第3話:三期生初コラボ

ココネ:『さて、タグも決め終わったからあとは雑談かな。ユキくん、何か話したいことある?』


『ぼ、僕は何も考えてないよ……。自己紹介するのも一杯一杯だったし……』


ココネ:『うんうん、そうだよね。それならここは犬好きさんたちから質問を募集してみようか?』




 ピコッピコッ。




 時間が延長され、雑談が開始されようというそのタイミングで再びチャットから音が鳴る。




『あっ、音を消すの忘れてた』


ココネ:『大丈夫だよ。それより誰からかな?』


『ちょっと待ってね……』




 チャットを開けるとカグラとユイから送られてきたようだった。




カグラ:[私もコラボしてあげても良いわよ?]


ユイ :[うみゅ、仲間はずれ?]




――どうやら二人も僕のことを心配してコラボをしてくれようとしているようだ。



 そのことが嬉しくて、少し涙ぐみながら答える。



『ははっ……、カグラとユイからだったよ。一緒にコラボしたいって』


ココネ:『そうだよね。私だけだと不公平だよね。えっと、担当さんに……』




 ピコッ。




 再び通知音が鳴る。

 開けると今度は担当さんからだった。




マネ :[コラボOKですよ]




 簡潔に一行だけ送られてきたその言葉。




『担当さんからみんなのコラボ、OKが出ちゃったよ……』




【コメント】

:えっ?

:マジ?

:三期生全員集合?




ココネ:『うん、それじゃあ、全員コラボ許可を出してね』


『わ、わかったよ……』




――こんなこと、前代未聞だよね? 一体僕の初配信はどんな方向へいくの?




 困惑しつつも、僕のためを思ってくれているみんなに感謝をしながら、コラボの許可を出すのだった。




◇◇◇




『……ということで他の二人にも来てもらいました』


ユイ :『うみゅ、羊沢ユイひつじさわゆいなの。ユキくんの段ボールを回収するために来たの』


『えっ!? だ、ダメだよ。この段ボールは僕のだからね』




【コメント】

:うみゅ

:うみゅ

:うみゅ

:その段ボール、でかいし二人で入れないか?




ユイ :『なるほど、それは名案』


『名案、じゃないよ!? この段ボールは渡さないからねっ』




【コメント】

:どうしても拾って欲しい犬w

:ユキくん必死w

:ユキユイもいいな

:てぇてぇ

:全身を見せないために全力になるユキくんw




ユイ :『うみゅ……、ゆいたち、友達じゃなかったの……?』


『うっ……』


ユイ :『友達なら貸してくれる? 代わりに今度私の枕を貸してあげるから』


『わ、わかったよ……うぅ……』




 パソコンを操作して、段ボールをユイの方へ移動させる。

 そこで初めて全身絵が登場することになる。




【コメント】

:はっ!? 見惚れてた

:かわいい

:ワンピースだったんだ……

:切り取り班、頼んだ!




『は、恥ずかしい……』




 アバターとはいえ、こういった格好をしている、と分かってしまうと恥ずかしさを感じざるを得なかった。




ココネ:『大丈夫よ、何かあっても私が守ってあげるから』


『ココママ……』


ココネ:『ま、ママじゃないよ!?』


ユイ :『ぬくぬく……』


カグラ:『ちょっと、さっきから全く話が進んでないわよ。やっぱり私がいないとダメね』


『珍しくカグラさんが進行役をしてる』


カグラ:『珍しくないわよ! みんながボケ倒すからでしょ! 全く、一番しっかりした私がいないとやっぱりダメね』




【コメント】

:w

:w

:草

:w

:ココユキ最高……

:はぁ、ユキユイだろ?

:よし、戦争だ

:おいっ、誰かカグラ様の話を聞いてやれ




 一人話題に出てこないカグラはぷるぷると震えている。




『か、カグラさんも自己紹介してくれる? ほらっ、あとから来た人もいるから……』


カグラ:『ふ、ふんっ、仕方ないわね。べ、別に話題に上がらなくて悲しいとかは思ってないからね。私は神宮寺カグラじんぐうじかぐらよ』




【コメント】

:カグラ様モードか

:ポンコツモードにいつ変わるのか見物だな

:もうポンコツモードじゃないのか?




カグラ:『わ、私はポンコツじゃないわよ』


『わかってるよ、カグラさん。僕はわかってるから……』




 みんなが思い思いに暴走するので、僕はサポートに回ることにする。

 自分の枠だけど……。




カグラ:『うぅ、さすがユキ……。私の唯一の友……』




【コメント】

:えっ、カグラ様もか?

