勇者機関

三十日目『勇者機関の真実』

「Mr.リーフィア。いや、ドラキュス。なぜお前が生きている」

「そんなの決まっているではありませんか。私を殺しに来たこもミーイラを、私が返り討ちにしたからですよ」


 そう言い、リーフィアは全身に包帯を巻いた男を棺桶の前に転がした。


「何!?」

「我々は既に死んでいる。だからこそ、この体で生きてきた私の方がこのミーイラよりは強いんですよ」


 リーフィアは剣を抜くと、その包帯男の心臓部へと剣を突き刺す。


「何をする!?まだその器は」

「もう勇者機関は終わりだ。いや、違うか。勇者機関を裏で牛耳っていたのは勇者ではなかった。勇者機関を牛耳っていたのはかつて魔王に従えていた十名の魔族」

「ドラキュス。貴様、何をするつもりなんだ」


 リーフィアは声を発した棺桶の前に立つや、剣を振り上げた。


「一度私は誓ったんですよ。もうあんな結末は終わらせると。だから、私はお前たちをここで殺さなくてはいけない」


 リーフィアは剣を振り下ろした。その純白の剣は棺桶をいとも容易く貫き、その中で眠っていた魔族の心臓も潰された。


「あなた方魔族は死んでいる。だからこそここルナ王国の地下であなた方は身を潜めて潜伏していた。まああの戦争で仮死状態になるまで追い詰められたあなた方は、その命を一時的に長引かせる棺桶で何とか命を保っていた。だがその寿命も尽き、そして今終わりを迎える時が来た」


 リーフィアの腕には脈がはっきりと写っていた。まるで怒っているように、リーフィアは剣でさらに二つ棺桶を破壊した。


「残り七つ。その内の一つはドラキュスの入っていた棺桶ですから、あと六つですか」

「ドラキュスの入っていた?まさか……」


 棺桶に入っていた一人の者は何かを悟ったらしい。


「ああ。この体はドラキュスから譲り受けたものだ。一時期はドラキュスに支配されていたものの、彼は案外悪い奴ではなかったらしいな」

「なるほど。知識は彼から譲り受けたものか?」

「ああ。そうだとも。お前たち皆の名も知っている。その中でもホムラは最も危険らしいが、棺桶の中では……」

「なあリーフィア。なぜ勇者殺しが起きたのだと思う?」


 劣勢なはずの棺桶に閉ざされていたラキアという者。彼は時間稼ぎなのか、突如話し始めた。


「議論をしたいのか。そんなのあの世で」

「知っておいた方がいいぞ。というかお前は知っているはずだ。そもそもこの勇者機関の目的は何だ?」


 王国は勇者をこの地下にある勇者機関へと集めた。

 王国はその理由を、ムーンアイが誘拐されたから救い出すため、と明言している。

 リーフィアは何かおかしいと感じ、頭を働かせる。


「リーフィア。ここで今まで何が起きた?そして魔族が生きる方法は何だ?」


 リーフィアはドラキュスから与えられし記憶の中を覗いた。

 あくまでも断片的ではあるが、リーフィアはドラキュスから与えられた記憶を覗き、ひらめいたのか、冷や汗を流し焦る。


「魔族は死者、もしくは瀕死状態にある者に乗り移ることができる。そしてそれはノヴァたちの時代にもやっていたな」

「おや。勘づいていたか」

「まずこの地下施設にモンスターが出ることなどあり得ない。それでもモンスターがわいたということは、お前たち十名の中の誰かが瀕死状態、もしくは殺した勇者の一人に乗り移った」

「見抜いていたのか」


 ラキアは感心していた。

 だがリーフィアが今一番懸念していることはそんなことではない。


「なぜお前たちは勇者を殺しているのか?その答えは簡単だ。勇者の体を乗っ取った方が強さも得られるし、そして尚且つ敵となる勇者を排除できるだろ」


 リーフィアは棺桶を破壊した。その中に魔族の体はあるものの、魂はそこにはなかった。

 リーフィアは急いで死体を保管してある部屋へと向かった。だが既に死体は一つも残っておらず、リーフィアは剣を振るって壁を破壊した。


「ふざけるな。全てあいつらにしてやられたということか……」


 怒りに染まるリーフィアの前に、一人の少年が男性を抱えて立っていた。


「お前は……!?」


 その少年を、リーフィアは知っている。


「ラファエル!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る