第10話ダグラス・グルの政治

「ダグラス・グルですって?」


 ああ、やっぱこの話題は不味かったな。前聞いた話によると、ダグラスが各国で対魔王の協力戦線を作るためにこの国の国王に『黙示録のラッパ吹き』っていう立場を使って無理矢理なったって聞いたけどやっぱ王族としては憤りを感じるのか?


「いい、リンドウ君……」


「は、はい」


「いくら私にも物怖じしない性格だからってダグラス様を呼び捨てにしてはダメ! あのお方は私達なんて遠く及ばない程すごい方なんだから!」


 なんか思ってた反応と違ぇ。イリーネってこんなにテンション高くなるのか。


「あれ、無理矢理王位を奪われて怒ったりとかはしてないの?」


「ええ、最初はもちろん憤りを感じたわ。今までは私達由緒正しきユグドラシル家が王としての任をまっとうしてたのに急に余所者が「俺に王をやらせろ」って言うんだもん。勝手すぎるとも思ったわ……でもね、あの方の統治はとてもすごいのよ! 考え尽くされた軍の配置、今まで敵対していた国とも手を取り合い、この国を今まで以上に豊かにする! まさに王と呼ばれるのに相応しいお方よ!」


 わ〜お、あいつムッチャ評価高ぇじゃん。あれ、でもあいつってただの熱血漢じゃなかったっけ? 国の政治とかそんな高度な事が出来るイメージ無かったんだけど……まっ、いいっか。


「じゃあダグラス様に納得してるって事でいいんだな」


「まあ、私はそうね」


 あれ、なんか引っかかりのある言い方だな。


、って事は他の人は納得してないって事か?」


「ええ、特にお父様はね」


 カップに入っているコーヒーに口をつけて、イリーネは続きを言う。


「何せ自分を王位から引き摺り落とした相手だもの。納得するはずないわ。まあでも支持率はダグラス様の方が圧倒的に高いから文句の言いようがないのよ。だから陰で家族に悪口ばっかり言ってるわ」


「ああ、なるほどな。まあ納得だわ」


 まあ、王位が直接奪われたんだから陰口くらい言っても不思議じゃねえわな。


「ところでリンドウ君、あなたこの後予定ある?」


 俺が納得してコーヒーを飲んでいると、イリーネが少し興奮気味に聞いてきた。


「いや、無ぇけどどうした?」


「実はこれから魔法師ギルドへ行って私の師匠に会うのだけれどリンドウ君もどうかなと思って」


 魔法師ギルドか、いわゆる冒険者ギルドと同じだな。そういえばこの国は俺の母国と違って冒険者っていう制度があったんだっけな。ていうか魔法師ギルドに師匠か。話を聞けば聞くほどイリーネが王女様に見えなくなってきたぞ。魔法師ギルドって野蛮なイメージあるけどそこに師匠がいて大丈夫なのか?


「俺はいいけどその師匠って人に迷惑じゃねえか?」


「大丈夫よ、そんな些細な事気にするような人じゃ無いから」


「……そうか、じゃあ行こうかな」


「よし、じゃあ決まりね。今から行きましょっ」


「ああ」


 そうして俺達は店を出て、歩いて十分程先にある魔法師ギルド本部へ向かった。











 魔法師ギルド本部は、本部と言うだけあってとても立派な建物だった。周りの建物は普通の一軒家や店ばかりのためかなり浮いてる。イリーネの話によると闘技場とかあるらしい。


 俺達が中に入ると、魔法師らしき大人達がイリーネを見てざわつき始める。そりゃそうだ、だって王女様だもん。


 俺はその騒めきが俺に向けられてるかのような気分を作り、胸を張りながら堂々と歩く。正体を隠してる俺にとっては騒めかれるのは憧れだからな、ここで存分に味わっておかないともったいない。


「受付さん、ヘステ師匠はいらっしゃるかしら?」


 イリーネが座っている受付嬢に声をかけると、受付嬢は作業を止め、俺達の方を見上げた。


「あっ、イリーネ様。ようこそおいでくださいました。ヘステギルドマスターですね、少々お待ち下さい」


 そう言い、受付嬢は裏へ走って行った。ヘステが今空いてるか確認しに行ったのだろう。


「イリーネの師匠のヘステさんってギルドマスターだったんだな」


「ええ、そうよ。ヘステ師匠は魔法師ギルド最強の魔法師なのよ。『ラーンベルト学園』の先生でも敵う人なんて学園長くらいなんだから」


 てことはステファニー先生よりも上か。ステファニー先生もそれなりの実力だったと思うけどやっぱ上はいるもんだな〜。そういえばステファニー先生と言えば、


「そういえばイリーネは実技試験でステファニー先生に勝ったのか?」


「ええ、勝ったわ。まあでもギリギリだったけど」


「へえ、そうなのか」


 ああ、俺以外にも勝った人はちゃんといるのか。まあでもイリーネぐらいじゃないか? 『栄光の世代』って呼ばれてるフィンラルも得意の炎魔法じゃ威力がステファニー先生に及ばなかったし。


「リンドウ君はどうだったの?」


「ああ、俺は「待たせたなイリーネ」


 俺が実技試験の結果を言おうとすると、俺達の後ろから少し低めの女性の声が聞こえてきた。声のした方を見てみると、そこには赤い長髪の女性が立っていた。歳はそこまで行っていないように見える。


「お久しぶりです、ヘステ師匠」


「何か会話中だったが邪魔してしまったかな?」


「ああ、気にしなくていいっすよ。他愛の無い話だったんで」


 申し訳なさそうにするヘステに俺は気にしないよう伝える。


「そうか、それならよかった。おや、その刀……ああ、そうかなるほどね。イリーネ、面白い子を連れてきたね」


「面白い子?」


「君があのステファニーに圧勝したっていう学生だね。たしか名前はリンドウナツとか言ったか」


「あ、圧勝!?」


 ヘステの言葉にイリーネは大声で驚いた。『栄光の世代』と呼ばれている自分でもギリギリだったのだ。そりゃ信じられないだろ。ていうか誰だよ噂にした奴。ほんと迷惑だなあ。


 まあ、注目されるから俺としては嬉しいんですけどね!


「それ、どこで聞いたんっすか? 目撃者が当事者を抜くと一人だけだったはずなんですけど」


「ははっ、なにレグリア先生から聞いたまでの事だよ。そうだリンドウ君! せっかくなんだ、私と模擬戦してみないかね?」


 レグリアの奴ギルドマスターに先生って呼ばれてんのか、改めて思うけど案外すごいなあいつ。


 ていうか、そう来ましたか。ギルドマスターとの模擬戦、勝てば魔術以外に興味を持ってくれる人も増えるかもしれないな。


「……分かりました、受けます」


「ははっ、そうこなくちゃな! 観客はいない方がいいか?」


「いえ、いてもらいましょう」


「そうだな、それがいい! おいグレイス、模擬戦場は空いてるか! 今からこの子と模擬戦をする!」


「えっ、ギルドマスターが模擬戦!? わ、分かりました! 模擬戦場は空いてるのでご心配なさらず使ってください!」


 俺に観客の確認を取ると、ヘステさんは近くにいた男性職員に大声で模擬戦をすると宣言した。

報告を受けた男性職員はあからさまに驚いている様子だ。


「さあリンドウ君、模擬戦場へ移動しようではないか!」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る