:今回ぼっち多過ぎ

:呼んだか?

:なんだ、同類か

:急にカグラ様のこと、親近感が湧いたな

:ちょっと推してくる

:カグラ様かわいい

:カグユキか……。完全にノーマークだった

:おいっ、ぼっち同士を混ぜるのは危険だ

:ぼっち×ぼっち=俺たち

:なんだ、俺たちは美少女か




 ここに来てコメントは一番の伸びを見せていた。

 それを見てカグラは困惑している。




カグラ:『べ、別に私は友達が欲しかったわけじゃないんだからね!?』


『えっ、ぼ、僕とは友達じゃなかったの?』




 思わず顔を青くなる。

 すると僕に合わせるようにココネとユイも言う。




ココネ:『私も友達じゃないのですか?』


ユイ :『うにゅ……、違うんだ……』


カグラ:『あー、もう。みんな友達で同期よ! これでいいんでしょ!』




【コメント】

:デレた

:これがツンデレ

:カグラ様はツンデレか




カグラ:『うぅ……、どうしたらいいのよ』


『……素直になればいいんじゃないかな?』


カグラ:『それはあんたもよ! いつもこうやって話してくれたらもっと会話が弾むのよ』


『うっ、だ、だって、こんな大勢を前にしたら……』




 今の現状を思い出して、だんだんと青ざめていく。




カグラ:『だ、だから小さくならないの! 私たちがいるでしょ!』


『そ、そうだね。うん、頑張るよ』




【コメント】

:カグユキ、いいな

:ポンコツ×ポンコツ=尊い

:誰を推すか決められない……

:ここまで自己紹介定期




ココネ:『そ、そうですね。そろそろ次に行きましょう。せっかく私たち三期生全員が揃ったのですから、質問コーナーにしましょうか』


ユイ :『うにゅ、ゆいが好きなのは甘い苺ショートだよ』


ココネ:『まだ何も聞いてないですよ!?』


ユイ :『うみゅぅ……、今履いてるのは白だよ……』


ココネ:『だから何も聞いてな――。い、今何を言ったのですか?』


ユイ :『うにゅ、それじゃあ質問のある人はコメントで』


ココネ:『ちょ、ちょっと、ユイちゃん!? だからさっきのは一体何なのですか!?』


『えっと……、ユイさんとココママが漫才してたけど、気にせずにコメントをどうぞ……』


ココネ:『ゆ、ユキくんまで!?』


ユイ :『ゆいはユイって呼んでほしいな……』




【コメント】

:ココユイもいいなぁ

:ココユキといいライバルだ

:どうしてVtuberになろうとしたの?

:なんだかんだで三期生は仲がいいね




ココネ:『Vtuberになろうとしたきっかけですか。えっと、私は新しい世界を見つけるため、ですね。もっと自分を高めたいと思ったんですよ』


『すごい……。ココママ、色々考えてるんだ……』


ココネ:『全然ですよ、私なんて。そ、それじゃあ、順番に次はカグラさん、お願いね』


カグラ:『私は自分の姿を放送しないなんて世界の損失だから――』


ユイ :『うにゅ、寂しかったから友達が欲しかったんだね』


カグラ:『えぇ、そうよ。……って違うわよ!? また変なこと言って!』




【コメント】

:ここは極楽浄土か?

