十三日目・肆ノ刻『勇者対天使』

 ーー勇者機関地下施設にて

 リーフィアとサリエルは、会話の中で攻防をしていた。


「リーフィア先生。どうしてそんなに焦ってピエロたちを探しているんですか?」

「当然だ。それが教師としてすべき行いであろう」


 サリエルはリーフィアを食い止めるのが限界であった。

 ルリエルは何も言えず、ただ黙り込むことしかできなかった。


「サリエル。どうしてお前はそんなにも私を止める。何か事情でもあるのか?」


 核心をついたような発言に、サリエルは思わず言葉が詰まる。

 何を言おうと、リーフィアには通じない。それが解っているからだ。


「では本当に訓練所には誰もいないのか見てくるよ」


 リーフィアはサリエルの横を素通りする。


(どうする?何か手はないのか?今ここで、いや、あと数分だけでいい。そしたらきっと天神様はここに降りてくれるはずだから。だからあと数分だけでも、リーフィア先生を止める策を)


「先生。待ってください」

「次はルリエルか。何か用でもあるのか?」


(ルリエル!?何か策が!?)


「先生。今ジャッカルとドーベルマンは訓練所にいます」


(ルリエル!?)


 サリエルは動揺するしかなかった。

 ルリエルは本当のことをいってしまった。サリエルは悟った。自分が売られるのだと。だが、


「なら訓練所に……」

「いえ。行けば後悔しますよ」

「何を言っている?」

「今、訓練所で二人の勇者が告白をしています。そこへあなたが入っていけますか?」


 さすがにサリエルは呆れた。

 今訓練所にいるのは男のみ。つまりは、完全にルリエルはしくじった。


「えーっと、お前、頭大丈夫か?」

「先生。ジャッカルとドーベルマンが、同性愛者なんです」


(お前、何を言っている!?)


 サリエルとリーフィアは苦笑いを浮かべていた。


「おい。本当に頭打ってないのか?」

「先生。彼らのことは見ないでおきましょう。人には様々な恋愛があるのですから」

「ははっ。そうだな……」


 リーフィアは苦笑し、訓練所とは真逆の方へと歩き出す。


「なあ。もしジャッカルとドーベルマンが訓練所にいるとして、ピエロはどこにいるんだ?」

「ああ。それなら私たちも知りません」

「そうか。なら見つけたら伝えといてくれ。すぐに教師寮へ来いと」


 そう言い、リーフィアは教師寮へと去っていく。

 サリエルとルリエルは安堵の笑みをこぼすが、当然心の中はもやもやしていた。


「なあ、既に二十分は過ぎているが……」

「サリエル。もしかしたら……」


 サリエルとルリエルが向き合う中、教師寮では一人の少年が息を殺して潜入していた。


「天界の石碑に刻まれていることが本当だとしたら、もしそれが本当なのだとしたら……ここにいるのは危険だ」


 ラファエルは教師寮へとつくなり、漆黒色の扉を見つけた。その扉へ耳を当て、中から音がしないことを確認した。周囲を見渡し誰もいないことを確認すると、ラファエルは扉をゆっくりと開ける。

 息を飲むことさえ躊躇うほどの危険な場所へ入ると、そこでラファエルは見た。


「石碑に書かれていることは……嘘じゃなかった!」


 十個の棺。

 それが何を表しているのかは解らない。それでも尚、世界は残酷で簡単に崩れ落ちてしまうものなのだと、そうラファエルは思った。


「そこまでだ。ラファエル」


 ラファエルの後頭部へ剣を突き立てる一人の女性ーー


「り、リーフィア先生!?」

「お前。どうやら色々と知ってしまったようだな。ならば、逃がすわけにはいかない」

「リーフィア。これは……先生たちがしていることなんですか?」

「ああ。は世界を壊すために存在している。ならばこそ、支配しなくてはならない。この世界を」


 ラファエルは絶望の淵に立たされる。


(ああ。そうだったのか。やはり僕は、どう足掻いても強くはなれないんだ)


 ラファエルは未来を悟っていた。だからこそ、もう足は動かない。腕も、頭も回らない。ただ、迫る束縛に身を任せることしかできなかった。


「さようなら。ラファエル」


 そして、剣は振り下ろされた。

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