第3話魔素量試験
イリーネと夏が正門で話した後、ラーンベルト学園の中に入った夏が設置された案内に従って向かった先は大きなホールだった。元々が学外の人も座る事が想定されて作られているのか、全校生徒の10倍以上はいるはずの受験生が全員座っても未だに空席が目立つほどの大きさがあった。
それほどまでに大きく、装飾品なども豪勢に飾られているそのホールの席に夏やイリーネを含めたすべての受験生が着くと、全員の視線の先にあったステージの上に、一人の男が現れた。
その男の顎辺りに無精髭を生やしており、髪の毛もあまり整えられておらずいかにもやる気の無さそうな見た目をしていた。
「ええと、試験官のオーズスタンだ。よろしく頼む」
その男はステージの中央に立った後、受験生全体を見渡してからそう簡単に自己紹介をし、早速入学試験についての説明を始める。
「試験の内容は主に三つだ。筆記試験、魔素量試験、そして実技試験だ。まあ、筆記試験と実技試験はお飾りみたいな物だな。ぶっちゃけ筆記試験に関しては魔法師は実力さえあればいいしな、頭なんてそこまで良くなくていいんだよ。で、実技試験はだな、お前らの中には実技の経験無いやつもそれなりにいるだろうし、試験を公平に行う以上やった事が無い奴がいる中で入学を決めるってのもどうかって話でな。だから大体魔法師っていうのは魔素量で大体の実力が決まるし、今回の試験では筆記と実技に比べて魔素量の配点を物凄く高くしてる。まあ、お飾りとはいえ二つ共しっかりとした試験だから魔素量がダメでも筆記と実技がよけりゃ何とか受かるってこともあるし、どの試験も真面目にやる事をおススメする。そんじゃあまずは筆記試験からだ、今からそれぞれが受験する教室を張り出すからそこで受験番号見てから移動してくれ」
そうして説明を終えたオーズスタンはステージの端へと姿を消していった。そんなオーズスタンの言葉を聞いた受験生はオーズスタンの姿が見えなくなった後、次々と各々の教室を確認して割り当てられた教室に緊張した面持ちで向かっていき、夏も同じように指定された教室で他の受験生と同じように筆記試験を受けた。
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筆記試験を受け終わった俺は、試験を受けていた教室で軽い昼ご飯を取っていた。ちなみに今食べているのは味付けがシンプルな塩おにぎりだ。
そしてはっきり言う、いくらお飾りとはいえあの内容はあまりにも簡単すぎだろ! どれも魔法や生活に関する常識問題ばかりで、これで点数を落とす奴がいるのかってぐらいじゃないか。なんだよ『この国の通貨は?』って問題、そんなの常識問題にも程があるだろ。五歳児でも分かるぞ! お飾りはお飾りでももっと普通の問題出せよ! 正直俺は魔素量試験で高得点って言うか得点する事自体が無理だからこの試験で差をつけようと思ったのに、これじゃ差つかねえじゃねえか!
誰だよ試験作った奴、ぶん殴ってやりたい!
………………ふぅ、いやいや落ち着け落ち着け。焦るな、焦っちゃダメだ。こういう時こそ冷静にならないと。
…………や、やばい。冷静になると改めて自分の置かれてる状況のヤバさに気付いてしまう。くっ、せめて実技試験で他の奴等と大差を付けないと……このままじゃそもそも入学が出来ねぇ。
「皆様筆記試験お疲れ様でした、続いては魔素量試験です。各自会場へ移動してください」
そうこう考えていると、この教室の試験官だった女性教員が次の試験の案内を始めた。
はあ、まあ嘆いてもしょうがないか。どうせ魔素量試験は0点だし、何とか実技試験でがんばろう。
そう思いながら、俺は次の会場へと向かった。
どうやら次の魔素量試験は、外にある大きなグラウンドで行われるみたいだ。先ほどの試験官とはまた別の魔素量試験を担当している試験官の話によると、この試験ではいくつかのグループに分けられ、魔法を放てば魔素量が分かる装置に順番に魔法を放つことによってそれぞれの魔素量を測るらしい。先ほどの筆記試験とは違い大勢の前で自分の試験の結果が分かってしまうから、魔素量が無い人にとっては公開処刑にもなりそうな試験だな。
ちなみに魔素量というのは簡単に言えば、魔法を放つ為に必要なエネルギーの事だ。魔素量が多ければ多いほど強い魔法が撃てて、逆に少なければ少ないほど弱い魔法しか撃てなくなる。これは人によって量が異なっており、努力次第で上がる事もあるが、ほとんどは生まれ持った才能によって決まる物である。
あと今まで何回か試したから分かるが、俺の魔素量は驚異の0である今まで一回も魔法を打てた試しがない。だから今回の試験で俺が0点を取るのはほぼほぼ確定なのだ。
案内の通りに進んだ先には自分が想像していたよりも3倍ほど大きいグラウンドがあった。正直一つの学園にこのサイズのグラウンドが一つでもあれば十分なほどの大きさだが、仮に他のグループでも同じような試験会場が用意されていると考えると、単純計算でこのサイズのグラウンドが後九つあるという事になる。それだけでラーンベルト学園の規模がどれほど大きいかが伺える。
「はあ、せめて実技は筆記試験みたいな感じじゃなきゃいいな〜」
