第39話 夏祭り2

 道の端に飾られた赤提灯と、真っ赤なかがり火。賑やかな祭囃子に、屋台からのお腹がすいてくる香ばしい匂い。いかにも夏祭りって感じだ。

 日が落ち本格的に祭りが始まって、人も先ほどよりもずっと増えている。目を離した隙に皆とはぐれてしまいそうだ。


「あー、肉巻きおにぎりある! 次はあれ食べたい!」

「えー、乃恵センパイ。さっきタコ焼きとイカ焼き食べたばっかですよー」


 目当ての食べ物を見つけた乃恵が、すぐさま駆け出していく。それを見失わないように犬童さんが、そっと手を取り着いていく。あれじゃ、どっちが年上かわかったもんじゃない。


「佐有さん、何か食べたいものある? 買ってくるよ」

「いや、私はいいよ。とくにお腹減ってないし……」


 遠慮がちに断るものの、次の瞬間佐有さんのお腹が控えめにくぅーと鳴った。


「あ、えっと……」


 顔を真っ赤にして恥ずかしがる佐有さんに思わず笑ってしまう。


「唐揚げでいいかな? 買ってくる!」

「あ、印牧君!」

「忠世! 俺のも!」

「了解ー」


 戸惑う佐有さんとついでとばかりに便乗してくる重朝の声を受けて俺は近場で目のついた唐揚げ屋に足を向けた。

 唐揚げ屋は大盛況で長い列が作られている。少し離れた場所にもう一店舗唐揚げ屋があるがそこも人が多い。

 この県では唐揚げはソウルフードなのだ。三度の飯より唐揚げが好き。某全国チェーンの揚げ鳥屋を潰しては個人の唐揚げ屋が出来る。唐揚げ戦国時代だ。お好み焼き屋や箸巻き屋は比較的空いているけど、やっぱりO県民としては唐揚げだろ。唐揚げを食べないと祭りに来た気にはなれない。


 待っている間暇なので、ちらりと公園中央に作られている特設ステージを見やる。そこではどうやらカラオケ大会が行われているようで、派手な着物を着たじいちゃんがステージ中央で謎の振り付けと共に演歌を歌っていた。知らない曲だ。

 どちらかというと老人が多い地域。出場者もほとんどご年配の方で俺ら世代はいないだろう。

 しかし、祭りの参加者は若者も多い。待ち合わせの場所に行く前に駐車場の前を通ったが、県外ナンバーも多くみられた。田舎なので、こんな時ぐらいにしか県外ナンバーはあまり見ない。夏休みだし里帰りしている人たちもいるのだろう。


「はい、らっしゃい。どれにする?」


 ボヤっと祭りを観察していたら、いつの間にか俺の番になっていた。屋台の上に貼り付けられたメニューに目を通す。さて何にしようか。個人的に骨付きが好きだが野外では少し食べずらいし、女の子である佐有さんは嫌かもしれない。なら骨なしか軟骨か? いや、軟骨って好み別れそうだな。


「骨なしミックスの塩二人前と、同じく骨なしミックスのタレ一人前」

「おうよ!」

 

 ミックスとはモモとムネが一緒に入っているやつだ。同じミックスでピリ辛もあったが、注文を終えた後に気が付いてしまった。惜しいことをした。


「へい、おまたせ!」


 お金を払い商品を受け取ると、踵を返して佐有さんたちのところへと急ぐ。佐有さんたちは先ほど別れた場所と同じ場所にいた。まだ乃恵たちは帰ってきていないようだ。

 二人に合流しようとした時、ふと近くにいた女性の声が耳に入って来た。


「あの二人学生かなー? 彼氏チョーイケメンじゃない?」

「彼女もめっちゃ可愛いよね。すっごいお似合い! あー私もあんなイケメン彼氏ほしー!」

「あんたじゃ無理でしょー?」


 キャハハと笑いながら女性たちは去っていった。今の会話が頭にこびりつく。

 さっきの話は間違いなく佐有さんと重朝のことだろう。二人は先ほどの女子二人が言った通り、美男美女だ。よそから見ればお似合いのカップルに見えるだろう。たいして俺はただの冴えない陰キャメガネだ。あの二人と並んでいていいのだろうか? 佐有さんの隣に居たいだなんておこがましくないだろうか。


「忠世!」


 重朝の声に顔を上げると、目の前まで二人が来ていた。


「なにボーとしてんだ?」

「いや、何でもない。塩とタレどっちがいい?」

「俺塩。佐有さんは?」

「私も、塩貰っていいかな?」

「どうぞどうぞ、俺どっちも好きだから」


 もやもやした胸を抱えて俺は無理矢理笑った。笑ってないとこのまま逃げ出してしまいそうだったから。

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