Day.14 うつろい

 新しい友人が出来た。私とは種族の違う友人である。周囲の人々にはやめておけと言われたが、彼は聡明で心優しいひとで、付き合うのをやめる気にはならなかった。

 彼は私の十倍ほどの速度で年をとる。精々八十年ほどしか生きないということを知った時は驚いた。少し会わないだけで彼はあっという間に成長してしまうので、意識して会いに行くようにした。

 彼は日々うつろい、儚く、美しい。六十歳を過ぎたあたりから彼はどこか眩しげに私を見るようになり、自分だけ老いていくのが恥ずかしいと言った。あなたはいつだって美しいと言うと、彼は困ったように笑った。

 彼が少しずつ壊れ始めたのは寿命が尽きかけ始めた頃だった。私が訊ねていくと一瞬戸惑ったような顔をし、少し考え込んでからようやく私の名前を言うようになった。私のことを忘れかけているようだった。私がたまにしか会いに行かないからだろうかと思い、こまめに訪れるようにしてもそれは変わらなかった。彼と同じ種族の学者や医者たちにきくと、それは仕方の無いことだと言われた。彼は見た目だけではなく、こころも儚かったのだ。彼が困惑したような顔で私を見るたび悲しくなったが、私は彼のことが大好きで、会いに行くのはやめなかった。

 ついに彼が完全に私のことを忘れる日が来た。お土産の花を持って訪れた私を見るや小さな悲鳴をあげて地面に尻餅をついた彼を、私はじっと見下ろしていた。怯えきった顔だった。もうこれ以上は彼のためにならないと思い知った私は、そっとその場に花を置くと立ち去った。

 彼が死んだと聞かされたのは、それからすぐのことだった。

 墓を訪れた私は少し泣いた。彼の墓石が、雨が降った後のように濡れた。よく見ると墓石には絵が刻まれていて、それは私たちによく似ていた。


 その日、とある竜殺しの老人が死んだ冬の日、山の向こうへ飛び去る竜の姿を羊飼いが見ていた。

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