四十八日目『黒幕』
放たれた銃弾。
ロンギヌスは槍を回転させ、全ての弾丸を弾いてみせた。とは言っても、弾かれた弾丸の一つが妙な軌道を描き、ロンギヌスの右足を貫いた。
「ロンギヌス。勇者を護るのも良いがな、自分の身体を心配したほうが良いのではなかったのか?」
そう言ったのは玉座に座っているノヴァであった。
彼の前方には、銃を構えた戦士が四十人ほど待機していた。彼らの銃口からは煙がわき出ていた。
「ノヴァ。これはどういうつもりだ?」
「どういうつもり?私は君たちの味方であるとは言ったことはないぞ。ただ君たちにここで休めと言っただけだよ」
ノヴァは黒幕のような笑みを浮かべて膝をつくロンギヌスを見下していた。
「ロンギヌス。終わってくれないか?」
ノヴァは腕を振り上げた。
その瞬間、戦士たちは一斉に銃を構えた。銃口をロンギヌスに向け、狙いを定めている。
「ロンギヌス。最後に言い遺したことはないか?」
「最後に言っておきたいことがあったんだ。ノヴァ、お前程度じゃ私の命は奪えない。だってお前、弱者だろ」
そう微笑むと、ノヴァは微笑み返した。
「じゃあ死ね」
ノヴァは手を振り下ろそうとしたーーその瞬間。
ロンギヌスの背後にいた一人の男が、ロンギヌスの背中に剣を突き刺していた。ロンギヌスは口から血を吐きながら倒れ、後ろにいる者を覗いた。
「誰だ……お前!?」
「私はホムラ。魔王に従える十人の一人だ」
そう言い、ホムラは剣を引き抜いた。
「こんな時に……どうしてお前が……しかも実体を有して」
「偶然にも見つけたんだよ。いや、ラファエルが私の実体が封印されている場所を教えてくれてな、お陰で元の体に戻れたよ。あ、そういえばアリアンヌとかいう女の体を焼却するのを忘れていた」
「焼却か……。物騒だな」
「もうすぐ死ぬお前は喋るな。なあ、この国の玉座に座るノヴァとやら。私と協力をしないか?」
ホムラは無防備にも手を広げてそう言った。だがしかし、ノヴァはそれに気に入らなかった。
一人の天使がホムラの背後に降り立ち、次の瞬間、ホムラを氷の中に閉じ込めた。
「アイスエル。良くやったな」
「ですがよろしかったのですか?彼はなかなかの強者でしたよ」
「構わないさ。私は世界を滅ぼした魔族、そして世界には必要とされていない勇者を生かすつもりはないのだから」
ノヴァの言葉を聞くや、ロンギヌスは静かに笑い始めた。
「ロンギヌス。何がおかしい?」
「魔族を殲滅する、か。お前にそれができるか?勇者がいない世界で、お前はそれを成すことができるか?」
「そのためにこの国を支配した」
「能力でか?」
「能力?残念だが俺は能力を持っていない」
「嘘をつくなよ。お前は能力を有しているだろ。人を操る、という使いやすい能力が」
「何を言っている?私は能力を持っていないと言っているだろ」
頑固として能力を持っていないというノヴァ。だがしかし、ロンギヌスは見抜いていた。その先の全てを。
「私の能力はな、あらゆる全てを理解することができる能力だ。その上で言おう。ノヴァ、お前の中にいる者に告げよう。この国を支配するのは止めろ。この世界はお前のおもちゃではない」
「今さら何を言うかと思えば、そんなこと……」
笑みをこぼすノヴァ。だがその背後から、突如槍が降ってきた。その槍はノヴァの心臓を貫いた。
血は出ていない。だが彼の体から出たものは一つある。
「ようやく出てきたか。ルナ王国国王様。いや、魔王だったか」
ノヴァの体から出た実体のない者。
彼はおぞましい雰囲気を放ち、見る者全てを震撼させる。彼の名を、魔王。
「ようやく気づいたか。黒幕は私だよ」
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