何をやってもダメな俺、男の天才として100点を目指します。天才美少女女優と俺のホットな生活!

世界三大〇〇

1章 天才クラブ黎明編

発足パーティ

身のまわりの天才たちと俺

 校長室で出迎えてくれたのは幼馴染の板垣ひな、15歳。明るめの茶髪は短くて活動的な印象がある。俺は、胸がないまな板と名前のひなをかけて、ひな板と呼んでいる。


「遅かったわね、昴くん。道にでも迷ってたの?」

「散々迷ったよ。すっぽかそうかどうか」


 ひな板がどうして校長室にいるのか。簡単なことだ。ひな板は一昨年、小学校を卒業すると同時に飛び級で大学入り。2年で卒業するといきなりこの学校の校長に就任したのだ。


「そういうところ、小学生のころと変わらないね」

「そうでもない。ちゃんと大人になったから」


 言いながら元気に腰を振るジェスチャーをした。童貞だけど、見栄を張る。ひな板がエロに免疫がないことは知っている。面白いくらい顔を赤らめた。世間的には天才美少女校長先生。俺の中ではひな板。


 目をまわしながらひな板が言った。


「昴くんには明日、私と一緒にパーティに参加してもらいたいの」

「パーティ? ヤリコンならお断りだ」


 ひな板は変な汗をかき、さらに目をまわしている。ちょっと言い過ぎたか。


「いっ、いかがわしいものじゃ、なっ、ないわ。けっ、健全なパーティだよ」

「それでもお断りだ」

「どうして、昴くん。お願いよ。男女ペアでの参加が義務なのよ」

「他をあたってくれ。数学教師の田中先生とかがおすすめだよ」


 田中先生は教師生活37年の大ベテラン。今年限りで定年。「クックック」という高笑いがキモい。


「イヤよ、あんなハゲ。それに……」


 ひな板の様子からして、これは絶対に怪しい案件。くだらないことに付き合うのはもうまっぴら。貧乏暇なし、俺ん家のエンゲル係数の高さは伊達じゃない!


 俺はひな板の言葉を遮り、

「断る。バイトに行かないと!」

 と、ドアノブに手をかける。夕刊配達が俺のバイトなんだ。


 ひな板が思いっきり悪人声で言った。


「建て替えた給食費、チャラにしてもいいわよ!」


 俺はピタリと手を止める。ひるがえってズズズッとひな板に顔を近付ける。


「詳しく!」


 ひな板がパーティについて説明。俺が思った通りのとんでも案件だが、建て替え給食費チャラの魅力が勝る。しかもパーティでは何でも食べ放題らしい。1食浮くのもおいしい。俺はパーティに参加することになり、明日の夕刊配達は田中先生が行うこととなった。校長命令って、恐ろしい。




 帰宅。門もなければ塀もない、玄関開けるといきなりキッチンという機能的な住宅。それが俺ん家。出迎えたのは肉。女盛りの30代の豊満な胸にやわらかい腰つき、細くて長い腕と脚。見た目だけならヒロインとして充分に通用する。


 俺は肉に向かって「お母さん、ただいま」と、一応の笑顔を見せる。


 世間的には天才美人妻。俺の中ではどこまでも肉だ。身体にまとわりつく、ゆっくりとしたバカ丸出しの口調。


「おーっかえりー、昴くん。待ってたーのよーっ!」


 言葉同様に、俺の身体に絡み付く。生真面目な俺が、女子とでも仲良くはなしたりボディータッチを躊躇なくできるのは肉と暮らしているうちに免疫ができたから。


「待たんでいい、新妻じゃあるまい」


 13年前、肉が妻らしく振る舞うべき対象を失ってからというもの、俺がその役を引き継いでいる。


「大丈夫だった? 怪我はなかった? いじめられなかった?」


 心配性に思えるが、肉の場合は甘えん坊というのが本質。俺がいなければ生活できないバカなやつで、親バカ。


「もうガキじゃないんだから、心配ないよ」

「じゃあ、どこぞの女にたぶらかされなかった?」

「さ・れ・ない!」

「本当?」


 肉はちらりと俺の股間を見た。いつも通りニョキッと突き出ているのを確認、安心した表情を見せる。以前は恥ずかしいと思ったが、今となっては慣れっこ。10代男子の普通の反応に過ぎない。


