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殺すことが、できなかった。
殺し屋としては、失敗。殺しそこねた。
一晩中、触るだけ俺の身体を触って。最終的に抱きつくのを習得し、俺にくっついて安心したように眠っていた、彼女の寝顔を見て。殺すのが、惜しくなってしまった。
好きになりやすいタイプだから。しかたない。好きになったのに、殺さなかったのは。はじめてかもしれない。
結局のところ。依頼から逃げて終わり。金は置いてきた。お詫びのしるしに、ごはんも何日分か作って冷蔵庫に入れておいた。お風呂も沸かした。
「何やってたんだろうな、俺」
殺し屋のくせに。アイドルと同棲してお世話してた。
「ばかみたいだ」
次の依頼が来る前に。メールフォームとか、お問い合わせ欄とか、変えておくか。彼女から連絡が来るといけない。
「面倒だなあ」
警察からの依頼もメールフォームだし。どうしようもなくて、ただ、なんとなく駅前を歩く。
彼女。
俺抜きで、これから先。生きていけるのだろうか。もしかしたら、簡単に死ぬかもしれない。それはそれで、かなしいが、仕方のないことだった。
「仕方ない」
そう。仕方のないこと。
駅前。
ビルの壁に貼りついている、大きめの電光掲示板。急に、アナウンサーが慌てだした。ニュースが入ったらしい。
彼女。
彼女の名前が、早口で言われて。
アイドルを電撃引退というテロップが、出てきた。
「そうか」
彼女は、俺を通して、恋の味を知った。生きることを知った。死人に務まるアイドルという仕事も、生者になれば、荷が重いのかもしれない。
アイドルとしての彼女は、自分が殺した。それだけで、とりあえず良しとしよう。
そう、頭で考えても。気分は晴れなかった。
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