第30話 嵐来襲
「……って、感じなんだけど」
「なるほど! 佐有さんは教え方上手いね」
なんとか理性が暴走することもなく、平静に勉強に打ち込めている。佐有さんに丁寧に教えてもらい、苦手な数学も何とか解けている。
「よく弟の勉強見てるから、かも」
佐有さん弟がいるのか、こんな美人で優しいお姉ちゃん居たら幸せだろうな。
「さゆゆん、弟居るの―? 何歳?」
「中3だよ」
「こらー乃恵! すぐ脱線する……」
「どうせならここらで一回休憩するか?」
壁にかけている時計を見ると勉強会が始まって既に二時間以上過ぎていた。集中していて気が付かなかった。
「さんせーい!」
俺が提案すると、待ってましたとばかりに乃恵がお菓子に飛びついた。
「ったく、調子がいいんだから」
重朝は苦笑しながら、コーラのペットボトルへと手を伸ばした。
「佐有さんも一回休憩しよう? チョコ食べる?」
「ありがとう」
期間限定と書かれたチョコを一つ手に取り渡す。頭使ったら甘いものがいいっていうしね。
ジュースやお茶を飲み、お菓子を食べながら和気あいあいと寛いでいると、コンコンとドアがノックされる。
「はーい、どうぞ」
「若者、頑張ってるー?」
おふくろだと思い気軽気に返事を返したが、開かれたドアから現れたのは望美姉ちゃんだった。
「え? 誰? すっごい美人!」
突如現れた謎の女性に乃恵が驚く。
「忠世のいとこだよ。どうもー、望美姉ちゃんお久しぶりです」
重朝は望美姉ちゃんとも知り合いだ。望美姉ちゃんも重朝のことを実の弟のように可愛がっている。むしろ俺よりも可愛がっているのではないのだろうか?
「っよ、重君。今日もイケメンだねー。忠世、ちょっといい?」
こっちこいと手招きで呼ばれ、俺は素直に席をたち望美姉ちゃんの元へと向かう。
「っで? どっちよ?」
肩に手を回し、グイっと顔を引き寄せ他の人に聞こえないよう耳打ちしてきた。
「なにが?」
主語のない言葉に俺は困惑する。
「あんたの好きな子よ! かわいい系? 美人系?」
「なっ! 何言って……!」
思ってもみなかった質問に驚きながら望美姉ちゃんをキッと睨むものの、楽しそうな笑みが崩れることはなく何の効果もない。これは答えるまで放してくれないだろう。観念して俺は大人しく質問に答えることにした。
「……かわいい系」
おそらくかわいい系が佐有さんで、美人系が乃恵のことだろう。
「真っ赤になっちゃって可愛い―!!」
素直に答えると、そのまま抱き着いてきて頬ずりしてきた。皆の見ている前でやめろ!
「家まで来てくれたってことは脈ありなんじゃない?」
こそっと耳元で言った。脈も何も二人っきりじゃないし、テスト勉強のため来ただけだ。佐有さんにそれ以上の意図はないだろう。いい加減に人の恋愛に首を突っ込むのはやめてほしい。
「っで、何しに来たの?」
用がないのならさっさと出て行ってほしいのだけど。
「えー、ちょっと冷たい! せっかく差し入れ持ってきてあげたのに。そんなこと言う子にはあげないぞー」
望美姉ちゃんの手にビニール袋が握られていることに今更ながら気が付く。その袋は最近近所に出来たシュークリーム専門店! おいしいと噂だけど俺は未だに食べたことがない。
「優しい優しい望美お姉さま。哀れな子羊にお恵みください」
恭しく
「うむ、よろしい! 大いに励めよ子羊たちよ!」
望美姉ちゃんは大仰に頷き、俺に袋を差し出す。俺が言うのもなんだがノリのいいいとこである。
望美姉ちゃんは満足したのかじゃーねと言って部屋を出て行った。騒がしかったが差し入れはとてもありがたい。
「嵐みたいな人だったね……」
「あー、なんかごめんな。びっくりしただろ?」
「ううん、なんか楽しそうでいいなって思っちゃった」
『家まで来てくれたってことは脈ありなんじゃない?』
微笑む佐有さんに望美姉ちゃんの声がリピートされる。いや、佐有さんに他意はない。脈はあったら嬉しいが、多分ない。変な勘違いしてはしてない。おふくろが言うように、重朝みたいなイケメンならいざ知らず、俺みたいな冴えないやつは佐有さんと友達になれただけで上々だ。佐有さんは高嶺の花なんだから。
「おい、忠世!」
重朝の声で我に返ると、乃恵が身を乗り出してシュークリームを強奪しようと袋に手を伸ばしていた。
「こら! 待てない子にはこれはあげません!」
「うわーん! マキマキのドケチー! 鬼畜生!」
嘘泣きする乃恵にしょうがないなあと言いながら、シュークリームを渡すと大げさなほど喜ぶ。
「はい、佐有さんもシュークリーム」
「ありがとう」
笑顔の佐有さんを見て、友達になれて本当に良かったと思った。そして、もう少しこのままでいいとも思った。
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