「本当! お母さんが心配するようなことは何もないよ」

「本当に、本当?」


 しつこい。少し脅してやるか。揶揄い半分、どさくさ紛れに、

「あっ、たぶらかされた!」

 と、うそぶく。効いてる効いてる! 肉は目をパチクリ。早口になる。


「だっ、誰に! 誰にたぶらかされたのっ!」

「ひなに!」


 この一瞬で俺の揶揄いは終了。肉の口調はゆっくりなものに戻った。


「なぁんだ、ひなちゃんかぁ」

「反応、分かり易いな」

「だって、ひなちゃんでしょう……」


 そういえば、ひな板は肉の2番弟子。飛び級ができる天才選抜試験を受けるときに弟子入りしてた。


「ひなだって世間的には天才美少女なんだぞ」

「でもあの子、バカよ」


 否めない。いい師弟コンビだ、とも思う。


「明日はパーティに行く」


 肉は思ったよりも抵抗せず、俺がパーティに行くことは認知された。




 土曜日の昼下がり。ひな板と漁港近くの喫茶店で待ち合わせ。磯の香りがする風は穏やかで気持ちいい。


 そのままパーティ会場である隣町の高校に向かう。そこの校長がパーティの主催者、小山哲也、15歳。肉の1番弟子でまな板の兄弟子。世間的には天才芸術家。俺の中では真性。真性のバカだ。


 真性が出迎えてくれた。


「おやおや。アホひなが誰を連れているのやら……」

「哲也兄さん。師匠の御子息にそんな言い方、ひどいわ。失礼じゃない!」


 ひな板、真性にひどく言われたのは俺ではなく、アホひなと呼ばれたお前なんだぞ。


 真性が、「何? この男、師匠の御子息なのか!」と、身体を退け反らせて驚愕するお決まりの反応を示す。嫌味じゃない。2年会わないうちに忘れてるだけ。バカなだけ。


「わっ、忘れてたの、哲也兄さん!」


 ひな板もそんなに驚くな。今にはじまることじゃないだろう。


 気付けば、俺たちの背後には行列。真性にあいさつしたい参加者たちだ。気が進まないが、俺がはなしを進めるしかなさそう。


「それはそれとして。哲也、今日はゴチになるぜ!」

「あぁ。『幾らでもどんどん盛られるいくら丼』もある。それに……」


 通称、幾丼。俺は、生唾を飲み込みながら「それに?」と、相槌する。


「……映えある『天才クラブ』発足パーティだ」

「……そうだったな。おめでとう! じゃあな……」


 このパーティはくだらない組織の発足式。建て替え給食費チャラで何でも食べ放題でなければ、俺なんかが来るところじゃない。




 威勢のいい「よいしょっ! よいしょっ!」のかけ声のなか、俺のお椀にどんどんいくらが盛られていく。一体どれだけ盛るつもりだ! これでは食べきれないではないか! もうあんなに溢れている。早く食べたい。お椀に手を伸ばす。


 と、横から真っ白な手がすぅーっと伸びる。女の手、仏像みたいなバランスのいい手。図書館で同じ本に同時に伸びてきて重なれば、87%は恋に落ちる手。違うのは、素早いこと。女の手は重ねる間も与えず、お椀を掴む。女はカツカツと歩き出す。持ち逃げだ。呆気にとられる俺。その醜態は真性よりバカっぽい。


 我に帰って、「おいっ!」と言いながら持ち逃げ女を追う。


 が、追いつかない。カツカツという音が俺の足に合わせて速くなる。これは、うっかり並んでいた人の存在に気付きませんでしたというわけではない。横入りだ! 明らかな犯罪! 俺はさらに速足で追う。コラッ!


「待って!」


 言えば持ち逃げ女が走り出す。


「待ってと言われて、待つ人はいない!」


 そうかもしれない。


 カツカツにカチャカチャとお椀と箸の音が混ざる。まさか食ってんのか? 許せん! 俺も走って追う。持ち逃げ女のふわふわな長い髪の揺れにはそこはかとない魅力があるが、騙されたりはしない。絶対に幾丼を取り戻す!


 数十秒後、持ち逃げ女の肩に手をかける。やわらかい感触が伝わってくる。


 一瞬、ドキッとしてしまう。持ち直して、

「おいっ。俺の幾丼、返せよっ!」

——思い知れ、食べ物の恨みは大きいことを。エンゲル係数に比例することを!

 と、言い放つ。


 持ち逃げ女はまだ口をもぐもぐさせながら、

「何のことでしょう……分かりません……」

 と、蚊のなくような声。


 お椀を見ると幾丼は跡形もなく消えている。全部、食われた。叫んでも幾丼が戻らないことは分かっているが、ギッと睨まずにはいられない。


「っきしょー!」


 そのとき——

 俺の全身に電撃が走った。瞳に吸い込まれそうになる。

 ——持ち逃げ女の顔を見た瞬間のこと。


 持ち逃げ女はなまだしあ、15歳。男だったら誰でも憧れる存在。世間的には天才美少女女優。俺の中では……何者なのか、このときはまだ分かっていない。

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