ、ご、ごめん。……あれっ? 彩芽は友達じゃないの?」


「えっと、ユイ……坂が僕の初めての友達かな」




 うっかりユイと言ってしまいそうになるが、慌てて訂正する。

 気づかれたかな? っと不安になったが、大代は笑みを浮かべて僕を見ていただけで、どうやら気づいてまではいなさそうだった。




「そうなんだ。それなら私が小幡くんの友達第二号に立候補しようかな?」




 笑みを浮かべながら、あっさりと言ってくる大代。



――こんなに簡単に言えるんだ。僕だったら今の言葉を発するのに一晩悩んで、諦めるのに……。



 ただ、突然のことに思わず言葉を詰まらせてしまう。




「えっ? あ、あの、その……」


「も、もちろん無理にとは言わないよ?」


「えとえと、大代さんとは会ってまだ二回目なのに……その、良いのですか?」


「あっ、私のことはこよりでいいよ」


「じゃあ、僕のことは祐季でいいですよ?」


「うーん、私は小幡くん、のほうが呼びやすいからそっちで良いかな? ちょっと、祐季くんだと別の人と重なりそうで――」


「あっ、はい。わかりました。それじゃあ、僕も大代さんで……」


「こよりでいいですよ?」


「はい、大代さ……」


「こよりでいいですよ?」


「おおし……」


「……こより」


「わ、わかりました……、こよりさん」




 こよりからの有無を言わさない圧力に負けてしまう。


 友達第二号が圧倒的陽キャのこよりさん。

 満足そうに微笑む彼女を見ると僕は苦笑いを隠しきれなかった。




「うーん、まだ少し固い感じだけど仕方ないかな。あと私に敬語はいらないよ。緊張感は徐々にときほぐしていくからね」




――もしかして、早まっちゃったかな?



 少し不安を感じた瞬間にこよりが手を伸ばしてくる。




「ひっ!?」




 思わず目を閉じてしまう。

 しかし、特に何かされたわけでもなく、一瞬頬に手の感触を感じただけだった。




「小幡くん、口についてたよ」




 こよりの手にはサンドイッチに挟まっていた玉子が掴まれていた。

 そして、それをそのままこよりはそのまま口へ運ぶ。




「あっ……」


「うん、なかなか美味しいね、ここの玉子」


「なっ、なっ……」




 にっこりと微笑むこより。


 ただ、僕は自分が食べてたものを、こよりに食べられたことへの驚きと恥ずかしさが入り混じって、うまく言葉を発することができない。


 頬が赤く染まっていくのを感じる。

 すると、そのタイミングでこよりのパフェが運ばれてくる。


 すると、こよりはパフェと僕を見返して、スプーンでパフェのクリームをすくって、僕の方へ差し出してくる。




「はいっ、小幡くん。玉子のお返しだよ?」


「あわわわっ……、そ、その、僕……、僕……、ふきゅぅ……」




 恥ずかしさの許容を超えてしまい、僕は目を回していた。すると、こよりは心配してくれる。




「わわっ、小幡くん、大丈夫!? ご、ごめん、やりすぎたよ」


「きゅぅ……」


「も、もうしないから。小幡くん、戻ってきてー……」




◇◇◇




 それから僕が意識を取り戻すのは数分後だった。

 目を覚ました時にいつの間にか隣に移動していたこよりは不安そうに聞いてくる。




「小幡くん、大丈夫……?」




 まだまともに意識が覚醒していない僕は、何も考えずぼんやりと思ったことを呟いていた。




「ママ……?」


「だ、誰がママですか!?」




――あ、あれっ!? も、もしかして、今って配信中だった!?



 こよりのその反応がココママに見えてしまい、思わず飛び起きる。

 しかし、そこは喫茶店で、隣でこよりがぼんやり僕のことを眺めていた。




「あ、あれっ? こより……さん?」


「小幡くん……、起きたんだ……。ごめんね、少し調子に乗りすぎちゃったみたいで……」


「ううん、僕も慣れてなかったから、その……、恥ずかしさの許容を超えちゃったみたいで……」


「私も可愛い妹ができた気分になって、やりすぎちゃった。反省するよ……」


「そ、その……、僕ももうちょっと耐えられるように頑張るよ……。そのうち……」


「そっか……。じゃあこのパフェを……」


「そのうち! そのうちだからねっ!?」



 追い討ちをかけてこようとするこよりの攻撃をかい潜り、なんとか喫茶店での猛攻を防ぐことができた。


 こよりをココママっぽいと感じたからだろうか。知らず知らずに自然としゃべり方は普段の僕に近づいていた。




◇◇◇




 ようやく解放されて、家に戻ってきたときにはすでに夜になっていた。

 流石に今日も配信できる気力がないので、同期の放送を眺めてるとココママが配信しているようだったので、見にいくことにした。




『《♯心の拠り所》雑談。新しい友達ができたよ《真心ココネ/シロルーム三期生》』

1.6万人が視聴中 ライブ配信中

⤴961 ⤵1 ➦共有 ≡₊保存 …




ココネ:『ココフレのみんなー、ここばんはー! シロルーム三期生の真心ココネですよー』




【コメント】

:ココママー

:ココママー

:ココママー

:ココママー

:ココママー




ココネ:『ママじゃないですよー。それよりココフレのみんな、聞いてください。今日、私に新しい友達ができたんですよー』




 ココネは嬉しそうに話していた。

 その本当に幸せそうな表情を見ているとこっちまで嬉しくなってくる。




【コメント】

:てぇてぇの予感

:ぼっちには眩しすぎる

:ココママ嬉しそう

:お、男じゃないよな?




