11月14日 午前 4時00分 起床
月日は流れ……。
11月の14日、時刻は午前4時ちょうど。俺は、お腹の上に重みを感じて目覚めた。天才美少女女優なまだしあこと田中はるか。はるかと俺は同居中。
「おはよう、昴くん」
「おはよう、はるか」
挨拶をかわし、笑顔をかわす。かわさないのは、はるか本体だけ。起きあがった俺にもたれかかってくるはるかをがっちりキャッチ&ホールド! 並の男が触れたら融けてしまうほどの美少女だ。
全開のはるかモードを受け止めるのが今の俺の日課。
とはいえ、俺たちが付き合っているかといえば、それは違う。俺はあくまで被評価者であり、はるかは評価者。俺はまだ、男の天才目指し中!
「はるか。朝から仕事、大変だね!」
「大丈夫。それよりお泊まりの用意を忘れないでね、昴くん」
そうだった! 今夜ははるかとお泊まりデート! 行き先は、強羅温泉。明日の仕事に備えての前のりというやつだ。
この前のり、男のロマンが目白押しだ。
デート! 温泉! 浴衣! こっ、混浴! 豪華な食事! 全部乗せだっ!
ところが……。いつのまにか増えている同居人たちがうるさい。ひな板、肉、白布、鈴の順。
「校則違反ですから。2人きりなんて、絶対にさせないわっ」
「お付き合いもしていない2人だけでの外泊許可、出せないわーっ!」
「あくまで仕事です! マネージャーとしてケジメを要求します」
「せやで。そんだけは、あかんやつやからっ!」
そう、このデートには大きな欠点がある。俺とはるかの2人きりじゃない。
校則、親の許可、事務所の許可。そんなものに縛られるのは、俺が天才として認められていないから。天才になれば、あらゆる自由が保障されるというのに。
「はるか、早く俺を天才にしてくれ!」
「それはできません。まだ99点です」
あと1点、どうすればいいんだ? 分からないが俺は決めていることがある。それは、もし天才と認められたら、はるかに告白すること! けど、はるかは簡単には俺を天才として認めてくれない。だから、告白ができない!
「分かったよ。今日の俺も見ててくれ! 男として立派に暮らしてみせる!」
「うん。とっても期待しています。いつでも……いいから……」
ありがとう。はるかの応援が、俺を諦めさせない、俺の努力の根源。
俺ははるかの役に立ちたい! 身のまわり担当として仕事をはじめた。パジャマを脱がしてブラジャーを新しいのと交換して、スカートを履かせてパンツを交換。あとは靴下だけ!
「昴くん、気付いてないってとこがすごいわ! バカなの?」
バッ、バカなひな板にバカって言われた。悔しい……。けどここはグッと我慢。
「お母さん、思うの。昴くんがほんの少し順番変えれば良いんじゃないかって」
順番だと? 違うのか? ちゃんと右の靴下から履かせるつもりだけど……。
「それ以上は言っちゃダメですよ。昴くんが自分で気付かないと!」
まさか! ブラもパンツも、全部脱がせてから履かせるべきなのか? そんなこと……。難易度が高過ぎる! 俺は迷いながらも、まずは地味に靴下を履かせる順番だけ変えてみた。はるかの評価は変わらなかった。
「見てて安心やな! もうしばらくはこのままでいれそうやで!」
4人が声を出して笑った。何がおかしいのか、俺にはさっぱり。
けどよく考えたら、俺以外はみんな天才。そう思うと笑う気にはなれない。ふと横を見ると、はるかも笑っていなかった。
6人で同居している俺たちは、同じ学校に通っている。ひな板は校長、肉は保健擁護の先生。俺を含む他の4人は生徒。白布は歳上だと思っていたけど間違いで、俺たちと同い年。車を運転していたのは特例で免許が交付されているから。
白布は世間的には運転の天才。俺の中では運転手。珍しく世間と俺の評価が近い。平日ははるかのマネージャー兼運転手。身のまわり担当は卒業した。
もう1人、鈴も天才だった。世間的にはテレビタレントの天才。本人はあくまで女優と言い張るが、女優としての実力ははるかの足元にも及ばない。どっちにしても、俺の中では関西弁。
関西弁にひな板が言った。
「今日は転校生がいるの。鈴が迎えに来て。校長命令よ」
「えーっ、なんでうちやねん」
関西弁がブーたれる。
「はるかも昴くんも白布もギリギリでしょう。暇そうなのはあんただけ!」
「しゃーないなぁ。迎えに行けばええんやな!」
この日のはるかは大忙し。5時から都内のスタジオで映画の撮影。8時に終えて学校へ。午後は長寿なウタ番組の収録と、短命なエタ番組の収録。どれも視聴率は40%を上回る人気番組だ。そして夜にはインターネット上でオタ番組の生配信がある。全てが終わるのが夜の20時。
次の事件が起こるのは、ウタ番組の収録前、13時ころのこととなる。
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