:カグラ様、寂しがりやだもんね

:段ボール、カグラ様に似合いそう




『えっ、こんな感じかな?』




 ユイのところにあった段ボールをカグラのところへ移動させる。

 王冠を被った姫様が捨てられてるそのシュールな光景。でも、それがカグラということを考えると妙にしっくりとくる。




ユイ :『うにゅ、似合ってるの』


ココネ:『確かにこれはすごく似合ってますね』


『うん、予想以上だった……』


カグラ:『って、私はダンボールがお似合いって言いたいの!?』


『わ、わかったよ。段ボールは元に戻すよ……』




 素直に段ボールを自分のところへ戻す。




【コメント】

:さりげなくユキくんがダンボールの中に戻ったw

:草

:カグラ様用の段ボールを探さないと




カグラ:『そんなものいらないわよ!?』


ココネ:『ほらっ、また話が脱線してるわね。元に戻すわよ。ユイちゃんはどうしてVtuberになろうとしたの?』


ユイ :『うにゅ、楽してぐうたらするためだよ』


カグラ:『……』


ココネ:『……』


『……』




【コメント】

:……

:……

:俺たちみたいだ

:俺を混ぜるな。俺はVtuberとして働くことすら嫌だ

:まだこうやってみんなを楽しませてくれてるだけ偉いよ




ココネ:『ぶ、ブレませんね、ユイちゃんは。そ、それじゃあ気を取り直して最後はお待ちかね、枠主であるユキくんに答えてもらいましょう。ではユキくん、どうぞ!』




 一瞬空気が固まってしまったのをなんとかココネは戻そうとする。

 ただ、僕の答えもユイとそこまで変わるわけじゃなかった。




『ぼ、僕はその……外堀を埋められた……』


ココネ:『えっ!? だ、誰に!?』


『担当さんと母さんだよ……。そうじゃないと人見知りの僕がするはずないよね……』


ココネ:『た、確かにユキくんは人一倍人見知りだもんね……』




【コメント】

:外堀を埋められるなんてアイドルみたいなこと、あるんだな

:アイドルみたいなものだもんな

:そのお母さんに感謝




 なんだかおかしな方向へと進み出してしまった。




『そ、それよりも次の質問、いきましょう。も、もう時間ないので』


ココネ:『そうですね。では次の質問はユキくんに選んでもらいましょう。コメントに書き込んでくださいね』


『えっ、僕!?』


ココネ:『もちろんですよ。だってここ、ユキくんの枠ですから。もちろん個人ユキくん宛の質問でもいいですよ』


『や、優しくしてね……』




【コメント】

:かわいい

:お兄さん、いじめたくなっちゃうぞ

:通報しました

:ユキくんに質問。同期の中で一番好きな人は?

:ユキくん以外の人に質問。ユキくんの好きなところは?




ココネ:『これは似た質問が来ましたね。告白タイムになるかな?』


『そ、そんなことしないよ。ぼ、僕が耐えられないから……』


ユイ :『ゆいはユキくんのこと、好きだよ』


『っ!?』




 突然の告白に顔を伏せて、思わず段ボールの中へ隠れてしまう。




ココネ:『あっ、ユキくん!?』


カグラ:『仕方ないわね、全く……。ほらっ、出てきなさいよ』


ユイ :『うにゅ、素直な気持ちを言っただけなのに……段ボール貸してくれたし……』




――わかってる。今の好き、がそういう好きじゃないくらい。でも、僕の精神がもたない……。



 赤くなる顔を必死に抑えようとしているうちもコメントは無情に流れていく。




【コメント】

:ユキユイの勝ちか

:ユイちゃん、ストレートだったなぁ

:ユキくーん、出ておいでー

:ユキくんが好きな人も聞きたかったなぁ

:でもこの反応は相思相愛なんじゃないか?




