美しい梨

週寂

短編その1

 梨が欲しい?

 彼女は聞いた。ほぼ懇願したように。しかし、私は肯定的な答えをしなかった。彼女はすぐに堤防決壊のように泣いた。

 一つ食べていい、ねー、いい⁉


 彼女は素直で幸せだった。小さい頃から彼女の世界観はあまり変わっていない(私が言いたいことをご理解いただければ)。そして確かに、彼女は人を気遣うのが上手だとは言い難い。

 彼女は決して真の挫折経験がなかろうと私は思う。彼女が泣いてその梨を食べてほしいと心から懇願したものの、何も大切なものを失っていなかったので、その懇願にそれほど大変苦しめられたわけではない。


 彼女は私に非常にその梨を食べてほしかったのに、その別れる直前の瞬間に。


 その梨はこれらのことを知るはずがない。それは美しい梨かもしれないのに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

美しい梨 週寂 @Zhouji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