第8話 3人の実力・・・試験失格!?
「おお、ヴィニーが一番か! 頑張ってこいよ」
パァンと肩を強く叩く
一瞬レオとの光景が蘇った
(こいつ)
少し微笑んだ
「私サポートタイプなのに」
この試験の面白いところは聖職者といったサポートタイプの者でもこの試験だ。魔力の大きさが鍵となる世界で聖職者も魔力が求められるかららしい。
「ヴィニー」
俺が呼ぶ
「は、はいっ」
ぽんっと頭を叩き軽く詠唱をする
「よろしくお願いいたします。ダリル様」
「本気は出せんがなんとかしてくるよ」
先程まではヴィニーだったが強制的にダリル王を呼び出した。ヴィニー状態でも時間制限付きだがこちら状況を確認できているらしい。
ヴィニーはサポートタイプ。王子の側近なだけあって能力も魔力もそこそこの実力者である。が、今の本命は潜っている王の力。王族の魔力はもともと強い。俺がヴィニーを連れてきたのもこの理由と王と接触する機会が増えるからだ。
「あれ雰囲気変わった? 本気か?」
ロロが不思議そうに聞く
(まったくこの王子は勘がいいのか悪いのか)
無言で会場に向かうヴィニー
魔法は人それぞれの得意属性があるが、王族はレアな光魔法の家系、なぜかそれが代々受け継がれる変わった血筋だ。王子があのような気弱なのはこの光り魔法が使えなく王の子ではないと言われ続けてきたのもあるらしい
「シャイン・レイア・インディスカ」
会場が一瞬眩い光りに包まれた
するとダニマイト石に無数の穴があいていた。光を圧縮し対象を貫く。俗に言うレーザーだ。
「素晴らしいな」
この時代あまり王の実力も信じていなかったが力が制限されていても、十分歴代の王と遜色がなかった。それに剣士といっていたのにこの威力。
「あ、あれ?」
強制的に引っ張り出したからかもうヴィニーに戻ってしまった。
あたふたウロウロしていると、髭が言う
「光魔法……ヴィンセント君もういいよ、さがって」
何が起こったかわからないヴィニーが会場から追い出される
戻ってくるヴィニーを見るや
「なんでお前が光魔法使えるんだ!」
胸ぐらをつかんで叫ぶのはロロだった
「え、ちょっとロロ様……」
状況がわからないヴィニーは何も答えられない
「すまないロロ話をしておくのが先だったな」
手を引っ込めさせる。
「ヴィニーもすまない。ちょっとした細工をした。サポート職ではAクラスは難しいと思って光魔法の武器を持たしてあった。ちょっとレアだったから内緒にしていた。それが強力すぎて意識が飛んだんだろう」
考えてもない行動だったのでつい嘘をついた。
「でも、そんな都合のいいものって……」
ロロの件を知っているヴィニーは不思議そうにしている
(しー)っと気にするな、というような仕草を取る。
ヴィニーは俺を信頼しているからかその件は諦めた。
「なんだよそれ、今度からそういうのは隠すなよ。ヴィニーも悪かったな」
「いえ、すいませんなんにもわからくて」
アナウンスが鳴る。
「次は《ロロ・オレット」4番会場へ」
「オッシャー、いってくるぜ、てかオレットってダサいぞ」
文句を言って走っていった。
「まぁ適当につけたからな」
「ロロ様大丈夫でしょうか?」
不安そうにヴィニーが言う
腕輪が偽物なのを知っているからだ
「これをクリアしない限りあいつはどうしようもないよ」
少しきつめに答えた
だが実際下級魔法で十分だ炎だと多分穴が空く程度の威力はある。
それに下級魔法程度なら今の自信と昨日の訓練で魔力が反射してこないと思っている。
「フレイマ・ルルア・イルマイザ……」
「やらられた!あのバカッ」
「ええ、どうしたんですか?ルーシュ様」
「俺は下級魔法でいいと思っていた。しかし今あいつ中級魔法唱えやがった」
そうロロはなにを思ったのか下級魔法を使わず中級魔法を使い出した。気弱のくせに何故か威勢がいいからスザクやヴィニーを見てテンションが上ったのだろう。
「本気でやばい入院だわ……」
ヴィニーと目を合わす
「ダメですって助けに行きましょう」
慌てて二人で止めに行くが間に合わない
「フレイマ・オブ・サンズ」
すごい音をたて会場が一気に炎に囲まれた。
すぐ消えたがスザクと同等なほどの周囲に粉塵が上がる
「こいつこんなすげぇのか」
思わずレオと変わらない魔法威力に驚愕する
ダニマイト石が半分ほど溶けていた。
(スザクでも破壊だったのにこの火力こいつは化けるな)
粉塵の中すぐにロロに駆け寄る
それを見た髭が「救護班!」と叫んだ。馬鹿だと思っていたが判断能力は高いみたいだった。マスターだから当たり前なのだが
「意識は失っている。それに少し火傷が……」
状況を見て思ったより怪我がなくホッとした。
ロロが心配そうに覗き込む
