幽世の空蝉
@shiroyagisan
4月8日
娘が死んだ。目の中に入れても痛くないほどに愛しい娘だった。
おとうたんおとうたんと拙い口調で私を呼び、小さな紅葉のような手を私に伸ばして抱っこをせがんでくるあの子はもういない。
妻を早くに流行り病で亡くし、ようやく傷が癒えたと思ったというのに幼い娘までも事故で亡くしてしまった。
先ほどまで庭で遊んでいたというのに気が付いたら姿が見えなくなっていた。
慌てて探したが見つからず井戸の蓋が少し開いていたのが気になって井戸を覗いてみると……
どうして!!?井戸は普段使っていない。蓋は閉まっていた筈なのに!!!
娘が開けた……?いや、子供の力で石の蓋が開くはずがない!なのにどうしてどうしてどうしてどうして!!!!
……だがいくら問いかけてみても娘はもう戻ってはこない。
何の咎だろうか。神はどうしてこんなにも私から愛しいものを奪っていくのだ。
娘の眠る棺を前に何をする気にもなれないと思っていたが、習慣とは恐ろしいものだ。
こうして日記へと向かってペンを走らせている。
今、日記を書くことによって私は自我を保っているのかもしれない。
もう一度でいい……どうかその可愛い瞳を開けておとうたんと呼んでおくれ。
どうか、どうか……どうか……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます