零日目・第三章『伝説の勇者』

 ノーアイズは背にいる勇者たちを引き連れ、目の前にいる驚異、魔王へと歩み寄っていた。


「既に建物はほとんどなくなっているか。それに、」


 ノーアイズは何か肉感のあるものを踏んだ。それを避けると、今度は滑りやすい液体のようなものを踏んだ。


「そうか。多くの命が……魔王に奪われたか。にしても、まさか昨日捕らえたモンスターは、魔王だったとはな」

「ノーアイズ様。リーフィアがこちらへ来ます」

「ほう。生きていたか」


 ノーアイズが向く方向には、リーフィアが片腕を押さえつつこちらへと歩いていた。リーフィアは血を流しつつも、足を引きずり歩いている。

 ノーアイズは足音や息だけでリーフィアの容態を悟った。


「リーフィア。まだ戦えるか?」

「ああ。あんな化け物、私一人でも十分だよ」


 そう言うと、リーフィアは強がって剣を抜いた。そして全身に風を纏わせた。


「強がるなよ」

「強がっているんじゃない。元から強いだけだ」


 ノーアイズが足を進めると同時、重傷を負っているはずのリーフィアも走り出す。


「ノーアイズ。手柄だけとっていこうというつもりか?」

「何を言っている?お前じゃ手柄をあげられそうにないから、手伝ってやろうとしただけだよ」


 ノーアイズは魔王が放ったレーザーを二本の剣で受け流し、そのまま二本の剣を魔王の眼光へと投げた。剣は眼球を突き抜け、血が滝のように溢れ出す。

 ノーアイズは両腕を広げると、剣を二本錬成し、魔王の頭部にリーフィアとともに降りた。


「リーフィア。お前が殺れ」

「はいはい」


 リーフィアは剣を振り上げた。だが次の瞬間、魔王の体から十名のモンスターが、いや、魔王の子供、いわば魔族が十名生まれた。


「ノーアイズ。これは聞いていなかったのですが、どういうことだ?」

「そういえば伝説に記されていたな。魔王は十の心臓を有し、その心臓を使い分裂できると」

「なるほど。では今の魔王には心臓がない。つまり殺すまでもないということだな」

「違うな。魔王の体のどこかには核がある。それさえ見つけて破壊すれば、たいまち魔王は色々と保てなくなる」

「じゃあ魔王は心臓がなくとも、実際は良いってことですか。それはひどく面倒くさいですね」


 そう言いつつ、リーフィアは魔王の体から出てきた十名の魔族へと斬りかかる。だが生まれたばかりというのに、一人の魔族は獄炎を放った。


「何!?」


 リーフィアは咄嗟に風でガードするも、火炎の重さに魔王の体から落ちていく。


「リーフィア。何て様だ?」

「ノーアイズ。君こそ雷を受けて落ちているじゃないか」


 二人は思わず笑みをこぼした。


「勇者たち。今ここで、我らは伝説の勇者となろう」


 ノーアイズが剣を天へとかざすと、勇者たちは魔王の前に現れた。


「ノーアイズ。私は細かいことは嫌いですが、共に戦ってあげましょう」


 そう言って現れたのは、槍を持った勇者、ロンギヌスであった。彼女は槍を振るい、ノーアイズの前に立っている。


「ロンギヌス。先陣は私が、」

「何を言っていますか?先陣は当然私ですよ」


 ロンギヌスとノーアイズはどちらが先頭かでもめていた。

 だがそこへ、さらに一人の勇者が二人の前に現れた。


「お前ら。揉めている暇があると思うか?」

「「アンヌ!先陣を奪いやがって」」


 二人の息の合った声かけに、アンヌはあきれてため息を吐いた。


「今くらいは仲良くしてくれ」


 そう言うと、アンヌは背中に装備していたスナイパーライフルを構える。


「さてと、始めようぜ。魔王討伐」


 アンヌが魔王の頭部へ銃口を向けると、すかさず十名の魔族が降りてきた。ノーアイズとリーフィアが魔族を迎え撃とうとするも、ロンギヌスは槍で二人の行く手を塞ぐ。


「なあ。雑魚は私一人で十分だ」

「何を言うか?相手は魔族だ。勇者一人では心細い。私も協力しよう」


 そう言い、ノーアイズはロンギヌスの横に並んだ。


「ノーアイズ。さては、私に惚れているのか?」

「お前、死にたいようだな」

「いや。嘘嘘」


 即刻前言撤回したロンギヌスは槍を構え、十名の魔族を前に余裕の笑みをこぼしている。


「リーフィア、アンヌ。お前たち二人は魔王討伐に向かってください。今の魔王ならば、大人数で攻めれば倒せるはずです」

「ああ。分かった」


 リーフィアは空中へと飛散し、後続の勇者たちへと言った。


「お前ら。魔王を討伐するため、私についてこい。ついてこなかったら、殺しちゃうぞ」


 そう言って、リーフィアは風を纏って魔王へと飛び込んだ。

 勇者たちは続々と魔王を倒すために足を進める。そこにいる勇者は百ほど。


「魔王、この世界は、私たちのものだ」

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