ココネ:『白のワンピースと大きなリボンが似合う、とっても可愛らしい子なんですよ。妹に欲しい子なんですよー』




 その言葉に僕は一瞬固まる。

 ただ、白のワンピースを着てリボンを付けている子ならたくさんいる。

 僕とは無関係なはずだ。


 たまたま同じ服を着ていたから一瞬焦ってしまった。


 苦笑いのまま、僕はコメントを眺める。




【コメント】

:白のワンピース……、ユキくんか!

:リアルユキくんキタァァァァァァ!!

雪城ユキ🔧:ぼ、僕は関係ないよね!?

:本物いたw




ココネ:『あっ、でもユキくんに似てるかもしれないです。小柄でそれこそ中学生くらいにしか見えなくて、しかもしかも、ほっぺについたサンドイッチの玉子を取ってあげると顔を真っ赤にしてたんですよ……』




――んっ? どこかで聞いたことがあるような出来事……。



 額から冷や汗が流れる。



――ま、まだ、何人もいるよね。そ、その、ワンピースを着てて、サンドイッチを取ってもらった人なんて……。




ココネ:『それがあまりに可愛くて、ついつい私のパフェをあーんってしてあげたんですよ。すると恥ずかしすぎたみたいで、目を回しちゃって……。とってもウブな子だったんですよ。やっぱり可愛いって正義ですよね』




【コメント】

:その子もシロルームに来てくれないかな?

:まだ中学生なんだろう? 数年待て

:ワクワク

:今から楽しみ

:ココママがユキくんから浮気してる




ココネ:『浮気じゃないですよ!? ゆ、ユキくんは私の大切な友達ですよ。そ、そうですよね、ユキくん? ……ゆ、ユキくんも何か反応してくださいよ……?』




 ココネが不安そうな声をあげていた。

 ただ、僕は別の考えに心を揺らされていて、まともに反応が出来なかった。



――こよりさんがココママだったんだ……。



 思えば初めて出会った時はココユイのコラボがあった日、ユイである結坂と一緒にいたのはこよりだった。


 他にも初めて出会ったのが会社の面接。

 その会社がシロルームのことなら、二人が出会っててもおかしいことではない。


 それに加えて、今の僕の情報……。

 寝起きに感じたココママの雰囲気……。


 一個一個だと確証は持てなかったけど、ここまで揃ってしまうとほぼ決まりだった。




――ちょ、ちょっと待って!? そういえば僕って、あのこよりさんとお泊まりのオフコラボをするの!? そ、そんなの体がもたないよ……。



 ゲームで疲れて寝てしまったユイとのオフ会や、気がついたら泊まることになっていたカグラとは違う。


 最初から泊まることが決まってる配信。




「うぅぅ……、知らなかったらよかった……」




【コメント】

:あれっ? 本当にユキくんの反応がない?

:もしかして逃げた?

:ココママ怯えてて草

:ユキくん、落ち込んじゃったねw




ココネ:『そ、そんなことないですよ!? み、見ててください。今通話して私たちの仲を証明してみせますから――』




――ま、まずい……。今ココママから電話がかかってきたら余計な反応をしてしまいそうだよ。と、とりあえずコメントで反応して……。




【コメント】

雪城ユキ🔧:べ、別に気にしてないよ……

:めっちゃ気にしてて草

:ユキくん拗ねたw

:wwwww

雪城ユキ🔧:えっ、ちが……




 コメントも途中にキャスコードから通話がかかってくる。

 相手はもちろんココネからだった。




『えとえと……、な、何かな?』


ココネ:『ユキくんー、違いますからね。私はユキくんのママですからね』




【コメント】

:ココママの台詞が酷いw

:ココママがママを認めてて草

:珍しいw

:ココママ、ユキくんが絡むとポンコツになるよな?

