第4話

「第2試合。川崎フロンターレ対北海道コンサドーレ札幌。フットボールフィールドを展開。今からこの場はフットボールが支配する。現れよ、伝説を従えし英雄達よ。」


「俺は、フィールドに川崎フロンターレを展開。マネージャーに鬼木達を選択しターンエンド。」


「俺は、フィールドに北海道コンサドーレ札幌を展開。マネージャーにミシャを選択しカードを二枚伏せてターンエンド。」


 川崎フロンターレ。現在の日本サッカーにおける最強のチームである。


「先行は俺が貰う。フィールドを駆ける漆黒の王よ。立ちはだかる敵を切り裂きピッチを照らせ!レジェンド召喚!川崎の太陽ジュニーニョ!」


 川崎が攻め上がる。ジュニーニョの果敢なラインブレイクにパスを通す名手が川崎には存在した。


「俺のターン!ドロー。山背が吹きすさぶ時、孤高の天才が札幌の大地に降臨する。レジェンド召喚!現れよ、前田俊介!」


 あくまでも川崎と打ち合いを挑むのか、コンサドーレ!平均得点が3を越える異常値を叩き出すこのチームに対して!


「まだ、俺のターンは終わらない。手札から前俊を諦めないを発動する。このカードのエフェクトにより、俺達は前俊を諦めない!」


 誰が言ったか「前俊を諦めない」という言葉がある。前田俊介が広島時代にペトロビッチ監督から長い説教を賜った逸話を、Jリーグファンなら目にしたことがあるだろう。

 田坂監督にも「サボっているわけではありません」と言わせたほどチェックに行かないイメージながら、ユース時代から注目された希有な才能には嫌でも期待してしまう。07年大宮戦でJ1残留を決定づけたボレーや11年FC東京戦での曲芸シュートなど、要所で遂げる妙技の数々。変幻自在のドリブルで相手を翻弄しプレー精度も高い。


「さらに、ミシャのマネージャーエフェクトを発動する!」


 私は“ブラボー”でもないのに“ブラボー”と叫ぶような人間ではない。私は時に、君たちに対して厳しい言葉を言うが、それは私のためでなく君たちのことを思って言っている。

 例えば、シュン。お前にはよく考えてもらいたい。

お前は日本サッカー界の中でも特別な才能を持った選手だ。それなのに今、試合に出ていないのは監督のせいなのか?少し前までお前と同じ場所にいた、お前と同じくらいの才能を持った選手たちは、もう違うステージでプレーしている。

 その姿を見て、どう思っているのか。お前は3人ドリブルで抜いて4人目でとられる。そのあと、カウンターで失点してもドリブルで抜けたことで満足している。それはプロではなくアマチュアの発想だ。

単に楽しくやっているだけだ。

 お前にクサビのボールを入れて、周りは一生懸命走る。40m、50m、時には80m走ってくる仲間がいる。

それなのに、お前はつまらないミスでボールを失ってしまう。

 仲間の頑張りや走りをムダにしているんだ。ミスをしてボールを失ってしまうことは仕方がない。でも、お前はミスして失った後、走っていた仲間のために80m走ってカバーしたことはあるか?そうするべきだと思わないか?サッカーはチームスポーツなんだ。

 シュン、お前には特別な才能がある。ただその才能を活かすには、お前のアタマの中身を変えないとダメなんだよ。それができれば、お前は将来、日本を代表する選手になれる。

 そのためにはまず、お前のために走る仲間やここで頑張っている人たちに対して、リスペクトする気持ちを持たないといけない。

 サッカーとは厳しい仕事だ。

 しかし、私はそのサッカーという仕事について、君たちにもっといろいろなものを教えてやれる。だから、それをどんどん吸収してほしい。

 でも、そうするためには、もっともっと自分自身が気持ちを前に出してやる気を持って取り組まないといけない。私にとって最も楽なのは、ここに来て黙って座って見ていること。しかし、そういうことはできない。私はみんなをもっともっとよくしたいから。