そう軽く溢しながら、俺は自分の受験番号と張り出された紙を見合わせて十個用意されたグループのうちの一つ、Gグループの集合場所へと向かった。
「ではこれよりGグループの魔素量試験を始めます! この試験は簡単よ、あの測定装置に向かって自分の最大出力の魔法を放てばいい。私が一人ずつ順番に名前を呼んでいくので呼ばれたモ者は前に出てくるように! ではまず最初はフィンラル・アークンハイド!」
「はい!」
Gグループの女性試験官に最初に呼ばれたのは、赤髪でツンツン頭の硬派な顔をしたナイスガイな少年だった。筋肉隆々とまでは行かないが、服の外から見ても分かる程がっちりした身体を持っていて日ごろから鍛えてるのが伺える。そんな彼が呼ばれた途端、周りの受験生たち一斉にが騒めき始めた。
「あれが『栄光の世代』の一人、"灼熱のフィンラル"か」
「ああ、得意な魔法は炎魔法、俺らの世代では炎魔法に置いて他の追随を許さないほどの実力者」
「やっぱり女子にすげぇモテるらしいぜ」
へぇ、あいつってモテるのか…………いや、気にするとこそこじゃねえか。『栄光の世代』って、たしかさっきイリーネもそんな事言われてたな。じゃあやっぱりあいつもかなり強いってことか。
いや、今はとりあえずそんな事考えなくていいな。ただでさえ入学できるかどうかの瀬戸際なんだから、よく知りもしない奴の事を気にしてる場合じゃない。というかするべきじゃない。
……でもなあ、この試験に関してはもうやりようがないんだよなぁ。
「ではフィンラル君、始めてください」
「分かりました」
どうやら俺がそうこう考えているうちに準備が整っていたらしく、フィンラルが試験官の合図に従って50m程先にある円状の的に向かって魔法を撃ち始める。そんな彼の様子を同じGグループの受験生たちは目を輝かせるように見ていた。
「"
《ゴオオオオオオ》
「「「「おおーーーーー!!!」」」」
そしてフィンラルが手の平に描いた魔法陣から的に炎の魔法を放つと、受験生たちはその的の方を見て盛大な歓声を挙げた。この試験でどうやって魔素量を把握するのか説明が無かったが、どうやら魔法を放つ的の上に計測した値が表示されるシステムらしい。他のみんなにつられるように俺も的の上の数値を見てみると、そこには2169という数字が書かれていた。
「に、二千超え!? 毎年千を超える人が一人現れるかどうかってぐらいなのに! すげぇ! 流石は『栄光の世代』だ!」
同じ受験生の一人がそう言ってるのが聞こえて来た。今まで0しか出した事無いから分からないけど二千超えって相当すごいんだな。
「ふむ、流石は十年に一人の逸材と言われているだけあるわねフィンラル・アークンハイド。アークンハイド家の次期当主に相応しい魔素量だったわ」
「ありがとうございます」
どうやら試験官の反応も見てみると本当に凄いらしい。十年に一人の逸材とか言われてるし。
それにしても整った顔してんな。なんとなく性格もよさそうだし。あの魔素量でこの顔だから相当モテるんだろうな。なんかモテるオーラがビンビン出てる気がするもん。モテすぎると逆に苦労するって聞いた事あるけどほんとにしてんのかな。
俺がそんな無駄な思考にふけっている間も、魔素量試験は着々と進んでいた。数値はバラバラだが、平均して400って言った所か。どうやら今年は例年よりも平均が高いらしく、試験管が少し驚いているように見える。
そしてそうこうしているうちに俺の番が来た。
「次! リンドウナツ!」
「は、はい!」
やべぇ、もう俺の番だよ。どうする、何とかして誤魔化すか?
「ではあなたもあの装置に向かって魔法を撃ってください」
「いや、あの〜、それがですね」
「ん? どうしたの?」
いや、誤魔化せないな。方法が思いつかない。しょうがない、ここは正直に言っとくか。
「俺、魔法が全然使えないんですよ」
「「「「は?」」」」
俺の言葉を聞いた試験官や受験生は全員意味が分からないといった顔をしている。そりゃそうだろ、魔法師養成学校なのに魔法が使えないなんておかしすぎる。俺でも信じられないぞ。
「いや、ですからね。俺魔法が使えないんですよ」
「それは本気で言ってるんですか?」
「まあ、はい」
「「「「…………ハハハハハハハッ!!!」」」」
しばらくの静寂の後、とてつもない笑い声がそこら中から聞こえて来た。
「なんだあいつ! 魔法が使えないらしいぞ!」
「剣なんか持ってるしほんと何しにここに来たんだよ!」
「ははっ、こりゃ傑作だ! 魔法が使えない奴なんて初めて見たぞ!」
いや、まあ気持ちは分かる。時代遅れな刀なんか持ってるしその上このご時世なのに魔法が使えないと来た。そりゃ笑い者だ。
ただ、笑いすぎじゃね? 一瞬俺、自分が無意識のうちにギャグを言ってそれが大ウケしたんじゃないかと本気で喜んだぞ。くそっ、騙しやがったな。一瞬でも喜んだこの俺の純情を返しやがれ!
「静かにしろ!」
「「「「っ!」」」」
俺の純粋な心を弄び、騙した奴等を心の中で責めていると、笑い声をかき消すような声が聞こえて来た。その声の発声主は試験官では無い。先程2169という信じられない魔素量を叩き出したフィンラル・アークンハイドだ。
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