お菓子の家は魔女の家

ぺる

ヘンゼルは一人斧を持つ

 ざくざくと音をたて、森を歩く一人の青年がいた。


 彼の名はヘンゼル。彼は妹を魔女に拐われ、魔女に復讐するために生きてきました。


 ある日妹のグレーテルと共に森を散歩していたヘンゼルは、お菓子でできた家を見つけたのです。お腹を空かせていた妹はお菓子を勝手に食べてしまい、魔女を怒らせてしまったのです。


 当時のヘンゼルでは怒り狂った魔女を止めることはできず、妹は連れ去られてしまったのです。その事をずっとヘンゼルは悔やんでいました。


「せめて、敵は撃ってやるからな!」


 ヘンゼルは憎しみのあまり血がにじむほど強く斧を握りしめ、漸く見つけたお菓子の家へとたどり着きました。


 息を殺して中を覗くと、そこには釜の前で暖を取る魔女の姿がありました。黒いローブに大きな三角帽子を被った姿は、まさに妹をさらった魔女の姿です。


 ヘンゼルはそろり、そろりと魔女へと近づきます。魔女は、気づいていないようです。


「この魔女め! 覚悟しろ!!」


 ヘンゼルは斧を振りかぶり魔女の首へと下ろしました。


 ━━ザシュッ!!


 赤い血飛沫と共に、魔女は倒れました。

 魔女は倒したと言うのに、ヘンゼルの怒りは収まりません。


「よくも妹を!! そのせいで俺は! 俺はぁぁ!!」


 ヘンゼルの怒りは収まりません。何度も何度も、魔女の体に斧を振り下ろしました。


 美味しそうなお菓子や暖かい釜戸は血まみれになり、息を切らしたヘンゼルは、漸く斧を手放しました。


「はぁ……はぁ……やったぞ!ついに、ついに魔女を倒したんだ!」


 この魔女は街の子供達を拐うことで有名でした。それなのに、街の自警団は動こうとさえしません。この魔女のせいで離ればなれになってしまった親子は、今や両手で数えきれないほどです。


「これで、これで俺は……」


「誰が誰を倒したって言うんだい?」


 突然、ヘンゼルの背後から声が聞こえました。血まみれの彼は、目さえも赤く血走らせ獣のように振り返ると、そこには倒したはずの魔女の老婆が家の外にたっていました。


「ばかなっ!? お前は俺が殺したはずっ!!」


 ヘンゼルは驚き、急いでぐちゃぐちゃになった魔女の死体へ視線を戻しました。


 その時です。コロン、と魔女の首が転がって、その顔と目があったのです。


「……え?」


 そこには、老婆の顔はありませんでした。

 かわりに、若い女の美しい泣き顔が赤い海の上に浮かんでいました。


 その顔に、ヘンゼルは見覚えがありました。


 忘れるはずもありません。


 それは、魔女に連れ去られた妹、グレーテルでした。


「そんな、そんな……っ!!」


「あんたが殺したのは実の妹だよ」


 老婆はケタケタと笑いながら、お菓子の家へ火を着けました。


 火の海となったお菓子の家から、ヘンゼルが出てくることはありませんでした……。

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