 例えば洋次郎。パスを出したら、動かないといけない。そんなことは、私が言わなくても簡単にできることだろう。

 確かに、今、やろうとしているサッカーは簡単ではない。難しいよ。走らないといけないし、アタマを使わないといけないから。でも、プロのサッカー選手として成功するためには、アタマの中を変えないといけない。

 シュン、今日の練習の最初、ボール回しをやっただろう。あれは確かに遊びだ。しかし、ただの遊びじゃないんだ。

 シュン、お前はあのボール回しの時に、ずっと中で「オニ」をやっていたな。悔しくはないのか、ボールがとれなくて。俺がお前なら、悔しくてスライディングをしてでもボールをとりにいくぞ。

 シュン、お前は素晴らしい才能を持っている。でも、これから成功するには、お前のそのアタマの中を変えないといけない。そのために残された時間は、シュン、そんなにたくさんあるわけじゃない。お前は、もう特別に若いわけじゃないんだ。走って走って、球際でアグレッシブに戦え。そうすれば、いい選手になれる。気持ちを前に出して、90分、いや100分、180分、戦いぬくくらいにやろう。

 私はどんなジャーナリストの批判からも君たちを守る。しかし、私は君たちを批判する。それは私のためじゃない。みんなのためだ。

 私たちはまだまだいいサッカーができる。それをやろうじゃないか。つい長くしゃべってしまった。

今日は言わないといけない気持ちがしたから、しゃべらせてもらった。


「俺達は、1人たりとも前俊を諦めない!」


 フロンターレとコンサドーレの激闘は続いた。一進一退の攻防。隙を見せた方が失点するかのような展開だ。いや、常識を打ち破るプレーを見せた方が得点するのだろう。


「俺のターン。ドロー。ジュニーニョを引退させることにより、この選手を召喚する。英雄の魂を引き継ぎし川崎のエースよ、新たな歴史を紡ぎだせ。レジェンド召喚!現れよ、勇気の戦士、小林悠!」


 川崎の怒涛の攻めが始まった。ラインブレイク。ワンツー、フリック。多彩な攻撃が繰り広げられる。

 一方、北海道コンサドーレ札幌は前俊にボールを集めて対抗するも地力の差が如実に現れ始めていた。


「俺のターン。ドロー!俺は前俊を移籍させ、この選手を召喚する。現れよ!漆黒の疾風よ!その秘めたる思いを現出せよ!レジェンド召喚!鈴木武蔵!」


「まだだ。俺は戦術カード、トータルフットボールを発動する!このカードのエフェクトにより、互いの選手のポジショニングは無効化される!最新式のミシャ式を見せてやる!」


 ポゼッションサッカーは相手のポジショニングの隙間をついてボールを繋ぐことを基本戦術としている。しかし、トータルフットボールにおいて、基本的な守備はマンツーマンだ。これにより、ポジションのギャップは生まれない。故に、川崎のボールが回らなくなっていった。


「俺のターン。ドロー!俺は中西哲生の選手効果、キャプテンの号令を発動する。田坂クラスのレジェンド選手をその召喚条件を無視して召喚できる。最終ラインに連なる川崎の山脈が今甦る。レジェンド召喚!降誕せよ、伊藤宏樹・箕輪義信・寺田周平!」


 川崎のサッカーが一変した。技巧を駆使したポゼッションサッカーから高速カウンターへと戦術をシフトした。そして、裏に抜け出した小林悠がコーナーを獲得する。


「まだ、俺のターンは終了しない。ここで川崎山脈の効果発動!セットプレーを獲得した際に、川崎山脈の二人を攻撃参加させる。蹂躙せよ!川崎山脈!」


 個の能力では劣るコンサドーレに対するパワープレー。伊藤宏樹が競り合いに勝ち得点を上げた。


 これが決勝点となり川崎フロンターレが勝利した。

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