第14話やっぱいい奴だな、イリーネ
やる事も無くなり、少し街をぶらついていた俺達だが、イリーネが口を開いたのはそんな時だった。
「ねえ、リンドウ君。あなた何者なの? あの師匠に勝つなんてハッキリ言って信じれないわ。いくら"固有魔術"を使って無かったとはいえ師匠ってこの国でも十本の指に入るほどの実力者なのよ?」
ああ、やっぱ"固有魔術"使えたんかあの人。なんか余力残してそうだったしな。
それにしても、当然の疑問だな。一般の学生が、しかも魔素量のまったく無い奴がギルドマスターを倒したんだから。そりゃ疑問にも思う。でも俺の事が知られるわけにもいかないからな。ここは上手くはぐらかすか。
「月夜に照らされし明るい地上。その日だった、この私、竜胆夏が生まれたのは。私は生まれ落ちたその瞬間に確信した。そう、私がこの世に生まれ落ち……「リンドウ君、もっと上手く誤魔化そうとしてもらってもいいかしら? 多分真面目に誤魔化そうとしてるんでしょうけど、ふざけてるようにしか見えない」
「お、おう」
あっれ〜、今の俺の『誤魔化しレパートリー第二』の『厨二病的な感じでなんやかんや誤魔化しちゃえ』だったんだけどな〜。あれ、これ今までムッチャ通用してたんだけどなんでイリーネには効かないんだ?
まあ、成功の代償にいつも蔑んだ目で見られてたけど。
「リンドウ君、私今結構真面目に聞いてるんだけど。ただでさえ師匠に勝つなんてあり得ないのにその上魔素量も無しで師匠に勝つなんてハッキリ言ってまだ信じられないわ」
「……まあ、そうだよな。こんな異常な力を持ってんだ。…………俺が怖くなったか?」
質問をした俺の方を見ずにイリーネはハッキリと言い切る。
「冗談はやめて。まだ会ってまもないけどリンドウ君は私の中で『面白い人』として認識されてるんだから、もうそれは覆らないわよ。まあ、その『面白い人』に『物凄く強い』も入ったけどね」
そうか、イリーネは俺の強さを見ても怖がらないのか。……やっぱりいい奴だなイリーネって。
「そうか、ありがとな。それよりイリーネはこれからどうするんだ?」
「私は……ああ、そろそろ帰らないとマズイかしら」
「えっ、そうな……の……ああ、たしかに帰らないとマズそうだな」
イリーネの見てる方向を見てみると、そこには血相を変えた顔でこちらに走って来る、警備兵らしき人達がいた。そしてその真ん中に、いかにも執事な雰囲気をかもちだしている老人の姿も見える。
「もしかして今のお前って城を抜け出した状態?」
「まあ、有大抵に言うとそうね」
「イリーネ様〜!!!」
警備兵達を連れて走ってきた老人は、俺達の元に着いた途端膝に手を乗せ、肩でハアハアと息をし始めた。相当走ったんだろうな。
「何をしておられるのですか! また勝手に城を抜け出して!」
「ごめんなさい、デンネラさん。だって城ってやる事が無くて退屈だもの、たまには外に出たくもなるわ」
「でしたらそう護衛の者にお伝えしていただければよかったものを! 何故わざわざ抜け出すのですか!」
「だって言っちゃうと絶対護衛の人達がついて来るじゃない。それじゃあ自由に歩けないわ」
「だとしてもです! ご自分の立場を分かっていらっしゃるのですか!」
「はいはい、帰ればいいんでしょ。というわけでごめんなさいね、リンドウ君。私帰らなきゃいけないみたい」
「いや、それはいいよ。ただ、イリーネが城を抜け出してる感じを一切出さずに過ごせてた事に俺は疑問を持ちたいんだけど。普通ちょっとは隠れようとするもんじゃない? ありえないくらい堂々と歩いてたけど」
「ふふっ、たまにはいいじゃないっ。じゃあまた学園で会いましょ」
「……おう」
俺に別れを言い、イリーネは手を振りながら警備兵の人達に護衛されながら城に戻って行った。
出来れば俺の疑問に答えてから行って欲しかったなあ。
「ご学友の方、この度はお騒がせしてしまい申し訳ございませんでした」
そして後に残った執事の老人が俺に謝罪をする。丁寧にお辞儀までしてる始末だ。
そんな謝らなくていいのに。
「いや、全然いいっすよ。ギルドに案内されて俺も楽しめましたし」
「そうですか、それならよかったです。それにしても珍しいですね、イリーネ様が同い年の方と楽しそうにしていらっしゃるのは」
「えっ、そうなんですか?」
と、いう風に驚いてみたけどよく考えたらあいつ敬語で話してこない俺が珍しいって言ってたし姫っていう立場が友達作りを邪魔してるんだろうな。
「ええ、やはり王女という立場が人を寄せ付けないのでしょうか。普通に接していられるのは同じ『栄光の世代』ぐらいな物です」
『栄光の世代』か。詳しい事知らないしこの人に聞いてみるのもアリだな。
「……その『栄光の世代』について詳しく教えてくれませんか? 俺そこまで知らないんですよ」
「おや、『栄光の世代』をご存知無いとはそれは珍しいですね。私もイリーネ様を連れ戻した今は休みの時間ですし……いいでしょう。教えて差し上げます」
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