『うぅ……、僕は友達になってくれたみんなのことが好きだよ。で、でも……』


ユイ :『うみゅ、ゆいと同じだね』


ココネ:『あっ、そういうことだったのですね』


カグラ:『どういうことなの?』


ココネ:『私はカグラさんのことが好きってことですよ』


カグラ:『な、な、何馬鹿なこと言ってるのよ!?』




 カグラが必死に手を動かして慌てていた。

 その様子を見る限り、カグラだけどういうことかわかっていないようだった。


 今のユイの好き、は友達としての好きってことだということに。




【コメント】

:相変わらずのポンコツぶり

:そこがいい

:切り抜き班、頼んだ

:ユキくんがすっかり段ボールだね

:やっぱり段ボールが本体……

:でも、じっと見てるとたまに顔をのぞかせてる。そこがかわいい

:あっ、本当だ




『っ!?』




 顔をのぞかせていた僕はまたすぐに段ボールへと隠れてしまう。




ココネ:『つまり、だれがユキくんを拾い上げるか勝負ってことですね。ユキくん、私とコラボしませんか?』


『こ、コラボ……?』


ユイ :『うみゅ、ココママだけずるい……。ゆいもコラボする。お泊まりオフ……』


カグラ:『お、お泊まり!? さ、さすがにいきなりそれは……』


『お、お泊まりは僕の体が持たないよ……』




 精神的にもそうだが、そもそも僕は男。

 異性とお泊まりなんて論外だった。

 しかも、美少女Vtuberになった今、絶対に男であることは隠さないといけない事実だ。


 オフだけはない。

 絶対にオフだけはない。




ユイ :『うみゅ、なら仕方ないの。24時間耐久クソゲーオフで我慢するの』


『それは全然我慢してないよね!? むしろ悪化してるよ』




 思わず顔を出して突っ込んでしまう。ただ、すぐにまた引っ込める。




【コメント】

:オフコラボ……

:本当に仲がいいんだな

:24時間耐久……って死ぬのかな

:このメンバーだとユキくんも常識枠に入ってしまうのか




『僕はいつでも常識枠だよ!?』


ココネ:『なら段ボールから出てきてくださいね。んっしょっと……』




 ココネが持ち上げるような仕草をするので、仕方なく顔だけ出す。




【コメント】

:あっ、出てきた

:おかえり

:やっぱりココユキか

:ココママ以外常識人がいない

:むしろ常識人がいるのが珍しい




 ひどい言われようだった。


 でも、元々シロルームは規格外の人物がたくさんいる企業……。

 リスナー側なら僕も同じことを思っていただろう。




カグラ:『それよりもそろそろ時間じゃないかしら? あと一つくらいしか質問に答えられないわよ』


『うーん、それじゃあ簡単な質問、よろしく』




【コメント】

:もう1時間経ったのか

:明日のココユキ配信の時間は何時から?




『ま、まだ、コラボするって訳じゃ……』




 ピコッ。




 何度も消そうとしてたのにずっと忘れてた通知音。




ココネ:『あれっ、私も?』


カグラ:『私にも来てるわ。あっ、担当さんからね』


ユイ :『うにゅ、コラボは強制……』


『あぅあぅあぅ……』




 再び段ボールの中へと戻る。

 しかし、それをココネが許してくれなかった。




ココネ:『ユキくんの初めては私がいただきました!』


『ちょ、ちょっと、言い方!?』




【コメント】

:w

:w

:w

:草

:草

:おめ




ココネ:『ということで、ユキくんとコラボ動画をすることが決定しました。日程はさすがに来週になるかな。どっちの枠でするかとかはまた相談して告知を出します』


『うぅ……、僕、お腹が痛くなってきたから休まないと……』


ココネ:『担当さんから[ユキくんの体調が治るように病院に連れて行って強制的に出演させます]とのことです』




【コメント】

:w

:w

:草

:w

:担当さん、ユキくんのことを良くわかってるw

:ユキくん、逃げる気でいて草




ココネ:『あっ、本当に体調不良だった場合は日が延びるからね。あと、事前にマシュマロで質問を募集しますのでどんどん投げてください』


『僕には投げなくて良いよ……』


ココネ:『ユキくんはまだマシュマロ解放してないでしょ』


ユイ :『うぅ……負けた』


カグラ:『と、突発コラボを狙えば……』


ココネ:『ふふふっ、やっぱり裏から手を回して置いて正解だった……』


『黒い。ココママが黒いよ……』


ココネ:『あっ、こらっ。段ボールに隠れたらダメって言ったでしょ』




【コメント】

:草草

:w

:黒いw




『みんな、配信には来なくて良いからね。僕との約束だよ?』




【コメント】

:はーい

:はーい

:はーい

:みんな返事だけすぐる

:今から楽しみ

:全裸待機しておく




『か、風邪ひくよ? 服は着ようね。あと、みんな来る気でしょ?』




【コメント】

:もちろん

:当然

:服を着なかったらユキくんに心配してもらえるのか

:やめろ。その役は俺のものだ!




『うぅ……、こうなったらまたみんなに配信の練習付き合ってもらうから……。し、失敗しても怒らないでね』




【コメント】

:はーい

:はーい

:代わりに担当が怒りそう

:がんばっ




『うぅ……た、担当さんも怒らないでね……』


ココネ:『はいはい、ユキくんにはあとで私たちからも説教しておきますね』


『えっ!?』


カグラ:『まぁ、ここまでぐだぐだな初配信も珍しいから仕方ないわね』


『えっえっ!?』


ユイ :『うみゅー、この段ボールはユイがもらっておくからね』


『えっえっえっ!?!?』


ココネ:『では、本日の配信はここまでです。お疲れ様でした』


カグラ:『お疲れ様でした』


ユイ :『うにゅ、お疲れなの』


『ぼ、僕の配信枠……、お、おつか――』




この放送は終了しました。

『《雪城ユキ初配信》初めまして、拾ってください《シロルーム三期生/新人さん》』

2.6万人が視聴 0分前に配信済み

⤴6,471 ⤵67 ➦共有 ≡₊保存 …


チャンネル名:Yuki Room.雪城ユキ

チャンネル登録者数4.2万人




◇◇◇

【コメント】

:w

:終わり方w

:枠主が締めないw

:これは超大型新人の予感w

:最後まで草だった

:最後まで言えないユキくんw

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