07

 めちゃくちゃに疾駆した。


 もっと速く。背中から、巫女の意思が聞こえる。


 巫女から、催促されるまま。

 速度に身を委ねる。

 巫女の身体を乗せるには自分の身体は小さすぎたが、それも、いつしか気にならなくなっていく。

 海岸線。ひた走る。

 この速度。

 風と一体化したような、風と共に走っているような、感覚。潮の匂いは感じない。

 日が暮れる前に。

 海岸線。その場所に到着した。灯台と、ビル。環状道路と繋がっている、パーキングエリア。

 巫女が、背中を降りた。その動作で、巫女が背中にいたことを思い出した。重くなかった。いや、最初は重かったけど。いつの間にか、軽くなった。

 巫女。ふらふらと、風にあおられるような動き。もしかすると、本当に体重が減っているのかもしれない。

 ふらふらと手すりに手をかけて。


 身を。


 乗り出す。


 あぶないっ。


 とっさに巫女の後ろ足に噛みついた。衣服に無い牙をなんとかくっつけて、ぎりぎりで耐える。


 何やってんだこいつ。


 危ねえだろうが。


 牙。人の食べ物を食べているので、基本的に牙は人間の歯の半分程度の長さしかなかった。噛みつくことはおろか、歯形さえつかない。


 巫女。


 だんだん。

 重くなっていく。


 おいおいおい。


 なんだこれ。


 重いぞ。


 なんだこいつ。


 どうなってるんだ。


 夕陽のなかで、ひたすらに巫女を落とさないように、踏ん張る。なんだこれ。狛犬の仕事って、こういう感じなのか。顎が疲れてきたぞ。肉球も踏ん張りが利かなくなってきてる。巫女。頼むからよじ登ってきてくれ。


 陽が。


 沈んでいく。

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