「大丈夫そうですか?」
「ああ、こいつ一気に成長しやがった」
俺とヴィニーは運ばれるロロに付き合って医務室にいった。
「う、ぅ」
1時間程度で気がついた
「ロロ様大丈夫ですか?」
ヴィニーが声をかける
「お前罰金だからな……」
苦しそうだが冗談を言っている
「問題なさそうだな。俺はまだ試験終わっていないから戻るぞ」
急いで戻ると試験は終わっていた。
「おい髭どういうことだ?」
少し苛ついてしまった。
「ひ、ひげぇ?ルーシュくんあまりにも言葉使いが悪くありませんか? 試験なんて呼ばれたのにいなかったら失格に決まってるでしょ?」
この髭俺が医務室にいるのを知っておきながら
「本気で言ってるのかお前……その態度後で後悔するぞ」
睨みつける
更に気に入らなかったのか
「土下座でもして頼むこともできないんですか? 頼んでも許可しませんけどね」
横から声が聞こえた
「おい、訳あって抜けていたのは知っていると思っていたが? 状況がわからんほどのアホではなかろう?」
スザクだった
「お前なんで?」
俺が聞く
更に声がした
「最高顧問が呼んだ救護班と医務室に行ってたんですよね? それで失格って何か意図があるんですか?」
何故か会場に残っている他の生徒20人ほどが色々と抗議してくれた。
「最初の試験を見て、お前の実力を知りたいものが少なくともここにいるってことだ。これを無駄にしたら承知せんぞ」
スザクが答える
「最高顧問様、試験は受けさせていただけますか?」
俺は振り返り丁寧に言ってやった
「ぬぅ生意気な奴らですね。仕方ない特別に受けさせましょう。試験の評価はちゃんとしてあげます。しかし今私に生意気な口を聞いたものは後で顧問室に来なさい、態度が悪いのは別の話です」
これで向こうが意図的に俺を失格にすることもできなくなった。なんだかんだでスザクに助けられたな。
「良いやつじゃん、サンキュー」
スザクにお礼をする。
前衛者不足それを補えるのは前衛の魅力と必要性、前衛の全てをこの時代の奴等に理解してもらわないといけない。
そうやって前衛の人数を増やさないとこの先の戦いが厳しいとわかっているからだ。
そのため俺は《剣士》としてこの学園に入学することを決めた。俺が見本となり前衛希望者を増やすこれが第一目標。
その代償に高威力魔法や詠唱の長いものは一旦捨てることとなったが、この3日間一番いいものを考えてきた。
今腰にぶら下がっている刀だ。
『強力な一撃も大切だがそれを使いこなすにはスピードが最も必要なんだぜ』
俺の最高威力、スピード、剣士、これを考えた時に思いついたのは居合だった。
剣を抜いた一瞬で斬るという動作の剣技だ。更にこれが高威力だったら…このダニマイト石で試したことはないが成功すれば大きな一歩になる。
前衛にこんなにワクワクするのもあいつのおかげだな。
それに髭は賢者の俺が前衛職、《剣士》で入学することに違和感を持っているはずだ。
余裕の面をしてやがる。
「じゃ、遠慮せずに」
左足を引き左手を鞘にかけカチャッと少し剣を親指で押し出す。剣を構える格好と同時に右手を前に出しいつものように指を構えた。
パチンッ指を鳴らす音が広い会場に響き渡り、静まり返った。
「ふぅ」
キンッ
と一息付き、押・し・出・し・た・だ・け・の刀を戻す。
一瞬の出来事だ。
がダニマイト石の板はなんにも変化がなかった。
髭が近づいてきて
「なんですか今のは威勢だけでしたか?」
コンコンと板を叩くが試験前と同じだった。
「あれ?」
俺は少し戸惑った。
「なんだそれは剣を抜く動作すら見えなかったが抜いてすら無いのか貴様?」
スザクが呆れて言う。
そう、俺は指を鳴らす以外には微動だにしていないように見えているはずだ。
見学に来ていた何名かも呆れたのか色々文句を言ってきた。
「アリゾナ最高顧問様ダニマイト石に傷つけたらちゃんと評価してくれるんでしたよね?」
野次の中俺が話し出す。
「ええ、そう言ってますがこれじゃ0点です」
髭を触ってニヤつく
「すいません、斬るやつ間違えました」
と指をさす。
会場の全員がその先を見ると髭、アリゾナ最高顧問の5mにもなるダニマイト石像があった。
「まさか…」
髭が声を漏らすと
ガラスが割れたかのようにパラパラと髭の石像が崩れていった。
「何をした!?」
髭が叫んできた。
「試験内容通りダ・ニ・マ・イ・ト・石・を斬っただけですよ」
おお~、っと会場が沸いた。笑い声も混じっていた。
髭は顔が真っ赤だ。
「気に入らん」
スザクはそういってまた消えていった。
これで全部の試験が終わった。
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