第5話やっぱその固定概念壊さねえとな
「ええ、続いては実技試験です。この試験では、『ラーンベルト学園』の教師と一対一で模擬戦をしてもらいます。勝敗よりも内容を重視しますので、負けたからと言って落ち込まないように。寧ろ教師を相手にしているのですから負けて当然です。なお、怪我等に関しましては、特別な結界の中で行いますのでご心配なく。どちらかが大きなダメージを負った際にその者を強制的に結界の外へ転移させ、瞬時に回復させるようになっているので、怪我を負う事はございません。さらにこの試験は教師の手の内を後の人に見せないように、他の受験者が受けてる際は閲覧禁止とします。以上です、ではまず初めの受験者を呼びますーーー」
なるほどな、便利な物が出来たものだな。いくら模擬戦をしてもその後に怪我は残らない、か。これがあるから今の若者は昔に比べてレベルが高いんだな。まあ、俺も若者だけど。いや〜、それにしても教師とやってる間は他の受験生に見られない、か。自分の力を誇示しときたい俺にとってこれは痛いな〜。まあいいや、しばらく大人しく待っとくか。
いや、さっきから実技試験が終わった受験生出てくるけど皆落ち込みすぎじゃね? そんなに上手く行かなかったのか?
「続いて、リンドウナツ!」
「はい!」
そうこう考えていたら、どうやら俺の番が来たらしい。まあ、教師には勝てると思うけど圧倒的に勝たなきゃ意味ないからな。そこら辺工夫しないと。
通された部屋に入ると、その部屋はとても大きかった。一般の体育館の三倍くらいの広さで、中央には模擬戦を行いそうな場所がある、おそらく実技の授業で使うであろう部屋、って言うより体育館だ。
その中央にメガネをかけた厳しそうな女性が立っていて、脇には最初全体に説明を行った、オーズスタンがいた。
「次は……ああ、あなたが魔素量ゼロだった受験生ね」
「ああ、まあ、そうっすね」
教師陣には有名になっているのだろうか、名前と顔だけで俺が魔素量ゼロって分かるなんてそれしか考えられないよな。
やったっ、ちょっとした有名人だ俺。
「あなたはこの試験を受けなくてもいいわ。どうせ結果は分かりきってるし」
「えっ?」
な、なんだと。こいつ今なんて言いやがった……試験を受けなくていい。それってつまり、つまり!
「よっしゃああああ! 実技試験満点だあああ!」
「なっ、違います! むしろ逆です!」
両手を上げて喜ぶ俺に試験官は何か言ってるようだが、気に留めてる暇はない。何せ俺はこの喜びを噛みしめなくてはならないのだから。
「よっし! 筆記試験も多分満点なんだ! こりゃ合格確実だろ! 一時はどうなるかと思ったけど……グスッ、本当に……よかった……グスッ」
「ありゃ、随分面白い坊主だなあれ。どうすんだ、ステファニー嬢。お嬢の意図伝わってないらしいぞ。まあ、そもそも俺はお嬢の意見に反対なんだがな」
涙しながら喜ぶ俺を見てオーズスタンが何か言うが、俺はまったく気に留めず喜びを引き続き噛み締める。
『静かにしなさいリンドウナツ!』
喜びを噛みしめていると、普通では人間が出せないような音量の声を女性の試験官が発した。恐らく風魔法の応用だろうな。それは流石に気に留めざるをえなかった俺は静かにして、試験官の方に耳を傾ける。
「あなたは合格なんかではありません。むしろ逆です。魔素量の無いあなたは実技試験をするまでも無くゼロ点です」
「はあ!? そうなら早くそう言ってくださいよ! ぬか喜びしちまったじゃないっすか。どうするんっすか俺の気分! 楽園から一気に地獄へ急降下っすよ!」
「あなたの気分なんて知りません! そもそもあなたが私の話をまともに聞かなかったのが悪いんでしょう! あなたは何があろうと不合格です、以上!」
くそっ、ぬか喜びさせやがって……あれ、ちょっと待てよ? ゼロ点? えっ、実技が? いやいやいや、それは困る!
「ちょっと待ってください! 実技がゼロ点ってどういうことっすか!」
「はあ…………あなた、魔法師として一番必要なのはなにか分かりますか?」
ふっ、愚問を。そんな物決まってるじゃないか。俺は胸に両手を当てながら慈愛の心を持って言い放つ。
「……そんなのもちろん、愛情です」
「違います! あなたは私をなめているのですか!」
「はあ!? 舐める!? 生憎僕には女性をペロペロする趣味はありません!」
この人は俺を変態に仕立て上げたいのか!? 女性を舐める趣味なんて持ってねえぞ!
「そういう意味じゃありません! なに定番のボケをしているんですか! いいですか、魔法師にとって一番大事な物は魔素量です。魔素量の無い人間は戦闘において何の役にも立たないのです。なので答えは決して愛情などではありません!」
「で、ですが愛情も大切です! 昔お爺ちゃんに教えてもらいました! 愛情を持たない人間はただのクズだと!」
「あなたの言ってること人として大切な物です! 魔法師として大切な物とは違います!」
「……な、なるほど」
確かにあの試験官の言う通りだ。爺ちゃんが言ってたのはあくまで人として大切な事、魔法師として大切な事とは関係無い。うん、たしかにこれは俺が間違えてたな。
「ハハハハハハハッ」
俺が試験官の女性の言葉に納得していると、横からオーズスタンの笑い声が聞こえた。
「いや〜、いいね坊主。面白い。でも、ステファニー嬢の言ってる事は的を得てるぜ。魔法師が魔法を使うには絶対に魔素量が必要になってくる。でもお前さんにはそれが無い。魔法の使えない状態でどうやってステファニー嬢と戦うつもりだったんだ?」
「それは勿論この刀で」
そう言うと、オーズスタンは特に馬鹿にせず言葉を続ける。
「近距離戦ならあわよくばって思ってるかもしれないが、普通の剣よりも遥かに強度が高い魔素で作った魔剣ってのもあるんだ。だから近距離戦でもステファニー嬢には敵わねえと思うぞ」
「それでも俺は勝てると思います」
「ほう、勝てると来たか。やっぱり面白いな坊主。どうだステファニー嬢、一回その坊主とやってみねえか?」
「私がこんな劣等生と模擬戦を? 冗談じゃありません。魔素量のまったく無いようなクズとやるなんて嫌ですよ、私」
「……クズ?」
「ええ、そうです。魔素量の無い者は社会の役に立たないクズ、これは当然でしょう?」
なるほど、やっぱりこいつもそういう類か。まあ元より覚悟してたけどいざこういう奴を目の当たりにするとキツイな。よし、一回お灸を据えてやるか。
「なあ、たしかステファニーとか言ったか。あんた、やっぱ俺と模擬戦しろよ」
「はい? ですから私はしないと言ったではありません……か……」
俺が殺気をステファニーに向けると、ステファニーは動きを止め、少し怯えたようにこっちを見ている。
(ほう、あの坊主。あの歳であんな殺気が出せるのか。しかもまだ本気じゃ無い)
「いいんじゃねえか、お嬢。こんな殺気を出せる奴なんだ。戦って損は無いと思うぜ」
「……そうですね、分かりました。今回だけ仕方なく模擬戦をやってあげましょう」
俺の殺気に当てられて少し気が変わったのか、ステファニーは俺との模擬戦を受けるという判断をした。
「ありがとうございます」
まあ、こういう魔素量重視の奴が多いから俺はこの学園に入ろうと思ったんだよな。その固定概念を自分の手で壊すために。
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