第12話面白い戦い方だなこの人
「"
ヘステ師匠は足裏に電気を流し、拳に電気を纏った。師匠の得意な雷魔法による徒手格闘の準備だ。つまり、ヘステ師匠は本気ということになる。リンドウ君はそれほどの相手なの?
「なるほど、面白い雷魔法の使い方ですね、初めて見ます」
「お褒めに預かり光栄だねっ!」
言葉と共に師匠は足裏に雷を流した事で可能となった高速移動でリンドウ君に近づく。
近づくと言ったがハッキリ言おう、私には予備動作さえ見えなかった。師匠の動きはそれほど速く、洗練されていたのだ。
「くっ、これを止めるか。流石だな」
しかし信じられない事が目の前に起こる。リンドウ君が師匠の雷を纏った拳を剣で受け止めたのだ。
「それはどうもっ!」
師匠の雷を纏った拳を押し返し、リンドウ君は無理矢理距離師匠に距離を取らせる。
「本気にはそれなりの礼儀を持って返さないといけませんね」
「おや、本気を出してくれるのかい?」
「それはどうでしょう。まあ、『技』は出します。反号の三、"
「っ!」
そこでまた信じられない事が起こった。リンドウ君の姿が一瞬にして消えたのだ。これには師匠もあからさまに驚いている。
これはどういう事? 魔法を使ったの? いや、冷静になって私。リンドウ君は魔法を使えない。じゃあどうやって姿を消したか。
その前にまずリンドウ君の位置を把握しないと。そういえば師匠に教えてもらったわ、こういう時は俯瞰して物事を見るべきだと。
……………………いた! ていうかいつの間に師匠の背後に!?
「くっ!」
背後に迫ったリンドウ君の気配に気付いたのだろう、師匠は先程と同じ原理の高速移動ですぐさま距離を取り、リンドウ君の一閃を避ける。
「なるほど、君も面白い技を使うようだね」
「おっ、一回で"
「いや、それは流石に無理だが、目の前にいたのに姿を消すなんて芸当見た事ないからな。実に面白い」
「ていうかヘステさんは魔剣使わないんっすね」
「まあな、私の場合はこの拳があるから接近戦は問題無いんだ。それに私は『魔剣』を出すのがどうも苦手でね。出したらそっちに意識が割かれて全力を出せなくなるんだ」
「なるほど、そういう理由ですか」
「ああ。……では、次はこちらから行かせてもらうぞ! "
師匠の周りに魔法陣が浮かび上がり、そこから無数の雷の針が出てきた。そして師匠はそのまま無数の針をリンドウ君目掛けて射出する。
「へぇ、普通に遠距離技も使えるんっすね!」
しかしリンドウ君はその針を危なげなく手に持った剣で捌いていく。そして最後の針を捌いた瞬間、師匠がすぐそばまで迫っていた。リンドウ君の死角から入った、完全に意表を突いた動きだ。そのまま師匠は雷を纏った拳をリンドウ君目掛けて放つ。
「脇がガラ空きだぞ!」
「反号の二、"
その拳をリンドウ君は高速で移動し避ける。その速さは"電光"を使った師匠に匹敵、いや上回っていた。
「なっ、速いっ!」
「これで終わりです」
その速度のままリンドウ君は師匠の背後に周り、剣を振る。
だが、ここで終わる師匠では無い。
「ソルネ流、"
リンドウ君同様師匠も高速移動系の『技』を使いリンドウ君の斬撃を間一髪で避ける。この高速移動は"
「"
リンドウ君の斬撃を避けた師匠はすぐさま体制を立て直し、リンドウ君に向け無数の雷の針と雷の光線を放った。
雷の光線を避けたリンドウ君にその後から来る雷の針を確実に当てる算段だ。
「反号の一、出力三、"
だが、そんな師匠の目論見も失敗に終わる。
リンドウ君は魔法陣モロとも師匠の魔法を切ったのだ。その影響で壁が見るに耐えない程ズタボロになったが、誰にもそんな事を気に留める余裕は無い。
…………あ、ありえない。生身の人間が魔法陣を切るなんて、そんなの、人間をやめてるとしか言い様が…………
「うっそ! リンドウ君君ほんとに人間かい!」
「ええ、人間ですとも。まあ、人より冗談が幾倍か面白いという才能はありますけどねっ」
どうやら師匠も今のリンドウ君の芸当は信じられないらしい。明らかに動揺してる。
リンドウ君が何か変な事言ってるけどそこはとりあえず無視ね。
「これは、ソルネ流の奥義で相手する他無いようだね」
えっ、奥義って師匠まさかあの技をやるつもり!? それはいくらなんでも……いや、今のリンドウ君の芸当を見せられたら奥義を出すのも頷けるか。
「へえ、ソルネ流にも奥義と呼ばれる物があるんですね。それは是非見てみたいです」
「ははっ、余裕だなリンドウ君。それにしてもソルネ流を知ってるかのような口振りだが、どこかで聞いた事でもあるのかい?」
「はい、まあ刀を使う者としてこの国にある武術系の流派は全部覚えています。その中でもソルネ流は徒手格闘最強と名高いっすから。まあ、『技』とかまでは知らなかったですけど」
「そうか、では君の目から見てソルネ流はどうだい?」
「すごくいいですね、魔法と徒手の組み合わせ方が上手い、というか面白いです。攻撃力が圧倒的ですね。それでいて逃げの技もしっかりとある。最強と呼ばれるのが頷けます」
「そうか、それほどの実力を有している君にそう言われるのは嬉しい限りだな。では見せようか、我がソルネ流の奥義を」
そう言い師匠は構える。
「それなら僕もとっておきの『技』で返します」
その師匠に応えようとリンドウ君も『技』の構えをする。
「行くぞっ、ソルネ流奥義、"
「反帝の二、"
師匠が技名を叫んだ瞬間、ドゴオオオオという音が響き渡り、師匠の姿が消える。そして師匠の代わりに雷の、とてつもなく大きなな光線がリンドウ君向かって伸びた。この光線の正体は超高速移動した師匠だ。
その威力は凄まじく、余波だけで壁は崩れ、地面が抉られ、模擬戦場が半壊してしまうほどだった。
幸い今観戦している者は皆腕の立つ人ばかりだったので怪我人などは出なかったが、気を抜けば吹き飛ばされてしまう程の威力だった。
その余波に耐えた私達は、師匠の奥義によって散った土煙が晴れるまで待った。流石にこの威力だ。リンドウ君も結界の効果によって外に出ているだろう。
「マジかリンドウ君……これを止めるか……」
土埃によって何も見えない中、聞こえてきたのは師匠の声だった。その声はひどく動揺していて、私にも声の震えが伝わって来た。
そして土煙が晴れて行く。今の交錯、そして師匠の震えた声の真相を早く知りたかった為、私を含め観客は全員が前のめりになっていた。
「嘘っ!?」
土煙が晴れるのと同時に私の目に映ったのは信じられない光景だった。ソルネ流の奥義をリンドウ君はすました顔で止めていたのだ。
まさか師匠の奥義を止められる人が私と同い年にいるなんて……
「で、どうします? 勝負ありですよね」
「ふっ、参ったよ。降参だ」
「しょ、勝負あり! ヘステギルドマスターの降参宣言により、リンドウナツの勝利!」
師匠が負けを認めた所で、グレイスさんの宣言によりリンドウ君の勝利が確定した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます