第7話 最終話
「あの、一応逆探知、出来たんだけど……」
脇岡が、開いていたノートパソコンの画面を二人に向ける。
「「これって……」」
画面に表示されたのは、「発信元:防人灯台」の文字。
「ここから電話が掛かってきてる、ってことですよね?」
俄には信じられない、という様な口調で、星が脇岡に問う。それに脇岡も頷き発信元がこの灯台であることを認めるものの、その顔には明らかに戸惑いが現れている。
「行ってみますか、灯台に」
しばらく自動音声の声だけが各人の耳に届く時間が続いたが、やがて星の一言でそれが打ち切られる。
「そうすっか」
脇岡の言葉に他の二人も頷いて、手元に置いていた懐中電灯のスイッチを入れた。
※ ※ ※ ※ ※ ※
「えーと、確かこっちに階段があったはず……、あったあった、こっちです」
数年前、と言ってももう7~8年になるだろうか、落雷が原因の小火がこの灯台で発生した時に駆けつけた記憶を頼りに星が先頭となって、体重を掛ける度にギシギシと不安になる音を立てながら進んでいく。運の良いことに小火が起きた時は雨が降っていたから燃え広がることなく、送電線とすぐ近くにあった物置小屋を半焼させた程度で済んだのだが、老朽化が進んでいたこともあって物置小屋は取り壊された。意外と造りがしっかりしていた灯台は壊すのにお金が掛かり過ぎるからとりあえず放置しておくことになったのだが、その一件以来人々の間で話題になることさえも無く、完全に忘れ去られていた。
「へぇ、意外だな。もっとボロボロになってるもんだと思ってたけど、まだ立派なまま残ってたのか。ちょっと補修工事すりゃ、使えそうじゃねぇか」
脇岡が錆びた金属製の手すりを撫でながら、真っ暗な頭上に目をやる。でもこれ以上放置したらもう直に朽ち果てるんだろうな、という呟きは、星にも溝上にも届かなかった。
※ ※ ※ ※ ※ ※
「――ったく、お前かよ、毎晩毎晩通報してきてた奴は」
螺旋階段を登りきって灯ろうに入ると、ピカピカと『連絡済』という文字が点滅している機械が3人を出迎えた。その文字の右横には『ランプ切れ』の文字が光っており、この機械が通報の発信元と見てまず間違いないだろう。
「なるほど、何の応答も無ければ自動的に緊急通報が入るってことか」
恨めしそうに星が機械の表示板を懐中電灯で照らす。表示板には『緊急通報まで 秒』という表記もあって、どうやらここに緊急通報までの時間がカウントダウン表示されるらしい。
「あー、確かにフィラメント切れちゃってますね」
懐中電灯を使って抱えるほどの大きさもある灯台のランプ内部を覗きこんでいた溝上が、合点が行ったという様に頷く。
「どう? 直せそう?」
「修理自体はそんなに難しいものじゃないと思うんですけど、果たしてこのサイズの部品があるかどうか……」
流石ラリードライバーだっただけあって、この手の修理は部品さえ揃っていればお手のものらしい。簡単な工具は乗ってきた車に積んであるから交換部品さえあれば良いのだが、
「見た限りだとどこにもそんなもの無さそうだな」
「ですよね……」
周囲を見渡した脇岡の発言に、星も同調して頷く。そもそも、もう使われていない灯台に換えの部品など置いてある方が不思議であろう。
「ん、待てよ? これって……」
溝上がしきりに懐中電灯を左右に動かす。
「フィラメントいくつもあるな……、これならもしかして……?」
※ ※ ※ ※ ※ ※
「――にしてもこいつ、中はまだ生きてたんですねぇ」
星がしみじみと、まばゆい光をチカチカさせる灯ろうを見上げながら、ぽつりと呟く。
「ああ、もしかしたら今回の一件は、忘れ去られた街のシンボルからの、『俺はまだやれる、だから見捨てないでくれよ』っていうSOSだったのかもしれねぇな……」
脇岡の言葉に呼応するかの様に、灯台がチカっと瞬いた。
——完——
声なきSOS RURI @RURI-chrysipteracyanea
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