:人をダメにするユキくん、かw

羊沢ユイ🔧:うみゅ、ココママがユキくんを手放したのでゆいがもらっていくの

:ユキくん依存症だな、これは




『ちょ、ちょっと!? なんで僕がクッションみたいな名前がついてるの!?』


ココネ:『ユキくんー、私を許してー』


『ゆ、許すも許さないも僕は別に怒ってないよ。ほらっ、ココママにはいつもお世話になってるし、その……とっても感謝してるんだから』


ココネ:『ゆ、ユキくん……』




 ココネは涙を拭う仕草をする。




『そ、それよりも一応僕、自己紹介した方がいいかな? ココママも僕のアバター、出す? 今ならなんとか話せるよ?』


ココネ:『そ、そうですね。ユキくんにフォローされるなんて……』


『ぼ、僕も昔のままの僕じゃないんだからね。みんなのおかげで成長したから……』


ココネ:『あとは声が震えてなかったら完璧でしたね』


『あぅ……』



 ようやく本調子に戻ってくるココネ。

 それを見て、僕は少しほっとしていた。




ココネ:『改めてユキくん、自己紹介をよろしくおねがいします!』


『それじゃあ、僕は帰るね。お疲れ様で――』




 僕ならこういう対応をする方が自然かな、とわざと帰ろうとする。

 すると、ココネが慌てて言ってくる。




ココネ:『ちょ、ちょっと待ってください! ユキくんから言ったことですよ!? 最後まで責任を取ってください。私はもう、ユキくんがいないとダメな体になってしまったのですから』


『ちょ、ちょっと言い方!? わざとでしょ!? ねぇ、わざとだよね!?』


ココネ:『……だって、ユキくんの初オフも私だって言ってましたよね?』




 ココネが少しすねた口調になる。

 確かにココネから言ってきたこととはいえ、その約束は守れなかったことになるので、僕は申し訳なく思う。




『それはその……、ごめん。その、成り行きで……』


ココネ:『しかも、カグラさんともオフしてましたよね?』


『……うん、それは僕から誘ったことだし言い訳できないかも』


ココネ:『ツーン……』


『ご、ごめん、ココママ。その……ぼ、僕にできることなら何でもするから――』


ココネ:『……それならコラボ配信の前に一緒にお買い物へ行ってくれますか?』


『そ、そのくらいなら……』


ココネ:『ユイちゃんがしてたみたいに、配信中にギュッと抱きしめてもいいですか?』


『えっ!? うぅぅぅ……、それはその……』


ココネ:『ユイちゃんにはよくて、私はダメなんですね……』




 ココネのアバターが落ち込んでみせる。



――いつもココママには助けてもらってるから、断れない……よね? でも、オフ会で抱きしめられる……。ココママではなくこよりさんに……。




 真剣に頭を抱えて悩む僕。




『うぅぅぅぅ……。ど、どうしたらいいんだろう……』




【コメント】

:ユキくん苦渋の決断wwwww

:頼む、ユキくん。俺たちのためにも

:ユキくん、頑張れ

羊沢ユイ🔧:うみゅー、ユキくんは柔らかかったの

:火に油を注いでて草




ココネ:『どうですか、ユキくん?』


『うぅぅぅ……、わ、わかったよ。オフ配信の時も同じ様に抱きしめたいって思うのだったらいいよ……』


ココネ:『ありがとうございます。ならあとは、一緒のお風呂と同じベッドで寝るだけですね』


『さ、流石にそれはダメ!!』


ココネ:『むぅぅぅ……、恥ずかしがり屋のわんこさんですね。大丈夫、少ししか襲わないですから――』


『お、襲う気だったんだ!? ぜ、絶対にダメだよ!!』




【コメント】

:ココママ草

:絶対見にいく

:楽しみ

羊沢ユイ🔧:ゆいは一緒に寝たの

:wwwww

:まだ油を注ぐwwwww




ココネ:『ユキくんと一緒に寝るの、楽しみですね』


『えっ!? そ、それは断ったはず――』


ココネ:『ユイちゃんはよくて私はダメなの?』


『ココママ、怖い。怖いよ……? そ、それにユイの時もカグラさんの時も僕は先に寝ちゃったから詳しく知らないんだよ……』


ココネ:『あっ、そういう方法があったんですね。なら私も――』


『あっ、よ、余計なことを……。だ、大丈夫、僕は起きてるから……』




【コメント】

:ユキくん自爆してて草

:いつものユキくんだw

:wwwww

:いつも先に寝るユキくんw

:緊張して前日寝られないらしいもんなw

:子供なんだなw

:ここまでユキくんの自己紹介なしw




『あっ、わ、忘れてた。わ、わふぅー、み、皆さん、初めまして。シロルーム三期生の雪城――』


ココネ:『では、次回のオフコラボ配信をお楽しみに。乙ココー』


『あー、ちょ、ちょっと、まだ僕の自己紹介が終わってな――』




この放送は終了しました。


『《♯心の拠り所》雑談。新しい友達ができたよ《真心ココネ/シロルーム三期生》』

2.4万人が視聴 0分前に公開済み

⤴1.0万 ⤵24 ➦共有 ≡₊保存 …


チャンネル名:kokone_Room.真心ココネ

チャンネル登録者数4.8万人




【コメント】

:自己紹介の途中で終わる犬www

:毎度飽きさせないなw

:ユキくんらしいw

:17日が楽しみだw

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