第34話 小泉進次郎氏による「解雇規制」の緩和論、何が問題なのか?

今月6日、小泉進次郎氏による自民党総裁選への出馬会見の中で解雇規制緩和への意欲が示され大きな波紋を呼んでいる。出馬会見では、労働法上求められている解雇規制の見直しを図ると同時に、企業によるリスキリングと転職支援を義務付けることで、成長分野への移動を促進する制度を作ることが表明された。

   ーーーーー今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者ーーーーー



 この緩和論、問題だらけと個人的には思っている。この記事にも書いてあったが、そもそも、「解雇規制」を緩和しても日本経済に活力が復活するとは思えないからだ。会社の人事の新陳代謝を活性化させても、日本経済に及ぼす影響は微々たるものだろう。解雇された人は受け皿を必要とする。当然、受け皿となる会社は人件費が増える。解雇規制を緩和した結果、不要とされた人が他の会社で待遇がさほど変わらない状況で再就職できるのだろうか。解雇規制を緩和しても、高いスキルを持つ労働者が増えるとは思えないし、高いスキルを持っている労働者=日本経済活性化する労働者ではない。ITスキルに長けているものなら起業という方法もあるが、工学系の研究職の労働者、製造業の熟練作業者などは簡単に企業というわけにもいかない。小泉氏は、こう言った労働者のことは考えていないようにも感じる。むしろ今からはIT、デジタル産業一択とでも考えているのだろう。だとすると大問題だ。

 今現在、正規と非正規の格差問題がある。この状況下で解雇規制を緩和したらより非正規の職員が増え、日本経済が混沌とするのではないだろうか。例えば50歳越えた工場労働者が会社を解雇されると、年齢制限などで次はなかなか見つからない。日本の製造業は、今までカイゼンを繰り返してきた結果、ものつくり大国日本を作ったと思っている。この発想が時代遅れと言う人もいるだろう。だが世界のトヨタ自動車は現場のカイゼンの積み重ねで強くなった。他企業もそれに倣った結果だと思う。

 なぜここでカイゼンを持ち出したかというと、カイゼンもチームで行うが、カイゼンのネタは誰かが考える。別にデスクワークの技術者、経営層の幹部が考えてくれるわけではない。現場の労働者が日々の作業からネタを捻り出す。何気ないアイデアが大きなカイゼンに繋がることもある。しかし解雇規制緩和が行われると、労働者の仕事に対する熱量が逆に低下することも考えられる。つまりアイデアが出なくなり、あるいは積極的にアイデアを出さなくなり生産活動が停滞する可能性があると個人的には考えている。

 解雇規制緩和となり、企業が従業員を解雇しやすくなったとしても問題がある。それは結局、「解雇する、しないの査定は公平か」と言う問題だ。ボーナス支給にだって査定がある。有能だが鼻につくから解雇対象とされる労働者だって発生するはず。スキルや努力、貢献に見合った評価制度、昇給制度の不備こそが、労働者の活力を奪っているのだ。公平な査定基準がないまま、解雇規制を緩和すると解雇された労働者がすぐに次の職につけないと言う事態が増えると推察する。こうなると余計に日本経済が低迷する。当然日本の税収(所得税)も減る。結果社会保障費などに影響を及ぼすと考えられる。

 解雇規制緩和とか、国会議員や起業して成功した会社社長だけが喜ぶ政策と個人的には考えている。もしくは、経営に困っている企業の社長とか。でも、解雇規制緩和に喜ぶと言うことは、その社長は経営能力不足だってことだ。経営者としての危機能力があれば、積極的に事業撤退、縮小や方針転換、工場、事業所閉鎖をしてリスク回避するはず。イケイケで事業展開して、事業失敗してその尻拭いを解雇規制を利用して労働者に負わせるのは、経営者失格だと個人的には考えている。リスク回避できている社長は、簡単に解雇規制を使って労働者解雇しない。

 大事なのは、国による年齢問わず高度な公共職業訓練を行なって、人材の底上げなのではないだろうか。そうは思わないかね、キミ。

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